PTSDに苦しむ男性の空想世界を描いた感動の実話 映画『マーウェン』

PTSDに苦しむ男性の空想世界を描いた感動の実話 映画『マーウェン』
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PTSDに苦しむ男性の空想世界を描いた感動の実話 映画『マーウェン』

(c) 2018 UNIVERSAL STUDIOS

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985—90年)、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994年)などで知られるロバート・ゼメキス監督。その最新作『マーウェン』は、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の被害に遭った男性が、アートとイマジネーションで自身を癒すというストーリーである。PTSDに苦しむ男性の空想世界―そこでは5人の美女そっくりのバービー人形が戦士となってナチス相手に大暴れする!―を、最新のVFXを駆使して映像化。ヒューマンドラマを軸としながら、エンタテインメントの巨匠・ゼメキスらしいファンタジーたっぷりの一作に仕上がった。

ドキュメンタリー映画をドラマチックに映像化

草むらに置かれたフィギュアに指示を出す(?)R・ゼメキス

ことの始まりは2010年、ゼメキスがPBSネットワークで放送されたあるドキュメンタリー映画を見たことがきっかけだった。それは、ジェフ・マルムバーグ監督の“Marwencol”(2010年)。ある性的志向(嗜好)がもとで5人の男からリンチを受け脳に障害を負うも、リハビリのために始めた写真でアーティストとして成功をおさめた男性、マーク・ホーガンキャンプを追った作品だ。この映画を見たゼメキスは、初めてマークという数奇な人物の存在を知り、ただちにその映画化を思いつく。「すぐに魅了されたよ。誰もが生きることに苦悩している現代において“癒し”は普遍的なテーマだ」とゼメキスは語る。

マークは異性装者(クロスドレッサー)だった。周囲には秘密で、ときどきストッキングやハイヒールを身につけていたのだ。だが、それが心無い連中に知られ、彼はひどい暴行を受ける。そして、襲撃の後遺症(PTSD)による不安に悩まされ、まともな仕事をできなくなった彼は、近所のホビーショップで買ったアクション・フィギュアやバービー人形を使って、自宅の庭に作ったジオラマのなかで写真撮影を開始する。「マーウェン」と名付けられたその架空の村は、マークが受けた傷を自ら癒すための空想世界だ。ゼメキスはなによりこの写真がもつ独特の世界観に惹きつけられたという。

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人形に“生”を与えることが大切だった

(c) 2018 UNIVERSAL STUDIOS

ロバート・ゼメキス監督(以下、ゼメキス監督):「マークは1/6スケールのアクション・フィギュアとグラマーなバービー人形で自分や友人、近隣の人々、そして加害者までもを表現した。自分の顔と同じ場所に傷を描いたニコラス・ケイジのフィギュア“ホーギー大尉”は、まさしく彼の分身だ。アーティストならではの方法で現実世界の人々をアレンジしたキャラクターに、映画監督として、脚本家として、大いに創作意欲を掻き立てられたよ」

そうしたフィギュアたちが縦横無尽に暴れまわる空想世界を、パフォーマンス・キャプチャーを駆使したVFXによって再現しているのが、本作ならではのオリジナリティだ。

ゼメキス監督:「映画なら一枚一枚の写真が持つ物語を繋げられるし、彼の想像した世界をもとに、人形たちに“生”を与えられたら、パワフルで壮大な、今まで見たことのない映画が誕生すると思ったんだ。むしろ、映画でなければこの本当のおもしろさは伝わらないとさえ思ったね」

人生の悲劇に決着をつける

(c) 2018 UNIVERSAL STUDIOS

これまでも最新技術を駆使し新たな映像表現に挑戦してきたゼメキスだが、実写とパフォーマンス・キャプチャーが融合した『マーウェン』は、まさに面目躍如といった内容だ。その一方で、ゼメキスはこの物語のポイントを、アートを生み出すこと、表現することを通して、人生を生き抜く強い意志を語っている点だという。

ゼメキス監督:「人生で起きた悲劇に決着をつけられるのがアートであり、それはアートの重要な役割の一つだと思う。マークは人生のもっとも苦しい期間に終止符を打つために、自分の苦悩を表現する必要があった。彼がそうしたこと、そうしなければならなかったことに、私は心から共感できたんだ」

主人公のマークを演じたのは、『バイス』『バトル・オブ・セクシーズ』など、芸達者ぶりで知られるスティーヴ・カレル。彼もまたドキュメンタリーを見てすぐにこの映画化に興味を持った。ゼメキスのことを「レジェンドであり、唯一無二の存在」と絶賛するスティーヴとの仕事は、ゼメキスにとっても意義深いコラボレーションとなったようだ。

ゼメキス監督:「スティーヴはマークと、彼の分身であるホーギー大尉――スティーヴ・マックイーンを彷彿させる向こう見ずなアクションヒーロー―という二役を見事に演じてくれた。心に傷を負った男の深い感情と、ちょっとおバカなヒーローの痛快さ、この両方を演じ切れる俳優を、彼以外に思いつかなかったよ。私が考え得る、もっともこの役にふさわしい俳優だったね」

 

構成・文=「キネマ旬報」編集部/制作:キネマ旬報社

 

この記事は『キネマ旬報』7月下旬号に掲載。今号では『「作家」たちのランダム・ウォーク』特集をおこなった。この7月から8月にかけて、世界的に有名な3人の監督による最新作がたて続けに公開される。ロバート・ゼメキス監督の『マーウェン』はじめ、ヴィム・ヴェンダース監督の『世界の涯ての鼓動』、ジャック・オーディアール監督の『ゴールデン・リバー』を掲載している。

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