40年間“秘密”とされた娼館が舞台の問題作!映画『軍中楽園』2018年5月1日

(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Ltd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd All Rights Reserved

40年間“秘密”とされた娼館が舞台の問題作!映画『軍中楽園』

1945年、第二次大戦の敗戦国である日本が台湾の統治から手を引くと、入れ替わりに中国の国民党政府が台湾を支配した。1949年、蒋介石率いる国民党は毛沢東率いる共産党との内戦に敗れ、大挙して台湾へ撤退。中国とは目と鼻の先の金門島を要塞化して共産党軍と対峙し、70年代に入るまで海を隔てて砲撃の応酬が続いた。

台湾本土からは280キロも離れた金門島は、香川県・小豆島ほどの小さな島。そこへ台湾中から徴兵された若者の8割が送り込まれ、配属兵の総数は最も多い時で10万人に達したという。その中には中国大陸に戻る日を心待ちにしながら台湾で年老いていった兵士も数多く、そんな老兵の姿を描いた台湾ニューシネマの1本に『老兵の春』(1984年)がある。

1951年以降、金門島に「特約茶室」という娼館が設置されたのを皮切りに、台湾各地で同様の施設ができた。831(バーサンヤオ)、もしくは軍中楽園の通称で知られるその娼館は国防部の正式機関として90年代初頭まで存続したというから驚きだが、これまでドラマ映画のテーマになったことはない。このセンシティブな題材に初めて正面から向き合ってみせたのが、『モンガに散る』(2010年)を大ヒットさせたニウ・チェンザー(鈕承澤)監督である。

歴史の残酷さと不条理を感傷的な余韻の中に浮かび上がらせる

 

(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Ltd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd All Rights Reserved

「僕がこの映画を選んだのではなく、この映画が僕を選んだ」
製作の動機について、監督はこう言明する。父や外祖父が北京出身という外省人家庭に育った彼は、これを撮れるのは自分しかいないとの思いで取り組んだ。

舞台は1969年の金門島。新米兵のルオ・バオタイ(イーサン・ルアン/阮經天)は精鋭部隊の一員に選ばれたが、水泳が苦手だったためにチームから外され、831に配置換えとなる。戸惑いながらもマジメに職務をこなし、影のある女性ニーニー(レジーナ・ワン/萬茜)といつしか心を通わせていくルオ。一方、上官で熱血漢のラオジャン(チェン・ジエンビン/陳建斌)は小悪魔的なアジャオ(チェン・イーハン/陳意涵)に入れ込むあまり借金までして金品を貢ぎ、友人のホワシン(ワン・ポーチエ/王柏傑)は部隊の先輩兵たちから陰湿ないじめを受けていた……。

831で働くワケありの女たち、行列を作って順番を待つ兵士たちの様々な人間模様や男女の機微に触れ、純情な青年からひとまわり成長していくルオの目線で描かれるドラマは悲喜こもごも。ユーモアと人間味をたたえながらも総じてほろ苦く、歴史の残酷さと不条理を声高にではなくむしろ感傷的な余韻の中に浮かび上がらせてくる。


(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Ltd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd All Rights Reserved

主演のイーサン・ルアンはアイドルドラマ時代からニウ・チェンザー監督の薫陶を受け、若きヤクザを演じた『モンガに散る』で金馬奨の最優秀主演男優賞を獲得した人気スター。その彼が本作で演じる童貞(!)青年兵の、どこか所在なさげな佇まいに母性愛をくすぐられるファンは多いにちがいない。

ラオジャン役には中国の実力派チェン・ジエンビン(陳建斌)。大陸から台湾へ強制的に連れてこられ、故郷の母を想い続ける中年兵の悲哀を圧倒的な存在感で体現し、金馬奨の助演男優賞に輝いた。ちなみにこの年、チェン・ジエンビンは自身が監督・主演の『一個勺子』(2014)でも主演男優賞、新人監督賞を獲り、金馬奨始まって以来の単独トリプル受賞を果たしている。

女優陣の好演も印象的だ。ニーニー役のレジーナ・ワンとアジャオ役のチェン・イーハンは共に金馬奨の助演女優賞にノミネートされ、中国出身のレジーナ・ワンが受賞。歌手でもある彼女が劇中で歌う「帰らざる河(River of No Return)」のしっとりとした哀感も胸をうつ。

ノスタルジックに、青春映画的なアプローチによって物語を紡ぐ

(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Ltd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd All Rights Reserved

『軍中楽園』は、ニウ・チェンザー監督が中国のカメラマンを台湾の軍施設に連れていったことが問題視され、一時は完成が危ぶまれたこともあった。監督は私財を投げうって撮影を続行。結果的に映画は金馬奨で6部門にノミネート(うち2部門で受賞)、釜山映画祭のオープニングを飾り、ベルリン国際映画祭パノラマ部門への参加など、台湾だけでなく海外でも好評を得た。

ニウ・チェンザーを支えた1人が、彼が恩師と仰ぎ、本作で編集協力にクレジットされてもいるホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督だ。かつてホウ監督が『悲情城市』(1989年)で従来タブー視されていた白色テロの悲劇を初めて描いたように、今回ニウ・チェンザーは歴史の暗部ともいうべき娼館のテーマを初めてとりあげた。その功績はもちろんだが、さらに重要なのは『軍中楽園』が優れた娯楽映画であることだ。

老兵にしても軍直属の娼館にしても戦争が生んだ犠牲であり、とことんシリアスな映画になったとしても不思議ではない。しかしニウ・チェンザーはむしろノスタルジックに、青春映画的なアプローチによって物語を紡ぎ、その奥に重いメッセージを込めた。だからこそ本作は台湾でヒットし、広範な年代の観客の支持を受け、こうして日本でも監督の思いが届く日を迎えたのではないだろうか。

軍中楽園(2014年・台湾)
監督、脚本、エグゼクティブ・プロデューサー:ニウ・チェンザー
編集協力:ホウ・シャオシェン
出演:イーサン・ルアン、レジーナ・ワン、チェン・ジェンビン、チェン・イーハン
監修協力:野嶋剛 提供・配給・宣伝:太秦
5月26日から ユーロスペース、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

文:Tome Urakawa/制作:キネマ旬報社


現在発売中の『台湾エンタメパラダイス vol.20』ではディーン・フジオカさんインタビュー他、台湾エンタメの情報が満載!詳細はこちら↓