謎の美女失踪…次々に闇へいざなう話題作を徹底解説『アンダー・ザ・シルバーレイク』

2018年11月5日

(C) 2017 Under the LL Sea, LLC

謎の美女失踪…次々に闇へいざなう話題作を徹底解説『アンダー・ザ・シルバーレイク』

 

犬殺し、億万長者の失踪、若い女優志願の娼婦、暗号めいた歌詞をうたうロックバンド、そしてカルト教団の暗躍…。カリフォルニアの光と影に彩られた夢うつつのエピソードに加え、ポップカルチャーをはじめとした膨大なイメージがちりばめられた『アンダー・ザ・シルバーレイク』をどう読み解けばいいのか? 映画、写真、音楽、ファッションなど、さまざまなカルチャーに精通し、ジャンル越境的な評論で知られる伊藤俊治と菊地成孔が大いに語り合う。

伊藤俊治(以下、伊藤) まずポスターが象徴的ですね。シルバーレイクというハリウッドの人工湖に、女性が沈み込んでいき、細かな泡の粒が沸き立っている。実際に映画のなかに登場するシーンとは違いますけれど。シルバーレイク(銀の湖)という地名がすでに銀色(銀塩)のフィルムの記憶を呼び起こし、ハリウッドの希望と不安を貯め込んだ水のなかに人間が飲み込まれていくというイメージを喚起する。泡の粒をよく見てみると、一種のサブリミナルのようになっていて、十字架やバルーン・ガール、ジェームズ・ディーン、あるいは“sex”という文字などが浮かび上がってきます。このポスターが象徴するように、映画のなかにさまざまな要素が隠しコードのように含まれていて、それを一つひとつ読み解いていくだけでも楽しめますね。

陰謀史観と新興宗教

 

 

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菊地成孔(以下、菊地) 久しぶりに出た陰謀史観映画ですね。陰謀が解かれていって、カルト宗教みたいなところまで行き着く。「わあ、こういうの久しぶりだなあ」って懐かしい感じで観てました。この物語自体はいまの話なのに、全体に70年代テイストがあふれているでしょう。もちろん70年代をキーワードにした映画は、最近でも『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年)とかいろいろあるんだけど、あれなんかはコダックのキャメラとヴィンテージレンズを使ってきっちり撮影し、風俗も含めて忠実に再現する感じですよね。時代考証もしっかりしてるし。

それに対して、この映画は「気分」としての70年代映画なんですね。ロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』(1973年)や『三人の女』(1977年)あたりのテイストも感じられる。『ロング・グッドバイ』は、レイモンド・チャンドラー原作なんだけど、全体が陰謀史観めいていて、メインとなる事件がどういうものであるかはよくわからない。あとは誰もが指摘するだろうけど、デイヴィッド・リンチとヒッチコックの影響が濃いですね。

 

 

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伊藤 新興宗教は重要なキーワードでしょうね。やはりハリウッドの内幕を描いたジョン・シュレシンジャーの『イナゴの日』(1975年)もそうでしたが、この映画で起こる事件にもすべて新興宗教が関与している。〈イエスとドラキュラの花嫁たち〉とか〈フクロウのキス〉とか、怪しげな集団が闇のなかでうごめいているイメージ。まさに菊地さんのおっしゃる陰謀史観ですが、セックスと宗教と映画が三位一体となって成立したハリウッドという街の裏地のようなものが、夢うつつの朦朧状態のうちに描かれていると思います。

実際、アメリカの西海岸を発祥地とするジム・ジョーンズの人民寺院事件や、チャールズ・マンソンによるシャロン・テート殺人事件、当初はドラッグの研究所だったものがやがて宗教団体に変わっていったエサレン研究所、あるいはサイエントロジーなど新興宗教にまつわるさまざまな出来事がこの映画にはネットワーク的に張りめぐらされている。パラノイアックな集団死への衝動であるとか、抑制の利かない性欲であるとか、カタストロフィの待望であるとか、新興宗教に共通するタームがうまい具合にちりばめられているなという気がします。

狂信的な空気がハリウッドには依然として存在

 

 

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菊地 ただ、最後にはっきり真相が出てしまうのが意外だった。あそこまではっきり描くと、陰謀史観というよりはやっぱり探偵ものになってしまう。あの絵面はホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』(1973年)に似てますね。巫女(みこ)っぽい人たちがオスカー・シュレンマーのような構図で並んでて……撮影のマイケル・ジオラキスの力もあると思いますけど。ヘヴィメタルとか吸血鬼ものの文脈も汲んでいるし。ただ、ああいう集団が具体的にどんなことをしているかは明確に描かれない場合が多いんだけど、この映画の場合はもうマンガのように明かされる(笑)。『マルホランド・ドライブ』(2001年)なんかが好きな人にとってはたまらないものがあると思うけど、リンチの映画があらかじめ統合失調的に破綻しているのにくらべると、これは異常にわかりやすい。

伊藤 アメリカでも新興宗教やカルト集団はともすれば過去のことと思われがちだけれど、決して一部の狂った人たちが突発的に起こした例外的な出来事ではないんですよ。その種の狂信的な空気がハリウッドには依然として存在していて、それはさまざまに形を変えながら、これから先も現れてくるだろう、と。カルトの信者は一種の情報病でもあって、それを生む土壌は決してなくなりはしない。デイヴィッド・ロバート・ミッチェルはそこから生じる矛盾に満ちた複雑な人間存在を深く認識している監督だと思います。

対談の続きは『キネマ旬報』11月上旬号に掲載。今号では、『アンダー・ザ・シルバーレイク』の特集をおこなった。伊藤俊治と菊地成孔による対談をはじめ、本作の監督への取材などもおこなった。(敬称略)

取材・文=佐野亨/制作:キネマ旬報社

『キネマ旬報』11月上旬号の『アンダー・ザ・シルバーレイク』特集の詳細はこちらから↓

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