『2001年宇宙の旅』でも話題!映画を進化させたUHDの実力とは?

2019年2月12日


『2001年宇宙の旅』 (C) 1968 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『2001年宇宙の旅』でも話題!映画を進化させたUHDの実力とは?

特別対談
麻倉怜士(オーディオ・ビジュアル評論家)×樋口真嗣(映画監督)

文=岡崎優子

ブルーレイを進化させた「Ultra HD Blu-ray」(以下、UHD)が2016年に登場してから丸2年。現在、300タイトル以上が揃い、市場規模も順調に推移している。新作はもちろん、昨年末には製作50周年を記念し新たにプリントされた70ミリフィルムを基に製作された『2001年宇宙の旅』UHD版がリリースされ話題になるなど、強力なビッグタイトル、画質力・音質力・作品力の高い作品が市場を牽引している。

そこで、自身も『シン・ゴジラ』のUHD版をリリースした樋口真嗣監督と、オーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏に最近の気になるソフトをご用意いただき、4Kが作り手あるいは観客にどんな変化をもたらしたのか、その実力について語り合っていただいた。

昨年話題を集めた『2001年宇宙の旅』の実力


『2001年宇宙の旅』
(C) 1968 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

麻倉 『シン・ゴジラ』で樋口監督もUHD版を作られましたよね?

樋口 原版が2Kなんですけどね。4Kマニアになる前だったので、今だったらもっと取り組み方が違うと思います。

麻倉 その後、4Kマニアになった?

樋口 はい。マッハ掌返しで宗旨替えです(笑)。

麻倉 では、まずは『2001年宇宙の旅』から。昨年は製作50周年で、国立アーカイブで70ミリ上映、NHKで8K放送、年末には4KのUHD発売と、まさに「2001年祭り」でした。まずはブルーレイと4K版の違いを観ていきましょう。

樋口 おぉ、これを観たらブルーレイがVHSの3倍モードにしか見えなくなりますね。元に戻れなくなる。どんなに頑張っても無理です(笑)。

麻倉 部屋の入り口に書かれた文字もはっきり見える。トイレの使い方が真面目に書かれていて、美術の仕事がよく分かります。

樋口 実はこの作品、恐ろしいほどに写真アニメみたいな作り方をしているんです。いくつかの宇宙船(スペースシャトル・オリオン号や月面着陸船エアリーズ号など)はミニチュア模型を撮影した写真に影を描き足して線画台で再撮影したもの。動くと普通ズレがあるんですが、これは全くない。離れても影や奥の翼の関係が変わらないでしょう? 4Kで見ちゃうとサルが投げた骨が進化する(笑)。人工衛星も板にしか見えない。これまで誤魔化しがきいていたのが分かってしまった。これは衝撃でした。

麻倉 宇宙船の中の人間も非常にクリアで、音も力強く、リアルになって背景の音がよく聞こえます。

樋口 リストアの技術もあるのでしょうが、それに対応できる受け皿が凄い。50年前の映画なのにそれでもまだ十分耐えられる。

麻倉 65ミリのフィルムですから情報量も圧倒的。宇宙船内は全部白ですが、奥行き感があって壁と床の白が違う。赤い椅子も布の質感がよく出ていて、作り込んでいるのが鮮明に分かる。映画がまさに迫ってくる特徴があります。

樋口 恐らく撮り方も広角レンズを使い、パンフォーカスしているから情報も余すことなく入っているんでしょうね。

麻倉 製作者の想いが4Kから伝わってくる。

樋口 映画が選ばれるんですよ。4Kに選ばれる映画がこうして観られるんじゃないかって。

劇場版よりUHD? 『ハン・ソロ』での発見


『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
(C)2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. (C) 2018 & TM Lucasfilm Ltd.

樋口 『ハン・ソロ』も実は劇場で観た時よりも4Kのブルーレイで観た時の方が面白かったんです。

麻倉 それは面白い経験ですね。4Kの劇場は非常に少ないですから、4Kで撮られた映像もほとんどすべて2Kになる。本物を観たいならブルーレイの4K、という不思議な話になります。では改めて『ハン・ソロ』を観てみましょう。

樋口 今、ハリウッドで映画は作られず、東欧とかカナダとか天気がそんなによくないところで撮られるんです。だから全体的にコントラストがない暗い映画が多くて。

麻倉 2Kでもレンジがあると解像度とは違う良さがあるけど、それが天候の関係でできないとなると、やっぱり限界が出てきますね。

樋口 この映画の薄暗い感じ、小道具の作り込みが、劇場で観た時は全然伝わってこなかった。4Kで観て、ようやくその意図が分かったみたいな。

麻倉 逆転現象ですね。今まで劇場が上で家庭用は下みたいなヒエラルキーがあったけれど、ある部分においてはホームシアター・ファーストになっていて、劇場で観るよりパッケージで観た方が監督の意図が伝わってきますね。

樋口 劇場によってはIMAXになったり、ドルビービジョンが入ったりと品質は上がっていますけど、すべてがそうとはいかない…。

麻倉 だから品質というか、そもそも大元のクオリティはどうなのみたいなところが今、問われている。あと、劇場はなかなか音質まで再現できない。ホームシアターはちゃんとしたオーディオ装置にすると、劇場以上の音が出ます。なおかつ繊細な味わいがある。

樋口 『ハン・ソロ』は画質云々じゃなく、4Kで初めて作品の良さが伝わったんですよね。もちろん劇場で観てほしいんですが、観逃しても意外といいことあるかもと。配信だけには負けないぞ、みたいな(笑)。

 

『マリアンヌ』
(C) 2016, 2017 Paramount Pictures.

麻倉 『マリアンヌ』にも凄く分かりやすいシーンがあるんです。SDRという通常のダイナミック・レンジは窓の外の景色が飛んで白くなるんですが、HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)にすると映る。ちゃんと階調が出るのがHDRの良さ。4Kだけにあるメリットです。そのお陰で、画のダイナミックさ、カラーの良さが出る。そもそも本作は8Kで撮影されたもので、それを4Kで再現。木の枝ぶり、生け垣、芝生、太陽の光など自然描写の細かいところだけでなく、奥行き感、人物の立体感などが凄い。頬も滑らかに膨らんでいる。これが8Kの良さじゃないかな。

樋口 監督はロバート・ゼメキス。相変わらず実験的なことをしているんですね。

麻倉 カメラ的に言うと最高8Kで、それぞれコンセプトに合った、シーンに最適なカメラで撮ったと書いてありました。もう一つ、高解像度系ではIMAXで撮影された『ダンケルク』ですね。

樋口 ほとんど4:3に近い画角。親子が乗っている船だけが16:9で、それ以外はIMAXのフルで撮っています。

麻倉 今のフィルムで撮った画というのも生々しい。デジタル的なキリキリ感がなく、バランスもいい。海のシーンも本当に遠くまで見渡せ、光の反射がきれいですね。

樋口 やっとここまで到達したリッチな感じ。

麻倉 4Kソフトには『2001年宇宙の旅』のような昔の名画を復刻したものもあるし、『ダンケルク』のように今撮った昔の映画のようなフィルムもある。『マリアンヌ』のようにデジタルの極限の8Kまでいくとアナログになるみたいな、いろんなものが家庭で観られるのも楽しみです。

サルベージ感覚で観る90年代作品の味

 

『ターミネーター2』
(C)1991 - STUDIOCANAL - Tous Droits Reserves

樋口 今度は『ターミネーター2』を観てみましょう。4Kまでくると、スタジオマークはもっとちゃんとした方がいいんじゃないかなぁ。意外と低い解像度で作られていますね。

麻倉 ですが、本篇の画像はきれいですね。ちょっとびっくりだな。昔のイメージとは大違いです。

樋口 本作もサルベージする感じというか、発見がある。もの凄く古い映画でもないし、新しくもない。『スリー・ビルボード』あたりと見比べると、画作りが変わったんだなと思います。これはかなりの発見ですが、昔シャープに見えていたものが既にクラシック。当時はCGが凄いと思ったけど、今観るとCGじゃないところが凄く見える。シュワルツェネッガーがここまで自分でやっているんだとか。サラウンドの作り方も空間を作るんじゃなく、わざとらしく後ろに回しています。

麻倉 こってりとしたいい画ですね。SDRだからアナログですが、結構大画面にしても観られます。画素を超越した世界。凄くきれいにリストアしています。ノイズも少ない。

樋口 ある意味、ネガを持ち込む形としては優秀な優等生というか。先日『マトリックス』を4Kで観ましたが、蔵から出すにはまだ早すぎた。まだすっぱみ、雑味が多くて。『ダイ・ハード』とか、この時代くらいの作品がいいですね。


『劇場版 あしたのジョー2』

麻倉 今度は『劇場版 あしたのジョー2』を観てみましょう。

樋口 逆にアニメって怖いですよね。最初に『コブラ』が出ましたが粗さも再現しすぎて驚きました。『あしたのジョー2』はめちゃくちゃきれいですね。凄いな。撮影素材を観ているようです。

麻倉 やっぱりネガから再制作したからですね。ディテールはそんなに差がないかもしれませんが、レンジとか色のクリアさは凄い。

樋口 美術監督の小林七郎さんの、リアルというのとまたちょっと違うタッチの強さ。色使いも大胆でかっこいい。海の描写もダイナミック。あの波のキラキラは描いているというか、クシャクシャにしたアルミ箔を2枚重ねたマスクの下に引いてやっているんです。昔は独自の美意識みたいなのがあった。

麻倉 出崎統監督の考え方とかコンセプト、色使いがよく分かります。

樋口 昔の劇場版アニメって信じられないぐらいこだわって作られているのだからどんどん4K版を出してほしいです。我々が買い支えるので(笑)。

麻倉 では『ラ・ラ・ランド』に行きましょう。本作には面白い話があって、ブルーレイの日本版がDEGジャパン主催の第10回ブルーレイ大賞・審査員特別賞を受賞。解像度はやっぱり4Kの方がいいんですが、S/Nは4Kよりいい。

樋口 そんなことってあるんですね。

麻倉 4Kは10ビットですが、ブルーレイはMGVCという特別なコーデックなので12ビットが再生できる。4Kはアメリカのマスターそのまま使っていますが、2Kは日本の独自性を出そうと。ある意味4Kを追い越すほどの色の透明感。解像度を観るのは4Kディスク、色を観るならブルーレイの2Kディスクで。

樋口 確かに、全然違う。この追い込み方は4Kでできなくもないんですよね?

麻倉 3Dのディスクにビット数を与えたのがMGVCなので、3Dが初めからない4KのUHDはそれができないんです。

樋口 つまり、ブルーレイは3D用の帯域が空いているから可能になったと。勉強になります。

麻倉 はい。

フィルムこそ永遠 日本映画リストア版への期待


麻倉怜士氏(左)と×樋口真嗣監督(右)

麻倉 では今後、樋口監督は製作において4Kをどう使っていこうとお考えですか。

樋口 自分のこととなると、全く逆のことを考えてしまうんですよね。解像度をどこまでかけずにやろうかとか。iPhoneを4Kでやっても大丈夫かな、みたいな。

麻倉 それはありますね。今、スマホで撮っておいたらどうだろうかとか。東北新社がスマホで料理番組を4Kで撮ったんですが、結構きれいでした。

樋口 それでしか撮れないものの方が面白いこともあるんですよ。

麻倉 制約があるうえでのクリエイティブって凄く重要ですからね。あとフィルムで撮った作品が増えているってことは、なんだかんだ言ってもフィルムの解像度が一番凄いってことになる。4Kも16Kの時代になったら、なんだということになり、その点、フィルムならもともとの情報量がありますから。

樋口 『ターミネーター2』もそうですが、フィルムで撮ったところは今観ても大丈夫ですが、CGだと陳腐に見える。

麻倉 CDもそうですね。80年代、CDは凄いと言われたけど今となってはね。むしろハイレゾ時代になって、CDの音源は変えられないから困る。一方アナログテープで録音したものには凄い情報量が入っているからハイレゾに直接行く。それと同じ現象が映像にも起きている。『2001年宇宙の旅』がまさにそう。情報量があるから16Kにも耐えられるんじゃないかな。フィルムこそ永遠ですね。 劇場は何回もデュープを重ねているわけですから、アナログ的な劣化がある。だから4Kで観ると、オリジナルはこうだったのかみたいな驚きと発見がある。要は劇場を追憶するんじゃなく、劇場にない新しい価値をパッケージで見出せる。それが大きなポイントじゃないですかね。

樋口 だから僕の気持ちとしては、クリストファー・ノーランがやったように『2001年宇宙の旅』のような過去の名作をリストアしたい欲の方が強い。新しい映画を作るより、昔の映画をどうやってちゃんと残すかって方に興味がある。しかもこのあたりの古い映画にはまだまだ発見があるような気がします。

麻倉 確かに、まだ70%ぐらいしか出ていないんじゃないかとかって思います。新しい目でリストアすると、また発見できますよ。樋口監督がリストアするとブランドになりますね。

樋口 市川崑さんの『細雪』はネガの状態が悪いんですね。80年代の映画ってフィルムの最高感度が200で400まで増感現像しているんです。だからグレイングがざらざら。つるつるにしたのがいいのか? って疑問もありますが、もうちょっと劇場で観た時の絹目みたいな感じにならないのかなとか。フィルムでもマスターが最悪な時代ってあるんですよ。逆に60年代は感度の低いフィルムでかなりライティングして撮っているのでネガに入っている情報量が全然違う。そういうのをひっぱり出しても面白いだろうし。

麻倉 『山猫』『ウエスト・サイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』など60年代の65ミリで作られたものも物凄い情報量ですからね。

樋口 あのリッチさは凄い。物量が違います。

麻倉 画質の前に、スタッフからして凄くお金がかかっている。日本映画もぜひ4Kのリストアで観たいですね。

(麻倉怜士氏ご自宅にて/使用機種:パナソニック「DP-UB9000」、D-ILAプロジェクター「DLA-Z1」)

 

この記事は『キネマ旬報』2月下旬ベスト・テン発表号に掲載。今号では『2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン&個人賞』を発表。受賞者のインタビューや2018年ベスト・テンの分析座談会などを掲載している。

制作:キネマ旬報社

 

プロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)/1950年生まれ、岡山県出身。73年に横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社し、『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。91年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。新聞、雑誌、インターネットなどで多くの連載を持つ。津田塾大学講師、早稲田大学エクステンションセンター講師、UAレコード副代表。大の映画、Blu-ray、UHD Blu-ray好き。

樋口真嗣(ひぐち・しんじ)/1965年生まれ、東京都出身。高校卒業後、東宝撮影所特殊美術課特殊造形係に入る。同年、ガイナックスに参加。95年 『ガメラ 大怪獣空中決戦』で特技監督を務め日本アカデミー賞特別賞を受賞。監督作は『ローレライ』(2005年)『日本沈没』(2006年)『隠し砦の三悪人』(2008年)『のぼうの城』(2012年)『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』シリーズ(2015年)『シン・ゴジラ』(2016年)など。18年、TVアニメ『ひそねとまそたん』に総監督として携わる。

 

「Ultra HD Blu-ray」とは?
DVD、ブルーレイに続く映像パッケージメディア。形は同じく12㎝径のディスクだが、最大容量はブルーレイの2倍にあたる100Gバイトと、より優れた画・音質で映画を収録できる。Ultra HD Blu-rayはスペック上、4つの組み合わせ(4K/HDR、4K/SDR、2K/HDR、2K/SDR)が可能であるが、中でも、4K/HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)は、映像の美しさを決める解像度(映像のきめ細かさ)、輝度(再現できる「光」のバリエーション)、色域(再現できる「色」のバリエーション)の3要素でブルーレイをはるかに超えている。

 

■対談で鑑賞していただいた「4K Ultra HD Blu-ray」ソフト一覧

『2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版 <4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ>』6990円+税
発売・販売/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント


『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー 4K UHD MovieNEX』8000円+税
発売・販売/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン


『マリアンヌ <4K ULTRA HD+Blu-rayセット>』5990円+税
発売・販売/NBC ユニバーサル・エンターテイメント


『ダンケルク <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>』5990円+税
発売・販売/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント


『ターミネーター2 4K Ultra HD Blu-ray』6800円+税
発売・販売/KADOKAWA


『ダイ・ハード 製作30周年記念版 <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組>』5990円+税
発売・販売/20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン


『劇場版 あしたのジョー2 <4K ULTRA HD>』7800円+税
発売・販売/20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン


『ラ・ラ・ランド <4K ULTRA HD+本編Blu-ray+特典Blu-ray>』7800円+税
発売/ギャガ 販売/ポニーキャニオン


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