ミルクの中のイワナの映画専門家レビュー一覧

ミルクの中のイワナ

“神秘の魚”イワナの生態を通じて、人間と自然の関係に迫ったドキュメンタリー。謎の多いイワナの生態系がいま、危機に瀕している。SDGsや生物多様性が叫ばれる昨今、“種を守る”とはどういうことか、地域社会と環境をいかに保全すべきなのか……。国立研究開発法人水産技術研究所の中村智幸、東京大学大気海洋研究所教授の森田健太郎、ミュージシャンの宮沢和史らが出演。監督は、岩手県・遠野市を舞台に、死生観をテーマにした映像作品『DIALOGUE WITH ANIMA』などを手掛けた映像作家の坂本麻人。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    イワナについてのドキュメンタリーと聞いて、ネイチャー番組的なものを想像すると、意外なギャップに驚く。研究者、漁協参事、料理店の主人といった人々のインタビューを通して、イワナを取り巻く現状を多角的に描いていく内容が興味深い。環境問題全体にも関わる多くの示唆も与えてくれるが、だとしても、肝心のイワナの映像が少なすぎる。人間ばかり映しすぎ。鳴りっぱなしの音楽も、スローモーションの美しい映像(それもやっぱり人間主体)も、作品に必要だったかというと疑問。

  • 映画評論家

    北川れい子

    タイトルに使われている言葉の意味を、このドキュメンタリーで初めて知ったのだが、独特な進化を遂げたという渓流魚・イワナのルーツやその現状を記録した本作、実に面白く観た。タイトルにピッタリの知的な詩情とロマンがあり、渓流の流れや水中映像がまた美しい。そしてイワナほかの渓流魚について、さまざまに語る研究者や専門家の方々の、穏やかで分かりやすい言葉。切り口を変えた章仕立ての進行も効果的。ダムには“魚道”があることも今回初めて知った。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    釣りにもイワナにも興味がない身としては、釣りキチの綺麗事ではないかと斜めに構えて観始めたが、食と生命を真摯に考える人たちの語りに引き込まれていく。大量に釣ってから川へ戻して生態系を維持しましょうなどと言うのは勝手な屁理屈にしか思えなかったが、そうした疑問にも答えてくれる。獲り過ぎて翌日になると魚がいなくなっていた経験を語る宮沢和史が、それを大量殺戮、沖縄地上戦のようと形容することに驚くが、決して大げさではないことがわかるようになっている。

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