汚れ役、悪役に果敢に挑んでいる!?『不能犯』をきっかけに、“俳優・松坂桃李”の今の思いに迫る

2018年1月15日


撮影=小倉亜沙子


―「不能犯」とは、思い込みやマインドコントロールで殺すなど、目的こそ犯罪だが、常識的に考えて実現が不可能な行為のことを指す。今回、松坂が演じた宇相吹は、電話ボックスに残された殺人依頼を受け、その特異な能力を使って人々の願いを叶える男だ。人を死に至らしめるにもかかわらず、その証拠が残されることはなく、そもそもどうして死んだのかが立証できない。というわけで、次々と殺人依頼に応えていくことになるのだが……。「生まれも経歴も不詳で常にスタイリッシュな黒スーツをまとい、赤く光る目で見つめるだけで、人の心を操る。そんな宇相吹役を自分に、とお話をいただいた時は、意外というよりも、ありがたいなと思いました」と松坂は語る。

「何より原作のコミックを読み始めたら、もう夢中になってしまって。宇相吹が殺人依頼を遂行していく1話完結モノのような感じで、どんどん読み進めることができたんです。これを実写化したら面白いに違いないと思いました」  
 
本当の悪人は誰なのか?

映画「不能犯」より ©宮月新・神崎裕也/集英社


―もともと悪役を演じることに興味があったのだろうか。

「僕自身になんらかのパブリック・イメージというものがあるとしたら、それを固定させないような仕事をし続けたいとは、ここ5年ぐらいでしょうか、考えてはきました。〝悪役〟にももちろん興味はあります。ただ、今回の宇相吹については〝悪役〟と捉えていないんです。いわゆるダークヒーローなのでしょうが、僕自身は、あまりそうも決めつけてはいなくて。宇相吹が悪で、彼に立ち向かう刑事側が善―と単純化して考えるようなものではないのかなと。そもそも〝この人を殺して欲しい〟と頼む人間がいなければ、宇相吹が不能犯になる必要もないわけですしね。そう考えていくと、果たして本当に悪い人は誰なのかって。だからいわゆる〝悪役〟とは言い切れない。原作を読んだ時も演じている時も、僕はそう理解していました」

人間が悪になる時

映画「不能犯」より ©宮月新・神崎裕也/集英社

―スリラーだけにネタバレになるので詳しくは書けないが、確かに善と悪に対して、不思議な感覚を抱かせる映画だ。それはおそらく、宇相吹自身には、いわゆる殺意だったり、その原因となる憎しみや嫉妬といったネガティヴな感情がないからではないか。たとえば映画の冒頭、携帯電話で凄む男のもとへ、宇相吹が近づいていき、ガムシロップを注いだグラスの水を顔に浴びせ「その匂い、スズメバチが好むんです」とつぶやく。いきり立つその男。しかし、宇相吹の赤い目に魅入られ、彼がテーブルに置いた瓶の蓋を開けると、スズメバチの大群が! それを見て男は悶絶し、絶命する。しかしながら、実際にはスズメバチなど存在していない。すべては男の思い込みで、それによって命を落とすのだ。その様子はまるで、自分が殺されたがっているようにも受け取れる。

「そうなんです。もちろん、宇相吹にはマインドコントロールの力があるけれど、この状況を見ると、男が自らを死に至らしめたともいえる。だから僕には、宇相吹だけが悪人とは思えないんです。むしろ、殺人を依頼する人のほうに、アイツが憎い、悔しい、殺したいっていう強い思いがあるわけなので。僕が考えるに、誰にでも心の持ちようのボーダラインというのがあって、嫉妬や憎しみ、欲というものが、そのラインを超えた瞬間、悪い感情だけが前面に出てきてしまう。その状況になった時に、人間は〝悪〟になるのだと思うんです」

―おだやかな口調でそう分析する松坂自身には、悪になるような要素、嫉妬や欲はまるでないように見えるのだが。

「そんなことはないですよ(笑)。映画や舞台を見て〝いいなあこの作品〟とか〝自分も出たかったな〟と思いますし、羨ましく思ったり、嫉妬することも普通にあります。ただ、それを表に出したところで、いいほうには転がらないとも思ってはいて。もちろん、そういったネガティヴな感情があってこそ人間なわけですし、そういう感情から目を背けたくはないのですが、それを前面に出してしまうと、今、自分の目の前にあることと向き合い切れなくなってしまう。ちゃんと前向きにやるべきことをコツコツと積み重ねることが、結局は自分が満足する一番の近道だと思うんです」


「不能犯」(2月1日(木)公開)
監督・脚本:白石晃士 原作:宮月新/画:神崎裕也 脚本:山岡潤平 出演:松坂桃李、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗、矢田亜希子、安田顕、小林稔侍
配給:ショウゲート ©宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

取材・文:宇田夏苗
製作:キネマ旬報社

記事全文は、こちらから↓
http://www.kinejun.com/book/detail/tabid/89/Default.aspx?pdid=%20kinema_No.1768