又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

 極貧ではなかったが裕福でも無かったので幼い頃、サンタが家に来てくれたことは無かった。

 七歳のクリスマスは、「なぜ自分の家にだけサンタが来ないのだ」という強い疑問を感じ、サンタが家に入りやすいよう窓を全開にして眠った。

 同じ部屋で眠っていた二人の姉が「寒くて眠れない」と母に苦情を言ったため、「風邪をひくから窓を閉めなさい」と母に当たり前のことを言われた。だが僕は反抗した。窓を閉める気はないと強く主張した。

 その時、僕の身体は小刻みに震え芯まで冷えきっていたので、出来ることなら僕も早く窓を閉めたかった。僕は、我が家にだけサンタが来ないという事実に対して反抗していたのだ。

 母は「サンタは大人だから鍵だけ開けとけば入ってこれるで」と現実的なのか非現実的なのか解らないことを言って、僕は風邪をひかないよう、それに納得したふりをした。さすがの両親も焦っただろう。息子がサンタが来ると信じて眠っているのだ。

 次の日、目が覚めたら枕元に茶色い紙に包まれたプレゼントが置いてあった。サンタが来たのだ。僕は急いで、だが丁寧に紙をあけた。

 ラジコンだった。嬉しかった。茶色い紙にサンタからメッセージが書いてあった。「父より」と。

 サンタじゃなかった。演出力が乏しい父からだった。まぁ、まぁいいか、と出かけた言葉を飲み込み、沈みかけていた喜びの感情を必死で奮い立たせた。それ以来、サンタクロースが我が家にプレゼントを持って来るという幻想を抱いたことは無い。

 月日が流れて中学二年の冬。サッカー部の練習が終わりボールを片付けていると、「いや~! 坂本サンタクロース信じてんねんて~!」とチームメートの坂本君を揶揄する声が聞こえて来た。坂本君は「信じてないわ! サンタなんておるはずないやろ!」と否定していた。坂本君は中学二年のわりには子供っぽい部分がある変わった奴だった。

 本当だとしたら凄いなと思い、「別にサンタ信じててもええやん」と坂本君をからかう皆に何となく言ってみた。話題は直ぐに別のことに移り、一球だけいつまでも見つからないボールがあったのでそれを皆で探していた。

 どこにもないので校庭の隅にある小さな草むらを探してみようと思い一人で歩いていると後ろから坂本君がついて来て、ニヤニヤしながら「本気で信じてないと、サンタ来てくれへんのにな」と言った。

 坂本君はサンタクロースの存在を本気で信じていた。僕が坂本君をかばったものだから、僕もサンタクロースを信じていると思ったのだろう。僕はサンタなんて信じて無かった。プレゼントは無理をした不器用な父がくれるものだと思っていた。坂本君の言葉は僕にとってはあまりにも眩しすぎた。

 僕にとっては、サンタを本気で信じている中学二年なんてサンタクロースよりも幻想的だった。

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

其ノ十九「私には、これくらいしかできませんので」(ジューシーズ児玉)

其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

其ノ十六「モグリなんじゃないかって噂になってたよ」(『若松屋』の常連さんの言葉)

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

其ノ十四「おひとりで、よろしいですか?」(京都のタクシー運転手)

其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

其ノ十二「わしは生活かかっとんねん」(父の言葉)

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

其ノ十「速く行け! ええから走れ! 全員抜いてこい! ぼけっ!」(サッカー部の先輩平田さんの言葉)

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

帯

『アクチュール』トップへ

ページトップへもどる