夏帆×妻夫木聡「Red」 ”一晩の中で、自分の人生を選択するまでを描きたかった”―三島監督インタビュー

夏帆×妻夫木聡「Red」 ”一晩の中で、自分の人生を選択するまでを描きたかった”―三島監督インタビュー

夏帆×妻夫木聡「Red」 ”一晩の中で、自分の人生を選択するまでを描きたかった”―三島監督インタビュー

一晩で全てが見える。夫婦のことも見えるし、彼女の人生も見えてくる

原作の映画化について「小説は完璧なもの、完結したものですからあえて映画にするならば、自分が読んだ時に心に残るエッセンスを大事にしたいと考えています。そこから膨らむイメージを描きたい」と語る三島有紀子監督。島本理生原作の「Red」は8本目の長篇劇映画だ。

大阪に生まれ、神戸女学院大学時代から8ミリ映画を撮り、NHKに入社してドキュメンタリーを手がけるが、劇映画を作りたいと独立。オリジナル脚本で「しあわせのパン」(12)を発表。重松清原作の「幼な子われらに生まれ」(17)ではモントリオール世界映画祭審査員特別大賞、報知映画賞監督賞を受賞するなど、高い評価を受ける。

「Red」では原作と映画の関係がスリリングだ。「真夏の熟した日差しが降り注ぐ」結婚披露宴から始まる小説。映画は雪上を走るトラックの車輪と、後部につけられた赤い布、そして雪のなかの電話ボックスの塔子(夏帆)の顔のクロースアップと少し離れて彼女を見守る鞍田(妻夫木聡)から始まる。

三島:原作を読んだ時、非常に映像的なくだりだと思ったんですね。金沢から東京までの一夜の雪のドライブが。そこを撮りたいなと思ったのと人間の真の独立を描いた現代版『人形の家』(イプセン)になるのではないかと思ったのが、この映画を撮った一番大きな理由です。

夫の真(間宮祥太朗)と幼い娘、姑と時々出張から戻る舅と共に邸宅に暮らす塔子は、かつて関係のあった建築家の鞍田と再会し、彼のいる会社に勤めはじめ、関係が復活する。塔子は出張した新潟で雪のため帰宅困難となるが、夫の真は激しく彼女を責め、塔子はあてもなく雪の中を歩き始める。と、病院から抜け出した鞍田が車で塔子を迎えに来る。2人が車で移動し続ける時間のなかに過去のさまざまなエピソードが入ってくる。

三島:2人がどこかに向かう一晩の中で、夜明けまでに塔子が自分の人生を選択する話にしたいと思いました。一晩で大きく人生を変える物語を映画でつくりたいという企画が自分の中にもともと強くあったからかもしれません。ママ友の娘を殺した事件-音羽幼児殺害事件を調べていた時に、奥さんが自首をする前に一晩、皇居の周りを夫(僧侶)と何周も何周もしながら会話をしたそうなんですね。そして夜明けが来た時に彼女が警視庁に向かって行って、夫が送り出した。事実なんです。それをいつかやりたいと思っていますしね。一晩で全てが見える。夫婦のことも見えるし、彼女の人生も見えてくる、という。
興味を持ったきっかけは、事件の性質です。周りの空気を読まなければいけない者同士の息苦しさが非常に日本的。まずは他人の意見を見聞きしたり、それによって自分の意見も左右されてしまうというように、物事を考える上での尺度が外にある人たちが多いように感じていました。塔子もそうだと思うんです。もしかしたら、もしかしたらですが、塔子は鞍田と出会っていなかったら、息苦しくなってこんな事件を起こしていたのかもしれません。小説で塔子は夫の電話に出なかったことがない、という地の文がありますが、それは、いつも夫につながれていて自分の主体的な時間がないってことじゃないかなと。言いたいことを言えない。まわりの反応を見ながら自分が我慢すればうまくいくと思い込んできた。自分のなかに尺度を押し込んでいる人が、自分で尺度を持てるところまで行動できるプロセスが映画でできたら、今、皆さんに発信する意味があると思いました。

世間が正しくないと思っていても、愛に走っていく高揚感、純潔さ、愚かという徳

車の2人は文楽(人形浄瑠璃)や歌舞伎の心中に向かう男女のよう。
〽此の世のなごり。夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、あだちが原の道の霜。

三島:私が生まれたのは曽根崎新地というところで『曾根崎心中』の舞台となった場所から近く、お初天神という神社でお習字を習っていたくらいですから、おそらく(近松門左衛門の)なんらかの影響は受けていると思います。世間が正しくないと思っていても、愛に走っていく高揚感や、ある種の純潔さ、愚かという徳については、小さいころから聞かされていましたね。小・中・高では、3カ月に1度、文楽や歌舞伎、映画や演劇の授業もあって、果たしてそんな相手に出会うのか? と皆で話していたのを覚えています。


鞍田と塔子が向かうのは曾根崎の森ではなく東京である。病に侵された鞍田に代わり、いつしか塔子が車のハンドルを握る。塔子は会社の同僚、小鷹(柄本佑)と宴会を抜け出た夜、デートまがいの戯れで、自転車に2人乗りしてはしゃぐ場面があるが、この時も塔子がハンドルを握っている。助走は始まっていたのかもしれない。
雪のシーンについてはどうだろう。

三島:雪はすべてを覆い隠しています。自分だけしかいない。相手が現れた時、この人と向き合うしかない。受け入れるか拒否するか。そのことが視覚的に見えてくる。本人たちには雪は寒くて厳しいけれど、見ている側からは夢のような美しさ。それはとても面白いな、と。鞍田は病状からして、もう死んでいるかもしれないわけです。妻夫木さんには、鞍田は亡霊かもしれない、そこにいるのは魂だけかもしれない、という感じでやってもらえますかとお願いしました。そして、雪がすべてとけた春、鞍田もいなくなって、夢のような世界から現実の世界になったとき、塔子は何を選択するのか? 決断のシーンは雪で全てが覆い隠されていたところからすべてがあらわになった現実の世界である必要があったんです。

撮影中も黒い服を着ていることが多いイメージで、インタビューにも黒い服で現れた三島有紀子監督。理由を聞くと、「裏方だから」とのこと。

文=田中千世子[映画評論家・映画監督]撮影=朝岡英輔/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報10月上旬号より転載)


三島有紀子(みしま・ゆきこ)/1969年生まれ、大阪府出身。18歳からインディーズ映画を撮り始め、大学卒業後、NHKに入局。『NHKスペシャル』『トップランナー』など市井の人々を追う人間ドキュメンタリーを数多く企画・監督。03年に劇映画を撮るために独立。フリーの助監督として活動後、「刺青 匂ひ月のごとく」(09)で映画監督デビュー。「幼な子われらに生まれ」(17)では第41回モントリオール世界映画祭で最高賞に次ぐ審査員特別大賞に加え、第41回山路ふみ子賞作品賞、第42回報知映画賞監督賞を受賞した。主な監督映画作品に「しあわせのパン」(12年)「ぶどうのなみだ」(14)「繕い裁つ人」(15)「少女」(16)「ビブリア古書堂の事件手帖」(18)など。小説『しあわせのパン』(ポプラ社)『ぶどうのなみだ』(PARCO出版)を上梓。

Red

●10月2日発売
●BD 5800円+税、DVD 3800円+税
●2020年・日本・カラー・本篇123分+特典映像
[DVD]①オリジナル(日本語)ドルビーデジタル5.1chサラウンド②オリジナル(日本語)ドルビーデジタル2.0chステレオ③バリアフリー音声ガイド(日本語)ドルビーデジタル2.0chステレオ・16:9シネマスコープ・片面2層/[BD]①オリジナル(日本語)DTS-HD Master Audio5.1chサラウンド②オリジナル(日本語)リニアPCM 2.0chステレオ③バリアフリー音声ガイド(日本語)リニアPCM 2.0chステレオ・1080p High Definition・16:9シネマスコープ・2層
●監督/三島有紀子 脚本/池田千尋、三島有紀子 原作/島本理生 音楽/田中拓人
●出演/夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗、片岡礼子、酒向芳、山本郁子、浅野和之、余貴美子
●特典映像(BDのみ)
予告編集(60秒予告/30秒予告/15秒予告)、メイキング映像、イベント映像集(完成披露プレミア上映会/公開直前女性限定試写会/公開記念舞台挨拶)
●封入特典(BDのみ)
リーフレット
●発売・販売元:ポニーキャニオン
©2020『Red』製作委員会

インタビューカテゴリの最新記事