又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

 サッカーで関西屈指の名門と呼ばれる高校に通っていた。 誰もがプロサッカー選手を目指す環境だったため、僕は誰にも「将来お笑い芸人になりたい」という夢を打ち明けることができなかった。
 高校に入学した時、同じクラスにサッカー部の岸野という男がいた。
 この男は凄く面倒臭い男で、「一緒にトイレに行こう」「食堂へA定食を食べに行こう」などと休み時間になる度に僕に何かを提案してきた。
 僕は、「一人で行くから」と断るのだが、「ほんまは寂しいくせに!」とか「友達できひんぞ!」などと見当違いのことを言って僕を困らせた。
 人の心にズカズカと土足で踏み込んで来る彼の厚かましさは、僕の人見知りの部分や思春期特有の孤独主義を簡単に打ち砕き、気が付いたら僕達は友達になっていた。

 ある日、練習が早く終わった午後に二人で帰る機会があった。
 ジャンケンで負けた彼が自転車をこぎ、勝った僕が荷台に座った。
 途中、淀川という大きな河の堤防に座り休憩した。
 彼に将来の夢を聞かれた。
 僕は迷ったあげく、「誰にも言わんといてな、芸人になりたいねん」と打ち明けた。
 すると彼は、「マッタンやったら絶対大丈夫や! 俺もマッタンは芸人になったら良いのにと思ってた」と言ってくれた。嬉しかった。
 「お前の夢は?」と聞くと彼は、「絶対に笑うから言いたくない」と言った。
 僕の夢を真面目に聞いてくれて後押しまでしてくれた彼の夢を僕が笑うはずがない。
 絶対に笑わんから聞かせてくれと言うと、彼は思い詰めたような深刻な表情で僕に言った。

 「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」。笑った。無茶苦茶笑った。

 こんな奴の前で真剣に将来の夢を語ってしまった自分が恥ずかしかった。
 彼は、「絶対に笑わんって言うたやん!」と怒っていた。
 彼は二年になると大学受験に専念すると言って、サッカー部を辞めた。
 そして、三年の時に「父親が、あと半年の命だから働かなければならない」と言って学校を辞めた。
 馬鹿だった僕達は皆で泣き、勉強したくてもできない彼の分まで全力を尽くさなければならないと懸命に勉強し学年の平均点を大幅にアップさせた。
 だが、嬉しいことに彼の父親は未だに生きている。

 僕は何とか芸人になった。

 君は大阪城に住めたのだろうか?

 君は今、どの屋根の下で暮らしているのか?

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

其ノ十九「私には、これくらいしかできませんので」(ジューシーズ児玉)

其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

其ノ十六「モグリなんじゃないかって噂になってたよ」(『若松屋』の常連さんの言葉)

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

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其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

其ノ十二「わしは生活かかっとんねん」(父の言葉)

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

其ノ十「速く行け! ええから走れ! 全員抜いてこい! ぼけっ!」(サッカー部の先輩平田さんの言葉)

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

帯

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