複雑怪奇な入れ子構造を持つ トンデモ話的な問題作

複雑怪奇な入れ子構造を持つ トンデモ話的な問題作

配信ムービー・ピックアップ・レビューその5
「ホース・ガール」

数ある配信ムービーのなかから、選りすぐりの作品のレビューをお届け。映画ライター・村山章氏によるオススメ第1弾は、狂気をテーマにした一本!

 

複雑怪奇な入れ子構造を持つ トンデモ話的な問題作

人間の“狂気”をテーマにした映画は数多いが、 ネットフリックスが配信している「ホース・ガール」は客観性をほとんど排除して、限りなく主観で“狂気”にアプローチした変わり種だ。 主人公のサラ(アリソン・ブリー)は手芸店で働く気のいい店員。私生活の友人は少ないが、ルームメイトに紹介された男性ダレン(ジョン・レイノルズ)との恋が始まる予感に浮かれている。しかしサラの身に奇妙なことが起き始める。幻聴が聞こえたり、夢遊病で外を出歩いていたり、 夢で見た男性に現実でも遭遇したり……。  

サラの家系にはメンタル系の疾患が多 く、自分もおかしくなってしまったのでは ないかと不安を募らせるのだが、やがてひとつの答えにたどり着く。「私は宇宙人に作られたクローン人間に違いない!」 

いや、ちょっと待て、と誰もが言いたくなる超展開。実際、劇中の誰もがドン引きするし、サラ本人だっておかしなことを言って いる自覚はある。しかしただの妄想で済ませ られないくらい現実と妄想の境目は曖昧で、 観客も目にしているもののどこまでを信じていいのかわからなくなってくる。しかもどうやらいくつかの時間軸が同時進行しており、シーンの並びに規則性を見つけようとするほど、観客は迷宮に迷い込んでいくのである。  

本作は、サラを演じたアリソン・ブリーの非常にパーソナルな事情から生まれた。ブリーの祖母は妄想型の統合失調症患者で、母親もうつ病で苦しんだ病歴を持つ。ブリー自身、いつか自分も発症するのではないかと怯えながら生きてきたという。そうやって一家に受け継がれてきた負の連鎖を、「ムー」的要素に満ちたトンデモ話の体裁を借りて映画にしているのだ。 ブリーは女子プロレスドラマ『GLOW:ゴー ジャス・レディ・オブ・レスリング』(Netflix、17〜19)などコメディ系の印象が強いが、本 作では盟友ジェフ・ビエナ監督(表記が統一 されていないが本人の発音に寄せてビエナ と呼ぶ)と共同で初脚本も手がけている。 ブリーは大のSFファン、ビエナ監督も「UFOを三度観たことがある」と公言しており、クローン、アブダクション、タイムループといったワードが頻発するのも納得だ。

 ただし、本作は明らかにSFやオカルトといったジャンルからはみ出している。 ひとりの女性の精神世界を描いたパーソナルな冒険物語であり、妄想とリアルの垣根を取っ払い、複雑怪奇な入れ子構造を持つ挑発的な問題作でもある。なにか拠りどころになる答えが欲しいわれわれは、この映画が描く奇妙な世界にダイブするしかないのだ。 

文=村山章

「ホース・ガール」
2020年製作・アメリカ・1時間44分
監督:ジェフ・ビエナ
出演:アリソン・ブリー、デビー・ライアン、ポール・ライザー、ジョン・レ イノルズ
◎Netflixにて配信中 

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