又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

 僕の心に強く刺さる言葉というのは、歴史と人生に裏打ちされた核心を捉えた渾身の一撃か、或いは常識を悠々と越えてくる純度の高い本能的な言葉かである。

 前者は本の中で出会う事が多く、後者は日常の中で出会う事が多い。

 数年前に山登りのファッションを紹介するロケ番組に出演させていただいた。僕と相方が司会進行役として山道の途中に机と椅子を並べて待機している。そこに最新の登山服を来たモデルさん達が次々と歩いて通るのを見るという内容の少々マニアックな番組だった。
 解説として登山を専門に扱った雑誌の編集者の方がゲストで来て下さった。気負いのない柔らかな雰囲気に包まれた小柄な女性だった。その女性は収録現場に大型バイクで登場した。小柄な女性が大型バイクに乗っている姿ほど、魅力的なものは中々ない。更に欲を言うと、いかにも大型バイクを乗りこなしそうな服装の女子ではなく、原付バイクの免許も持っていないような、例えば無印良品とかスターバックスでアルバイトをしてそうな服装の女子だと最高に良い。裏切られたという快感を与えてくれるという喜びもあるが、自分とは違う世界の文化にも好奇心を抱き、飛び込んで行く前向きな心に惹かれるのだ。その感覚が自分には無いから。
 そして、その編集者の方は正しくそれに当てはまる女性だった。

 現場は山なので蚊が多く、カメラマン、音声さん、ディレクター、ADさんが至るところで自身の血を吸おうと寄って来た蚊を叩く「パチンッ」という音を響かせていた。
 そんな状況でも、その女性は動じずに静かに佇んでいたので、収録が始まる前から蚊に刺されまくっていた。散々、刺された挙げ句に相方から「大丈夫ですか?」と聞かれると、ゆっくりと「蚊がいるんですかね」とつぶやいた。
 仮に、蚊がいないとしたらスタッフさんや僕達は何故に自身の身体をパチパチと叩いているのだろう? ラグビーのオーストラリア代表が試合前に精神を鼓舞するため身体を叩く例のやつや、高見盛が取り組み前に気合いを入れようと顔を叩く例のやつを僕達も収録前にやっていると思ったのだろうか。
 収録が始まった。登山服のトレンドに関しては、やはり専門家なので編集者の女性は大変興味深い内容の解説を聞かせて下さった。
 収録の合間に休憩があった。出演者、スタッフ、技術ともに椅子に座り茶を飲んで会話をしていた。編集者の女性は自分が積極的に話すわけではないが微笑みながら皆の会話を聞いていた。そして唐突にスタッフ技術一同を見渡すと、「あのぉ、皆さん、ご家族なんですか?」という衝撃の一言を発したのである。普段あまり、人の間違いなどを指摘しない僕さえも反射的に、「そんなはずないでしょ!」と言ってしまった。
スタッフさん達も、呆気に取られていたが、しばらくすると皆笑い出した。何故そう思ったのかを聞いてみると、編集者の女性は、「皆さん仲良さそうですし、息がぴったりなので、ご家族でお仕事をされているのかなと思いまして…」と答えた。
 なんと平和な発想だろう。仲が良さそうだから家族だと思ってしまうとは。これこそ常識を悠々と越えてくる純度の高い本能的な言葉だと思う。
 しかし、番組の出演者、スタッフ、技術が皆家族だったならば、凄く愛が溢れていて楽しくて、そして、一つも面白くない番組が出来そうだ。出演者は子供達。ディレクターはお父さん。カメラマンはお祖父ちゃん。番組の趣旨に関係無くお祖父ちゃんは孫の姿ばかりを追ってしまうだろう。音声はお祖母ちゃん。少しだけ耳が遠くなっているから、「えっ?聞こえないよ?」と言って、孫達は何度も同じ台詞を繰り返さなければならない。そして視聴者は、もちろんお母さんだ。
 お母さんは、ピントがずれながらも我が子の姿を追う映像に釘付けとなり、我が子が何度も言わされている、「お母さん、お誕生日おめでとう!」の言葉に涙する。とても平和で美しく温かく楽しい番組になることだろう。
 そして、そんな番組は家族の他は誰も見る事がないだろう。

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

其ノ十九「私には、これくらいしかできませんので」(ジューシーズ児玉)

其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

其ノ十六「モグリなんじゃないかって噂になってたよ」(『若松屋』の常連さんの言葉)

其ノ十五「皆さん、ご家族なんですか?」(山に詳しい女性編集者)

其ノ十四「おひとりで、よろしいですか?」(京都のタクシー運転手)

其ノ十三「Good Sound」(あるジャズヴァイオリニストの言葉)

其ノ十二「わしは生活かかっとんねん」(父の言葉)

其ノ十一「ゴリラ太ってんじゃないっすか」(ハライチ岩井)

其ノ十「速く行け! ええから走れ! 全員抜いてこい! ぼけっ!」(サッカー部の先輩平田さんの言葉)

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

帯

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