『きみ鳥』監督、一般映画と異なる作り方とは?最新作『ワイルドツアー』

2019年3月25日


(c)Yamaguchi Center for Arts and Media

『きみ鳥』監督、一般映画と異なる作り方とは?最新作『ワイルドツアー』

『きみの鳥はうたえる』で2018年度キネマ旬報ベスト・テン第3位に輝いた三宅唱監督が、刺激的な試みを続ける山口情報芸術センターの杉原永純プロデューサーと組み、映画未経験の中高生たちと撮った、待望の最新作、到着!

三宅唱[監督・脚本]×三浦哲哉[映画研究者]対談

―『ワイルドツアー』を一言でいうと〈幸福な映画〉。地下の試写室を出たら、ひときわホクホク顔で足取り軽く階段を駆け上がってゆくひとがいるんですよ。よく見ると映画研究者の三浦哲哉氏(笑)。三浦氏には三宅唱監督の前作『きみの鳥はうたえる』特集で作品論を語っていただきましたが、ならば、続いて今回は大学の後輩でもある三宅監督と対話をしてもらおうと思い、ご両名に集まっていただきました。

一般的な劇映画とは異なる作り方


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三浦 『ワイルドツアー』は、YCAM(山口情報芸術センター)の〈滞在型映画制作プロジェクト「YCAM Film Factory」〉でつくられた映画で、つまりは一般的な劇映画とは異なる作り方をされています。でも難解な実験作ではない。何が功を奏して、こんなにも〈幸福な映画〉ができたのか? ということを三宅さんに伺いたいと思っています。なんといっても『ワイルドツアー』は、映画未経験の中高生が出演しているのに「大人の持つ子どもについてのイメージに従って、大人の考えたセリフをあてがわれて、言わされているかんじ」が皆無なんですよね。

松浦寿輝さんがかつて言っていたんですが、子どもが絵を描いたり、音楽を奏でたりすることはできるけど、映画を意識的に作ることはできないので、子どもが出演している映画には常に〈アンフェア〉なかんじがつきまとう。それをクリアした映画を観たいな、という気持ちが常にあるんですが、『ワイルドツアー』には、三宅さんがいつも使う言葉ですけど、ものすごく〈フェア〉な感じがして。出演する少年少女たちの晴れ晴れとした佇まいに心底驚きました。

「一緒に映画作りを考えるパートナー」を募った


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三宅 プロデューサーの杉原永純さんと「中高生は大人ではないかもしれないけど、もう子どもでもない。子ども扱いしない」とはじめに決めました。中高生にもなれば「思い通りにいかないこと」と格闘できる体力が備わっているし、映画作りの醍醐味はそこにあると思うので、中高生にフォーカスしました。そして「役者募集」ではなく「一緒に映画作りを考えるパートナー」を募ったところ、編集や撮影にも興味がある男女が集まってくれました。

まず青山学院大学の三浦さんのゼミでいつもやっている「〈演出とは何か?〉をみんなで一緒に考えてみよう」という講義をしたんですが、大学生とまったく変わらず理解していました。その後、二日かけて自分たちで短篇映画を作ることで、カメラの前だけでなく後ろのことも一通り経験してもらいました。そのことで、いざ僕が監督する際に、「出る人/撮る人」という一方的な関係を避けられるのでは、と。もっと言えば、現場中に自分が考えていることを逐一彼らに説明できないので、「監督はよく困る」ことを事前に自分たちも経験しておいてくれ、と(笑)。でも本当に、そのプロセスのおかげか、彼らは僕と一緒に、場合によっては僕よりも厳しく、細かいディテールまで考え抜いてくれました。

題材は『恋愛』


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三浦 なるほど。共同作業するための題材が「恋愛」、というのが最高ですよね。YCAM全体が淫らな場所になってゆく(笑)。

三宅 身近な問題でありながら、普遍的かつ正解がないから、みんなで楽しく盛り上がれる題材なんですよね。そして、役者ではない人たちが演技をするのは「恥ずかしい」ことだから、折角なら、一番「恥ずかしい」題材で演技してみようよと、一線を飛び越えるためにも「恋愛」がいいんです。

三浦 中園うめ(伊藤帆乃花)、うめちゃんがシュン(安光隆太郎)とタケ(栗林大輔)に火を付けますよね。参加者のうち、この三人をメインに据えたのは、どうしてですか?

三宅 伊藤さんは今後も女優としてやっていきたいと聞いていたので、ぜひヒロインに、と。安光君と栗林君はYCAMの近くで育って色々経験しているからか、人生初の映画作りにもビビってなかったし、他所から来た僕にも自然に絡んできました。二人は幼稚園からの親友らしく、山口弁でやりとりする絶妙なグルーヴ感にも惚れました。


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左からシュン(安光隆太郎)、タケ(栗林大輔)、中園うめ(伊藤帆乃花)

三浦 パーティを組んだその三人が、市の文化財の立入禁止区域に入ってゆき、自然の奥底へ。超常現象が起きるわけではないんですけど、なにが出てきてもおかしくない感じ、ワクワク感がありますよね。

三宅 探検こそ映画の王道かな、と(笑)。『スタンド・バイ・ミー』(1986年、ロブ・ライナー監督)しかり。人ではなく植物が君臨している土地を、中高生がiPhone やDNA採集キットという未来的ガジェットを手に探索する、という王道かつ新しい冒険映画のつもりです。自然環境、彼らの自然な姿、人間関係の荒波、それらをまとめて「ワイルド」と名付けました。

 

対談後半では、具体的な演出方法にまで話が広がる。中高生を相手にした演出方法と『きみの鳥はうたえる』で実践した手法の違いとは? 記事の続きは『キネマ旬報』4月上旬号に掲載。今号では「壁を越えて『ROMA/ローマ』とNetflixの衝撃」と題して、Netflixの現在を伝える、表紙・巻頭特集をおこなった。アルフォンソ・キュアロン監督やNetflixコンテンツディレクターのインタビューなどを掲載している。

構成=寺岡裕治/制作:キネマ旬報社

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