又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

 ジャズは即興性が高く、アドリブがふんだんに放り込まれた音楽なのだと聞いたことがある。
高円寺のコンビニで深夜バイトをしていた時、一緒に入っていた先輩が『地元の友達が祭りに行って狐に憑かれた』という話の次に、聞かせてくれたのがジャズの話だった。その人はロックバンドを組んでいたが、「ジャズが一番格好良いんだ」と眼を輝かせながら語っていた。
 アドリブという言葉には馴染みがあるが、一応いくつか辞書をひいてみると、おおむね『脚本にない台詞を言うことであり、音楽に於いては楽譜にない演奏をすること』というような説明があった。
 ほとんどの人が、このような使い方をしているし間違いではないと思うが、厳密に言うと、『脚本や楽譜にないことを言う』という説明では不正確だと思う。事前に脚本を読んでいれば、書いていないことだったとしても前もって考えることが出来てしまう。

 その場の雰囲気や予期せぬアクシンデントに対して咄嗟に反応し出てきた言葉や所作がアドリブなのだと思う。だから、突然脚本に書いてなかったことを言われた人が咄嗟に返す言葉は間違いなくアドリブだろう。
 初めから脚本や楽譜などなくて、その場で感じたままにやるのは文句なくアドリブと言えるだろう。
 そもそも、なんのためにアドリブというものがあるのか、その点について僕と認識が違う人が結構多い。
準備していないのに経験や感性から即興で見事にこなしてしまう達人技を見せびらかすためにやるのがアドリブではない。と僕は思っている。
 その瞬間、用意されていたものを越える、或いは越えそうと判断されるものを咄嗟に選択することこそがアドリブなのだ。と僕は思っている。

 自分の頭の中で考えるのには、どうしても限界がある。自分の知識や経験からしか答えを導き出せないから自分の枠の外に出るのは難しい。
 自分の枠の外に出るためには、外部からの刺激を受ける必要がある。例えば俳句は季節や旅の中で見たものが、その外部の刺激となり自分では思いもよらない発想にめぐまれることがあるらしい。
 僕の職業で言うと、アクシンデントやハプニング、或いは大喜利のお題などが自分の枠の外に出るための装置になっているのだろう。
 だから、アドリブというのは自分の首を絞めるものではなく、自分の能力を越える何かを生み出せる可能性を持つ行為なのだ。もちろん失敗することも多いから、基本的には決まったことをやる方が楽だという人の方が多いかもしれないが。
 少なくとも僕は、自分のちっぽけな範囲に収まるものに興味が一切無いので、外部からの刺激を絶えず求めている。
そのためだろうか、ジャズという言葉に、音楽にドキドキしてしまう。

 ジャズヴァイオリニストの女性と番組のロケでお会いする機会があった。僕は相方と一緒に、その方の家にお邪魔して色々と見せていただくという企画だった。
その方が、ヴァイオリンで僕がリクエストした『贈る言葉』を弾いてくれた。まずは普通に弾いてくれたのだが、泣けるくらい素晴らしかった。
「次はアドリブで弾きます」と言って、アレンジしながら即興で弾いてくれたのだが無茶苦茶格好良かった。
その方は最後に「今から、この場の空気に合わせて、自分でも二度と同じようにできないのをやります」と宣言し弾いてくれた。
 もはや、『贈る言葉』では無いようでもあったが、紛れもなく『贈る言葉』でもあって、とにかく圧倒的で最高だった。
 ジャズって凄いと思った。アドリブで響いた音に反応し、またアドリブが生まれ、それが連鎖して聴いたことのないような不思議で迫力があって美しい旋律になるのだろう。
そのあとのトークで、相方が「これだけ綺麗で仕事でも活躍されているのに、なぜ結婚しないんですか?」と質問した。
その方は、ヴァイオリンに全てを捧げているからだとおっしゃった。もし結婚して一緒になった男性のこともヴァイオリンと同じように愛したら、ヴァイオリンのための時間や体力が半減するかもしれないとおっしゃった。
 格好良いと思った。覚悟が凄いと思った。
 その言葉を聴いた僕は、「でも人生もジャズですから、なにが起こるかわかりませんけどね」と軽薄なふりをしながらも実は本気で感じたことを言ってみた。
 すると、そのジャズヴァイオリニストは僕の発言に対して微笑みながら親指を立てて「Good Sound」と言ってくれた。
とんでもなく、お洒落なツッコミだ。
「Good Sound」僕が人生で受けたあらゆるツッコミの中で、最もお洒落なツッコミだった。
 さすがジャズマン、アドリブに滅法強い。

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

其ノ十九「私には、これくらいしかできませんので」(ジューシーズ児玉)

其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

其ノ十六「モグリなんじゃないかって噂になってたよ」(『若松屋』の常連さんの言葉)

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

其ノ十四「おひとりで、よろしいですか?」(京都のタクシー運転手)

其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

其ノ十二「わしは生活かかっとんねん」(父の言葉)

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

其ノ十「速く行け! ええから走れ! 全員抜いてこい! ぼけっ!」(サッカー部の先輩平田さんの言葉)

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

帯

『アクチュール』トップへ

ページトップへもどる