時代を駆け抜けた五代友厚と三浦春馬の生きざまが重なる歴史劇

時代を駆け抜けた五代友厚と三浦春馬の生きざまが重なる歴史劇

時代を駆け抜けた五代友厚と三浦春馬の生きざまが重なる歴史劇

知る人ぞ知る近代の偉人

江戸時代末期、1836年の鹿児島に生まれ、薩摩藩士から明治政府の役人を経て実業家となり、現在の商業都市としての大阪の基礎を作りあげた五代友厚。タイトルの「天外者」(てんがらもん)とは、すさまじい才能の持ち主、利口で功績をあげた人、いたずら小僧などの意味を持つ鹿児島弁で、映画の主人公である五代を称したもの。近年の研究によりその功績が再認識された知る人ぞ知る近代の偉人の一人である五代は、2015~2016年放送のNHK連続テレビ小説『あさが来た』に登場したことでも知名度を上げたが、映像作品の主人公として本格的に描かれたのは本作が初めて。そして今回その五代役を演じた三浦春馬のハマりぶりは、その生きざまなども含めて五代自身と重なって見えてしまう。

本作は、現代の日本の礎を築く上で様々な功績を残した五代の生涯を追った作品ではあるが、1本の映画に収める上で、その業績などを細かく追っていくよりも、五代がどのような熱い思いを持って時代を駆け抜けていった人物かという、その人柄を描くことに重きを置いている。そのため、歴史的な背景や具体的な業績などを知らないと、描かれていることのすべてを理解するのは難しい部分もあるが、先の時代を見据えた魅力的な人物であったことはよくわかる。この映画をきっかけに五代についてもっと知りたいと思わせられることだろう。

まさにハマリ役の三浦春馬

そんな魅力的な人物を表現する上で、それを演じた三浦春馬の功績は大きい。前半の血気盛んな青年時代から、後半の落ち着き払った晩年までの変化を違和感なく説得力を持って演じてみせている。まさに全身全霊で演じたであろうことが伝わるこの三浦の芝居があってこそ、五代の足跡の点描に陥らず、身なりや口ぶりは変わろうと、常に胸の奥に熱い信念を抱え、未来への夢や希望を追い続けた人物であったことが感じられる。

前半では実際に親交のあった坂本龍馬、岩崎弥太郎、伊藤博文らとの交流が描かれ、激動の時代を舞台にした青春群像的な物語も楽しめる。他にも五代は、高杉晋作、勝海舟、大久保利通、西郷隆盛、大隈重信、トーマス・グラバーといった日本を語る上で欠くことが出来ない偉人・傑物たちとの親交もあったらしく、その一部は劇中でも描かれており、幕末ものが好きな人にも興味深いはずだ。

薩摩藩の武士から明治新政府の役人となり、実業家へと転身していく後半は、政商と忌み嫌われながらも突き進む姿に生きづらさを感じて苦しくなるが、クライマックスで未来を見据えて「俺についてこい!」と熱く語る姿、そして静かな感動を呼ぶラストに救われる。先が見えすぎる人物であったからこそ、常に理解されにくい部分も多かったのだろうが、こんな人がいたからこそ今の日本があるということ、そして現代にこそまた必要な人材ではないかと思わせられる。それが今この映画を作った意味でもあるのだろうが、この映画製作プロジェクトの成り立ちや五代の業績の一部を解説した映像特典『五代友厚プロジェクトの想い!映画「天外者」が生まれるまで』(本日リリースのBlu-ray豪華版に収録されている)を見ると、その思いがより一層伝わることだろう。

また、同時代を生き、その足跡に重なるような部分が多い渋沢栄一が主人公の大河ドラマ『青天を衝け』にも、五代は登場している。“西の五代、東の渋沢”と並び称された二人が、実際に親交があったかは定かでないようだが、同ドラマを見ている人にも時代背景をより深く知ることができる「天外者」は、とても楽しめるはずだ。

「悔いがない」と語る本作への思い

Blu-ray豪華版に収録されている映像特典の『メイキング~制作過程~』も非常に興味深い。美術や衣裳にもこだわり抜いて作られた本作が、松竹京都撮影所や当時の雰囲気を残した関西各地でロケ撮影された様子がわかる。さらに、クランクイン直前から撮影現場の様子と共に、田中光敏監督のコメント、そして三浦春馬、三浦翔平、西川貴教らメインキャストたちの撮影現場でのコメントも収録。高校の同級生だった三浦春馬との共演を喜ぶ五代の妻役の蓮佛美沙子が、撮影の合間に三浦と写真を撮り合う姿や、撮影現場の片隅で三浦春馬が田中監督と熱心に語り合う様子なども収められている。

特に印象深いのは、三浦春馬が語った「今回の作品は悔いがない。一生懸命やりました」との言葉。今回のハマりぶりもあり、三浦と49歳の若さで亡くなった五代を重ねて見てしまい、共にもっとやりたかったこと、やり残したことがあったのではないかとも、つい考えてしまう。しかし、それは他人の勝手な思いでしかない。彼らが一生懸命にやってきたことには悔いなどなく、成し遂げてきたものがすべてなのだ。そんなことを感じさせる力強い言葉だった。

また、先述のとおり“天外者”とは“すさまじい才能の持ち主”のことだが、三浦はこのタイトルについて五代を指すものではないという独自の解釈をしていたと、メイキング映像の中で監督が明かしている。その詳細はメイキングをみていただきたいが、三浦の誠実な人柄が伝わるエピソードだと感じると共に、五代を演じた三浦自身もまた、“天外者”だったのだと思えて、胸が熱くなった。

文=天本伸一郎/制作=キネマ旬報社

『天外者』

●6月23日(水)Blu-ray&DVDリリース
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray 豪華版(特典ディスク付2 枚組) 7,480円(税込)  DVD 通常版 4,180円 (税込)
●Blu-ray 豪華版特典
【本編ディスク】
・予告編集(特報、予告、TV スポット)
【特典ディスク】
・メイキング~制作過程~
・五代友厚プロジェクトの想い!映画「天外者」が生まれるまで
・イベント映像集(完成披露試写会、公開記念舞台挨拶)
・五代友厚の妻・豊子の故郷を蓮佛美沙子が巡る、「田原本さんぽ」
【仕様・封入特典】
・アウターケース
・フォトブック
●2020年/日本/本編109分
●監督:田中光敏、脚本:小松江里子、出演:三浦春馬 三浦翔平 西川貴教 森永悠希 森川葵 ほか
●発売・販売元:東宝株式会社
©2020 映画「五代友厚」製作委員会

注目映画特集カテゴリの最新記事