「花と沼」(R15+)[R18+版「キモハラ課長 ムラムラおっぴろげ」] インタビュー 城定秀夫監督[監督・脚本]

「花と沼」(R15+)[R18+版「キモハラ課長 ムラムラおっぴろげ」] インタビュー 城定秀夫監督[監督・脚本]

マイノリティの立場からこういう考え方もあるんだよと提示できるのが、ピンク映画の魅力です

「花と沼」 七海なな、麻木貴仁

 20年公開の「アルプススタンドのはしの方」が、小誌キネマ旬報ベスト・テン10位、映画芸術ベストテン&ワーストテン3位に輝いた城定秀夫監督。

 さらなる一手として登場した珠玉の新作が「花と沼」(R18+版「キモハラ課長 ムラムラおっぴろげ」)であった。昨年の初上映を皮切りに現在も各地での劇場公開が続いており、3月30日にはUPLINK吉祥寺にて音楽×映画の祭典MOOSIC LAB [JOINT] 2020-2021特別招待作品として舞台挨拶付きの上映が決まっている。

 そこで小誌202011/1号の特集現代ピンク映画への招待」の際に行った城定秀夫監督インタビューのロングバージョンをここに公開してみたい。

 城定監督は、新作「花と沼」、そしてピンク映画について熱く語ってくれた。

取材・構成=金子恭未子[映画ナタリー編集部]

ユーモアは大切です

────「花と沼」では、“キモい”ものに性的な興奮を覚えるOLの一花と彼女が思いを寄せる課長の沼田が描かれています。どこから着想を得たのでしょうか?

城定 一時期Twitterで「負の性欲」という言葉がバズったんです。その言葉を初めて知ったときに、普通なら欲情しないもの、例えば気持ち悪いものを見たときに性欲が湧くというようなことを意味するのかな?と想像したんです。実際は、まったく別の意味だったんですが、勘違いしたほうの解釈を映画にしてみたらどうだろう?というのが初期アイデアでした。

────沼田は、彼の言動に不快感を感じる女性社員から「キモハラ課長」と呼ばれ、全社員から敬遠される存在として描かれています。

城定 難しい題材だと思いました。ハラスメントは社会問題ですから、面白おかしく茶化してはいけない。沼田が真面目なだけのキャラクターだったら、女子社員から疎まれる描写がかわいそうに映ってしまう。笑いを交えつつ、周りから“キモい”と思われてしまう沼田の言動を作る必要があった。ユーモアは大切です。

────「恋の豚」を制作されたときも、観ている人に不快感を与えないように物語のバランスを考えたとおっしゃっていました。城定監督は社会の空気をつかんだうえで、マジョリティとは別の視点から物事を切り取っているように感じます。

城定 マイノリティの立場からこういう考え方もあるんだよと提示できるのが、ピンク映画の魅力です。「花と沼」であればキモいものに興奮する一花と、キモいと嫌われてしまっている沼田の視点ですね。今は女性に対して「髪切った?」と声を掛けることも問題になる場合がある。デートに誘ってもセクハラなわけですから、社内恋愛も成立しない。そういったコミュニケーションの難しさについても何かこの作品で示すことができればと思いました。もちろんハラスメントを軽んじたりバカにしてはいけない。バランスが難しいんです。

────セクハラで沼田が会社をクビになったとき、一花が上司に告発したきみと歩実さん演じる同僚をビンタするシーンがありました。沼田を追って物語を観ていたので、あの場面はスカッとしました。

城定 同僚が決して悪いわけじゃないんです。あんなことしたら沼田がクビになるのは当然。でも一花の視点で物事を切り取るとああなる。今まで僕の作品は悪い人が出てこないと言われていましたが、そこにも反発したかった。「花と沼」はいい奴は1人も出てこない。一花も沼田も、一花の同僚もみんなちょっとずつ嫌な奴なんです。「嫌な奴もがんばって生きよう!」ということが描きたかった。

脚本の書き方

────新作「花と沼」は城定監督にとって「恋の豚」(18年)以来となるピンク映画です。脚本はどれくらいの期間で執筆されたのでしょうか?

城定 集中して書いたのは1週間ぐらいなんですが、トータルで約1カ月掛かりました。ここ数年はずっとあらすじは決めずに頭から書き始めて、キャラクターが動き出したら途中から構成を決めています。だんだん固まってきたら、前に戻って書き直しますね。伏線も回収するかどうか決めないでとりあえず出しておく。「花と沼」なら万年筆がそれです。書いているうちに回収できればするし、できないものはあとで削ります。変な書き方ですよね(笑)。

────理系の学校ご出身だと聞いていたので、しっかり構成を立てて脚本を執筆されているのかと思っていました。

城定 脚本の構成って詰将棋みたいなものではあるんです。でも理系脳で書いちゃうと記号的なものになってしまう。ちょっと崩したくて、こういう書き方になりました。でもできあがるとやっぱりカチッとしているなと思います。憧れるのはいまおかしんじ監督が書くような柔らかい脚本。ああいうものはなかなか書けないので尊敬しています。

────城定監督はどのように脚本を勉強されたのでしょうか?

城定 特に勉強はしていないんです。助監督の頃、初稿が2稿~3稿と重なるうちにどう直っていくのか、現場で学びました。師匠である北沢幸雄監督の書き方を一番参考にしたと思います。当時のピンク映画は使用できるフィルムに限りがあったので、北沢監督はシナリオにもカット割にも無駄がなかった。そういう部分で、とても影響を受けていると思います。

麻木貴仁、その魅力

────城定監督の作品によく隠れキャラのように登場する(いまおかしんじ監督作における佐藤宏さんを彷彿とさせる)、麻木貴仁さんが沼田を演じています。麻木さんが演じる沼田には、どこか憎めないかわいらしさも感じました。物語のバランスを取るために、麻木さんを起用したという意図もあったのでしょうか?

城定 そういうところはありますね。ピンク映画に出ている役者さんの中には、もっと強く不快感を与える演技ができる方もいます。でも、沼田が本当に気持ち悪く映ることは僕の狙いではないんです。

────麻木さんはこれまで「悦楽交差点」(15年)「ミク、僕だけの妹」(18年)など城定監督の作品で重要な役どころを演じてきました。監督から見た麻木さんの魅力をどんなところでしょうか?

城定 魅力ですか?……貴仁大好きとか思われたくないんですよね(笑)。

────今回はぜひお伺いしたいです(笑)。

城定 貴仁は役者ではなくスタッフなんですが、エキストラをやってもらうと昔からうまかったんです。それで僕の「悦楽交差点」に出てもらったら、成人映画館のお客さんから予想以上に反響があった。お客さんは彼に自分を投影して観ているのかなと。プロはみんな芝居が上手いんだけれど、素人にはそれとはまた別の味があって、役者じゃない人を使う面白さがあります。例えば古澤健監督の「たわわな気持ち」では監督自身がヒロインの彼氏を演じていましたが、役者には出せない魅力がありましたよね。

抑圧からの解放

────麻木さん以外のキャスティングについてもお聞かせください。「花と沼」では監督と何度もタッグを組んできた七海ななさんがヒロインの一花を演じています。

城定 七海さんは芝居の基礎ができてるし、すごくやりやすいんです。頭もいいし、なんでもできる。最近はピンク映画やVシネマにはあまり出ていないので、ダメもとでオファーしたら、受けてくれました。

────七海さんが眼鏡を掛けた写真をSNSに投稿されていて、城定監督の作品に参加しているんだなとうれしく思いました。

城定 よく見ていますね(笑)。七海さんはかわいらしい人なので地味な女性を演じてもらうために最初は眼鏡を掛けてもらいました。それが定着して、地味で奥手な女性キャラを描くときは七海さんが浮かびます。

────城定監督の作品には重要なアイテムとして眼鏡が頻繁に出てきます。

城定 抑圧されている女性が解放されていくというエロスに興味があるんです。そういうものを描くときに眼鏡はアイテムとして使っていますね。

────今回は七海さん以外に、何度も一緒に仕事をされてきたしじみさん、初タッグのきみと歩実さんがキャスティングされています。

城定 ピンク映画を撮る監督の中で、最初は僕しかしじみさんを起用していなかったんです。でも彼女は仕事がしやすい女優さんなので、みんなが組むようになった。逆に僕はあまりオファーしなくなりました。でも、たまにはいいかなって(笑)。コロナもあって難しい時期の撮影だったので、信頼できる人と一緒にやりたいという気持ちが働いた部分もあると思います。きみとさんは前々から一緒に仕事をしたいと思っていたんですが、なかなかチャンスがなかった。今回一緒に仕事をしてみて、ほかの監督が組みたいと思う気持ちがわかりました。

女性の性欲をテーマに据える

────「ピンク映画全体」についても質問させてください。「花と沼」はテアトル新宿ほかでR15+版を公開する「OP PICTURES+フェス2020」にラインナップされていました。ここ数年一般映画館でピンク映画を上映して広く届けようという動きが活発化していますよね。

城定 正直、僕としてはR15+にすることをあまりよくは思っていないんです。R18+のピンク映画をそのままお見せしたい。ただ、10~20年前から「ピンクはあと5年持たない」なんて言われてきたのがまだ続いている。これは広める努力をしてきたからだと思うんです。今まで通りにやっていたらとっくに潰れていたかもしれない。

────若手監督が新規参入したり、ピンク映画を取り巻く環境も変わってきています。

城定 はたから見ていると大蔵映画さんはピンク映画に対して文化事業みたいな意識があって、守ろうとしているように見える。利益を優先するほかの会社にはできないことです。ただ個人的な意見ですが、経済を回していないのは罪だと思うんです。ある程度利益を享受できるようになってほしいと願っています。

────最後のピンク映画大賞で城定監督の盟友でもある久保獅子プロデューサーが、「ピンク映画を作ってきたのはVシネマをバカにされた復讐でもあった」と仰っていたのが印象的でした。

城定 あれは半分冗談みたいなものですよ(笑)。ただ確かにVシネマは文化としてバカにされてきた部分はあります。僕はピンク映画では食べられないと判断して、Vシネマの業界にいきましたが、デジタルになる前のピンク映画業界はフィルムで撮っているという選民意識が高かった。「Vシネなんか撮りやがって」と言われたこともあります(苦笑)。だからピンク映画に戻ってきたときに、反発心がモチベーションになったという部分は少しあったかもしれません。

────城定監督もフィルムの現場は経験されていますが、フィルムへのこだわりはなかったんでしょうか?

城定 ワンカットワンカット意思を持って撮っていたフィルム時代の映画のほうが好きではあるんです。今は撮りたいものを決めずに、いろんなところから撮ってあとから編集するという手法もありますが、僕はデジタルでもワンカットワンカット意思を持って撮影したい。そういう意味でフィルム時代の撮り方には思い入れがあります。一方でVシネマの業界に入ってから、フィルム撮りとビデオ撮りの何が違うんだろう?と思っていました。質感の違いについては、カメラマンだったら思うこともあると思うんですが、演出家として監督がすべきことは変わらないです。

────城定監督はピンク映画の中で「性を描くこと」をとても大切にされています。今後ピンク映画というジャンルの中で描いてみたいものはありますか?

城定 実は性欲の強い女性は主人公になりづらいんです。だから女性の性欲をテーマに据えることをほかの監督はあまりやらない。でも、僕はそういうものを描いていきたいと思っています。何か隠し持ったものが解放されていく様子を撮りたい。それは僕の作品の一貫したテーマかもしれません。最近は、「作品の核としてセックスを置く」ピンク映画らしいものがなくなってきている気がしています。だから、ジャンルの枠の中でもっと描けるものがあるというのを見せていきたい。オールドスタイルでもまだまだやれるんじゃないかと思っています。

プロフィール
城定秀夫/じょうじょう・ひでお
1975年生まれ、東京都出身。大学在学中から8ミリ映画を製作。ピンク映画助監督を経て03年、「味見したい人妻たち」で監督デビュー、同年度のピンク大賞で新人監督賞を受賞する。その後、ビデオオリジナル作品や一般映画にも活躍の場を広げ、ジャンルを問わず100本以上の作品を監督するほか、脚本家として手がけた作品も多い。

「花と沼」(R15+)[R18+版「キモハラ課長 ムラムラおっぴろげ」]

2020年・日本・70分

監督・脚本:城定秀夫 撮影・照明:田宮健彦 録音:弥栄裕樹 音楽:林魏堂

出演:七海なな、麻木貴仁、きみと歩実、しじみ、山本宗介、久保獅子、守屋文雄、森羅万象

配給:オーピー映画

©️OP PICTURES

 

[上映情報]

MOOSIC LAB [JOINT] 2020-2021

■3月30日(火)[ME③]「花と沼」

舞台挨拶:七海なな、朝木貴仁、しじみ、きみと歩美、城定秀夫監督

MOOSIC LAB [JOINT]2020-2021

インタビューカテゴリの最新記事