又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

 ここ数年、日々のストレスを食べることで解消してきた。そう言ってしまうと、やけくそのように思われるかもしれないが、精神的には健康で大きな進歩だったと思う。
「舌打ち」は「はまち一貫」に代えた。
「溜め息」は「ねぎタン塩二枚」に代えた。
「嗚咽」は「豚の角煮」に代えた。
「叫び」は「麻婆茄子」に代えた。
 こんな方法があるなんて知らなかった。これで全て上手く行くと思っていた。
 しかし、気が付くと僕は標準体重を大きく上回り太ってしまっていた。身体は重く、階段を上るだけでしんどい。息が切れる。座っているだけでお腹が苦しい。
 周囲からも太っていることを指摘されるようになった。そんなタイミングに番組の企画の一つとして、一ヶ月で痩せなくてはならないという状況になった。
 ジムに通い、専門のトレーナーの方に付いて貰った。
 トレーナーの話は興味深いものが多かった。
「又吉さん、パワーがある動物ってなんですか? そうですねゴリラパワーありますよね。ゴリラ肉食べてます? 食べてませんよね? 果物だけなんですよ、それであれだけパワー出るんです。人間も一緒です。果物だけで大丈夫なんです」
 確かにそうだ。凄い説得力がある。
 言われた通り、食事制限を始めた。基本的には果物と野菜だけを食べ、二日に一度だけ蕎麦を食べた。おかげで都内の美味しい蕎麦屋を多数覚えるという思わぬ収穫があった。
 しばらくすると、わかりやすく痩せてきた。
 そんな生活を続けて行くと、味覚が異常に冴えて、普段美味しく食べていた蕎麦つゆでさえも濃く感じるようになった。サラダのドレッシングも、濃過ぎるように感じる。
 それをトレーナーに言うと、「いよいよ、その段階に来ましたか。良い傾向です。身体に必要じゃないものは受け付けないんですよ。試しにコーヒーを一口飲んでみて下さい。濃過ぎるはずですよ。」と言われた。
 実際に一口だけ飲むと、確かに濃く感じた。コーヒーどころか、水でさえも種類による味の違いがはっきりと解るようになった。
 楽屋にポテトチップスのコンソメ味が置いてあった。普段から味の濃いポテトチップスコンソメ味を今のこの状態で食べたらどうなってしまうのだろう。吐いてしまうんじゃないか? 好奇心から恐る恐る一枚を手に取り口に運んだ。もの凄く美味しかった。「いや結局ポテトチップスは美味しいんかい」と思った。
 どの現場でも、みかんばかり食べている僕を見て、色々な人が「果物だけじゃ、お腹すくでしょ?」と声をかけてくれた。
 その度に僕はトレーナーが言っていた通り、「パワーがある動物ってなんですか?」という魅惑的なセリフから始まる、ゴリラは果物だけでもパワーがある説を自信満々で披露した。
 みんな、「なるほど、俺も始めようかな」などと過剰に反応してくれた。
 ただ一人をのぞいて。

   ハライチというコンビで活動する岩井と現場が一緒になった。
 岩井に「又吉さんダイエットしてるんですか?」と聞かれたので、ゴリラは果物だけでパワーがある説を披露したくて仕方がない僕は、「果物しか食うてないわ」という言葉で岩井を誘ってみた。
 すると岩井は、「果物だけじゃ動けないでしょ?」と僕の誘いに案の定乗ってきた。
 いつものように僕は、「岩井君、パワーがある動物ってなに?」と聞いた。
 岩井は、「ライオンですかね」と答えた。
 ライオンできやがった。
「まぁな、ライオンもパワーあるかな、他は?」
「ゾウですかね」
「うん、でもゾウは大きいからな、また違うやん」
「あ~、ゴリラっすかね」やっとゴリラが出てきた。
「ゴリラパワー凄いやん!なぁ、でもゴリラは果物しか食べへんねん。それでも、あれだけパワーあんねん」ようやく、いつものパターンに持ち込めた。
 すると岩井が、「いや、ゴリラ太ってんじゃないっすか」と言った。
 確かに痩せてはいない。ゴリラを目指してはいけない。
 岩井は一筋縄では行かない。しかし、先入観や価値観を崩壊させる一言を放てる人は好きだ。

 ダイエットは成功した。しかし、恐らくリバウンドはするだろう。

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

其ノ十九「私には、これくらいしかできませんので」(ジューシーズ児玉)

其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

其ノ十六「モグリなんじゃないかって噂になってたよ」(『若松屋』の常連さんの言葉)

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

其ノ十四「おひとりで、よろしいですか?」(京都のタクシー運転手)

其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

其ノ十二「わしは生活かかっとんねん」(父の言葉)

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

其ノ十「速く行け! ええから走れ! 全員抜いてこい! ぼけっ!」(サッカー部の先輩平田さんの言葉)

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

帯

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