又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

 去年くらいから、少しずつテレビに出られるようになったけれど、僕に関して言うと、ただ運が良かっただけに過ぎない。

 この世界に入って今年で12年目。10年以上は劇場中心の生活が続いた。そんな暮らしを特に苦しく思ったことは無かったけれど、お金が無いので落ちている物を拾って食べたり、余り物を恵んで貰ったり、風呂が無いので共同の水道で洗髪したり、塗れタオルで身体を拭いたりしながら生きながらえてきた。

 才能のある同期や後輩が次々と世に出て行き、劇場の楽屋でも随分と自分は年長になった。それでも更に先輩もいたから常に不安を掻き立てられようなことはなかった。

 売れている同期や後輩がタクシーで帰って行くのを横目で見ながら歩いて帰ることも度々あったが、仕事において嫉妬のような感情を抱くことはほとんど無かった。

 世に出て行く皆のことが好きだったし、そんな自分に対して大きな期待もしていなかった。

 しかし、そんな呑気さだけが取り柄のような僕でも当時のっぴきならない状況に陥ったことがある。

 先輩のハイキングウォーキング、同期の平成ノブシコブシ、後輩のイシバシハザマ、そして我々の4組でラ・ゴリスターズというユニットを組み活動していたのだが、ハイキングウォーキングが周知の通りブレイクし、平成ノブシコブシも脇を鳴らす芸で深夜番組に出始め、イシバシハザマもネタ番組には必ず呼ばれるようになり、あろうことか相方さえもピンでレギュラー番組を持ち、僕はユニット内で一人だけ取り残されてしまった。
 困ったのは、捨てきれない自分の自尊心と自意識過剰な精神だった。

 特に実家に帰った時など、家族はこの状況をどのように思っているのだろう?と思うと才能の無い長男を持った家族が不憫でならなかった。

 そんなある夜、他の家族が寝静まった実家のリビングで姉と二人きりになった。なんとなく気まずくて、その場を取り繕うために、『いやぁ~、皆売れちゃってさぁ、なんで俺だけテレビに出られへんねやろ?』とヘラヘラ笑いながら言ってみたら、思いのほか姉が腕を組んでしばらく考え込み、ようやく顔を上げて、『あのさぁ、直樹は……面白すぎるんじゃないの?』と言った。

 そんなはずは無い。面白かったらテレビに出ているはずだ。

 僕にとっては世界で一番哀しい言葉だった。

 帰りの新幹線で思い出したら、なんか妙に笑えてきて、『よし、俺もそろそろ本気出すか』と小学生のようなことを真面目に思っていた。

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

其ノ十九「私には、これくらいしかできませんので」(ジューシーズ児玉)

其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

其ノ十六「モグリなんじゃないかって噂になってたよ」(『若松屋』の常連さんの言葉)

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

其ノ十四「おひとりで、よろしいですか?」(京都のタクシー運転手)

其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

其ノ十二「わしは生活かかっとんねん」(父の言葉)

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

其ノ十「速く行け! ええから走れ! 全員抜いてこい! ぼけっ!」(サッカー部の先輩平田さんの言葉)

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

帯

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