キネ旬総研 所長コラム

名前: krishocho 作成日: 2011/09/09 19:21
キネ旬総研 所長コラム
2011/12/20 15:50

 東大安田講堂の攻防・陥落により、安保闘争が終息に向かい始めた1969年からこの物語は始まる。わずか1年の差で団塊の世代から一線を画した新たな感性を持つ1950年生まれの矢内社長たちが、自身が、そして当時の若者たちが欲する情報誌を学生の身ながらにして如何に立ち上げ、大人たちが作った出版界、映画界、音楽界の「常識」という名の壁を次々と乗り越え、成功への階段を駆け上がっていったか――。そこには幾多の困難にも負けない強い信念と志を共にする仲間があり、奇跡的な出会いをも引き寄せる情熱があった。 詳細...

2011/11/14 12:40

2011年も残り2ヵ月を切ったが、映画産業は前年比20%減の基調から一向に回復の目途が立たない。ただ、ひと口に前年比20%減と言っても、昨年の年間興行収入2207億円が「アバター」ほか100億円超えが3本も続いた3Dバブルによる特需だとすれば、一昨年までの年間2000億円前後との比較では10%程度のマイナスであり、映画業界に携わる人たちにとってはこちらの方がしっくりと腑に落ちるかもしれない。
1年前の今頃、年間興収が歴代最高となることがほぼ見えていた時期に、それまでの10年間の2000億円基調がいよいよ次のステップへと上がるかもしれない、と多くの映画人が思ったはずである。それはひとえに3Dへの期待によるもので、今後のハリウッド超大作は3D上映によりこれまで以上に興収を伸ばせる、と信じた。しかし実際には、「パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉」は07年の前作(109億円/3Dなし)に及ばず、「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」もシリーズのフィナーレということを考えれば2Dだけでも達成できたのではないか、と思える範疇の成績である(もちろん両作とも特大のヒットであることに変わりはない)。この2作の興行を見た段階で、10年の「アバター」(156億円)、「アリス・イン・ワンダーランド」(118億円)、「トイ・ストーリー3」(108億円)の予想を遥かに超えた成功が3Dバブルに過ぎなかったことを認識し、また、映画興行の市場規模はやはり2000億円基調のままだ、とステップアップへの期待を取り下げた。
ということで、映画関係者にとっての感覚では20%減は馴染まないだろうが、ただ、それにしても10%のダウンである。
東日本大震災の直接的な影響、そして間接的な影響はもちろん大きい。劇場の閉館・休館をはじめ東京電力管内での営業の時短やテレビCM自粛による宣伝規模の縮小(直接影響)、余震が続くなかで暗闇の閉鎖空間にいたくないという意識の作用(間接影響)などをリサーチにより数値化すれば、上半期の劇場動員への影響はそれなりの規模となるはずだ。しかし、震度の大きな余震が減少した下半期に入ってもなお、月間で前年比2割減が続く状況を見れば、もはや、震災にばかり原因を押しつけるわけにもいかないだろう。影響の度合いを問わず、原因として考え得るものは他に幾つもある。
まずは、景気の動向。国内の各種経済指数の上下とは別に、EUの状況なども見るにつけ、先行き不透明どころか暗雲立ち込める気持ちにさえなり、財布の紐がきつくなるのも頷けること。そして、一昨年の夏以降じわじわと日本全国に蔓延し、今やすっかり定着した観のある「レンタル料金100円」の相場感。これが映画そのものの価値を引き下げるとともに、相対的に劇場映画鑑賞の割高感を演出しているのではないか。また、映画興行市場のなかにも思い当たるふしはある。前述した3D映画の弊害として、上映機会の二極化がより激しくなったことが観客の視聴機会を奪ってしまってはいないだろうか。日本の映画興行は、シネコンの拡大によりブロックブッキングが崩壊し、シネコン内でのフィルム・スライド上映が当たり前になった時点で、大作・話題作がスクリーンの多くを占め、初週に動員が伸びない作品は早々に1日の上映回数が減らされるなど、上映機会の二極化(=動員の二極化)が目立つようになった。そこへ3D作品(主に宣伝費を掛けた大作)が登場し、当たる当たらないに限らず3D:2D×字幕:吹替で4スクリーンを占め、これが中小作品の上映回数をさらに減らし、かつ鑑賞しにくい時間帯へと押しやった。スクリーン数を倍にするなら動員も倍にならなければスクリーン・アベレージは当然下がり、一方、本来劇場で鑑賞したかもしれない上映回数を減らされた中小作品の潜在視聴者が、他のウインドウを待つことに甘んじているのかもしれない。要は、上映環境の二極化ほどには上位作品の興収が伸び切らず、下位作品はさらに興収を下げるという構造に、興行界全体が陥ってしまっているということ。こうした歪な興行ヒエラルキーが全体の興収を押し下げてしまっている可能性もある。
当研究所では、引き続き、この興行市場1~2割減の原因究明を進めていく。そして、作品ごとに、配給会社または興行会社ごとに、あるいは業界全体の動きとして、対処すべき課題を明らかにし、映画産業界に提案していきたい。(2011年11月14日)

2011/10/17 15:22

キネ旬総研では、現在、映画・映像ソフトのユーザー視聴動向調査を進めている。
これは、映画興行、DVD・ブルーレイなどパッケージソフトの販売・レンタル、ペイチャンネル、地上波の無料放送、それにPCや携帯端末におけるビデオ・オン・デマンドやソフトのデジタルデータ販売に至るまで、映画・映像ソフトを視聴できるあらゆるメディア・サービスに対し、ユーザーがどう接触し、実際に視聴しているかを、中学生から60代までを対象に5000人規模で調査する企画である。
例えば、業界関連団体の発表ではそれぞれに、映画興行が年間2200億円、パッケージソフトが2600億円など市場規模全体を計る指針はあるが、実際に個々のユーザーが(その属性ごとに)どのメディア・サービスで映像に触れ、または触れないかを、映画館からDVD、テレビ放送、PC・携帯のサービスも含めてすべてを横串にした調査はこれまで行われてこなかった(各メディア・サービスごとの調査はあるが)。果たして、延べ1億7000万人の劇場映画鑑賞人口の中でどの層がDVDやブルーレイを購入し、レンタル視聴者の内何割がビデオ・オン・デマンドを利用しているか、そしてハイビジョン化されたことにより、ペイチャンネルを含めHDDへの放送録画はどの程度増えているのか――。
また、それぞれのメディア・サービスを利用しない理由は何なのか、その阻害要因も調査・分析する。映画館で映画を視聴しない人は、鑑賞料金が高いから利用しないのか、時間に余裕がないからなのか、または上映時間を調べるのが面倒だからなのか、ビデオ・オン・デマンドを利用しない人は、課金方法に抵抗があるからなのか、タイトルが不十分だからなのか、そもそもサービスの理解度が低いからなのか。もしかしたら、HDDへの録画件数が増えたことによって、他のすべての映像視聴時間が奪われたのではないかなど、検証すべき課題は数限りなくある。
そして、携帯電話におけるスマートフォンへの買い替えが想像を絶する勢いで伸長するなか、いかに日本人のネット接続時間が増加し、接続目的が変化し、それが映像視聴全般にどう影響を与えているか、というところにまで調査は踏み込む。ネット上におけるほとんどのサービスが付帯的にコミュニケーション機能を持つようになったいま、それぞれのユーザー属性によって、ネット上のコミュニケーションに費やす時間はどれだけ費えたのだろうか、それが今後さらに増加することで何が起こるのだろうか――。
それぞれのメディア関係者から、以前は「3年後の市場が全く読めない」という声をよく耳にしたが、いま、彼らは「1年後の市場が読めない」と言う。ネットを介するサービスの技術的な向上は日進月歩、いや、秒進分歩であり、ユーザーのネット活用習熟度はあらゆる年代で急速に高まっている。映画や映像ソフトを視聴することに限らず、これにより日本人の(というよりも人類の)生活様式は年を追うごとに様変わりしている。そうした時代に適したマーケティングを行うためには、より詳細にわたるリサーチが必須となる。本調査によりユーザー属性ごとのさまざまな実態を浮き彫りにすることで、映画興行、パッケージソフト、ペイチャンネル、無料放送、配信など、映画・映像ソフトに関わるビジネスが今後どのような道筋を辿るべきかのヒントを提示していくことが、この調査企画の目的である。
調査結果は、年末から年始にかけて発表する予定。本調査レポートを映画・映像産業内外で広く活用していただくためにも、皆様の忌憚のないご意見をお聞きし、レポート作成時の参考としたい。ご興味のある方は、ぜひ、ご連絡をいただきたい。
(2011年10月16日)

2011/09/09 19:26

2011年、劇場のスクリーンは急速にデジタル化へと進んでいる。この業界の外にいる人にはほとんど気づかぬ変化だが、映画業界内にとっては、無声映画からトーキーへ、白黒からカラーへ、またはスタンドアローンの映画館からシネコンへといった、歴史上の大変革にも匹敵するほどの出来事だ。
ではなぜ、フィルムからデジタルへと上映素材や上映方式を変える必要があるのか。それは撮影や編集時の機材がデジタル化しているにもかかわらず、最終的に上映する際に敢えてフィルムに焼き付けるという下位変換の無意味さに端を発し、加えて、素材デリバリ時の著作権侵害(業者によるデジタルコピー)を防ぐセキュリティ面からも有効なため権利者にとっての益が大きく、特にグローバル展開するハリウッド・メジャースタジオにとっては必然の流れと言えたからだ。また、3D上映システムはデジタル化が前提となる方式であるため、これが、フィルムからデジタルへの上映方式入れ替えを後押しした。劇場にとっては機材入れ替えのコスト負担が大きいため、当初、あまり積極的ではなかったが、2009年末の「アバター」の世界的な特大ヒットが意識を一変させた。「アバター」公開前には、3D上映がどれほど観客を呼べるか懐疑的だった劇場関係者も、3D:2Dの上映比率が2:8ながら売り上げた興行収入がその逆の8:2という驚異的な比率だったことに驚愕し、今後の3D上映に対応させるべく一気にデジタル化を推進させはじめた。
また、デジタル化によりフィルムに焼く工程がなくなったことで映画以外のコンテンツが注目され、主に音楽やスポーツなどのライブ映像の興行的成功が事例として挙がりはじめた。こうした非映画コンテンツの興行が今後さらに活性化されれば、映画館の存在意義は今までとはまったく異なるものへと転換する可能性もある。例えば、100万人近いファンクラブ会員を擁するアイドルグループの嵐が、7万人のファンしか入場できない国立競技場ライブを全国のシネコン2000スクリーンで中継上映すれば50~60万人が動員でき、料金を国立競技場より3割程度安い5000円に設定したとしても、一夜にして30億円の興行が成立する。グッズや飲食の販売も考え合わせれば、50億円の市場となるかもしれない。そこまで動員力の高いイベントは一部に限られるにしても、年間で1億7000万人の動員を上限とする映画だけでは埋まらぬ劇場の座席を非映画コンテンツが補うことで、劇場経営が安定し、現在の大作・話題作一辺倒の上映時間編成から、少しはゆとりを持った作品選択・上映時間編成へと上映作品の多様化につながらないとも限らない。そして、映画・非映画の垣根を越えた映像コンテンツ視聴の多様化が、劇場での視聴体験から他メディアでの視聴・購入へと波及し、映像産業全体の底上げに貢献するかもしれない、と考えるのは先走りに過ぎるだろうか。
いずれにせよ、この2010年から2011年にかけての興行の急速なデジタル化の影響が、3年後、5年後の興行市場、そして映画・映像産業市場全体に与える影響ははかり知れない。
今月より、当研究所のホームページをリニューアルし、映画・映像ソフト産業データや市況分析、市場で起きている事象の背景を読み解く特集記事などを、業界内外へ向けて発信していく。当研究所のこれまでの事業をさらに発展させるかたちで、さまざまな調査・研究成果や、業界内外及び学生も含めた就職・転職情報を掲載し、映画・映像ソフト業界のhubとなるべく媒体化していく予定だ。ぜひ、注目していただくとともに、皆さまからの有益な情報もご提供いただきたく、お願いする次第である。(2011年9月9日)

プロフィール

キネマ旬報映画総合研究所・所長
四方田浩一(よもだこういち)

1965年1月22日生まれ、埼玉県出身。 88年、株式会社ギャガ・コミュニケーションズ(現・ギャガ)入社。パッケージソフト業界誌「ビデオ・インサイダー・ジャパン」の創刊から編集に携わり、94年、同誌編集長に就任。98年、衛星放送事業の立ち上げに際し、映画情報専門チャンネル『カミングスーンTV(現・エンタメ~テレ)』編成部長に就任。その後、所属事業部の小会社化、合併、MBOなどを経て、08年より株式会社キネマ旬報社で業界誌編集本部を担当し、2010年、現職に。映画興行市場、パッケージソフト市場、有料放送市場など、映画・映像ソフト市場全般に深く関わる。