黒木瞳監督作「十二単衣を着た悪魔」 女優たちの魅力際立つ女性映画

黒木瞳監督作「十二単衣を着た悪魔」 女優たちの魅力際立つ女性映画

黒木瞳監督作「十二単衣を着た悪魔」 女優たちの魅力際立つ女性映画

8月4日にDVDリリースとなる「十二単衣を着た悪魔」は内舘牧子の小説を映画化した、「嫌な女」(16)に続く女優・黒木瞳の劇場長篇監督第2作。就職試験に落ちまくり、出来のいい弟・水と何かと比べられるフリーターの青年・雷(伊藤健太郎)が、『源氏物語』の世界へと異次元スリップ。彼は偶然持っていた『源氏物語』展の冊子から得た知識と薬品会社の試供品を駆使して、この世界で陰陽師として厚遇され、帝の后・弘徽殿女御の相談役として生きていくことになる。

闘い続ける女性を圧倒的な存在感で表現した三吉彩花

メインは平安時代で生きる雷の人間的な成長だが、作品から強く浮かび上がってくるのは、男性の思惑によって運命が左右される平安時代に、自分で生き方を決めて人生を切り開いていく女性の姿である。

『源氏物語』では自分の息子を次の帝にするため、帝に寵愛される桐壺更衣が生んだ、やはり次の帝候補である光源氏を憎む悪役として描かれる弘徽殿女御。しかしここでは他の女にうつつを抜かす帝を『賢さと情けなさが同居した男』と冷静に評価し、その帝の真意を測りながら『欲しいものは自分でつかむ。守りたいものは自分で守る』という信条を持った、強い女性として彼女を描いている。そんな彼女に雷は、最初は振り回されながら、やがて魅せられていく。その根底に息子への深い愛を抱えながら、帝と光源氏一派に立ち向かっていく弘徽殿女御を三吉彩花が演じている。メイキング映像を観ると、黒木監督は彼女につきっきりでセリフや芝居の指導を事前に行ったらしいが、その成果は絶大で、劇中で20年間にわたる弘徽殿女御の闘い続ける人生を、圧倒的な存在感で表現している。

印象的なヒロイン像を演じた伊藤沙莉

また雷が結婚する倫子を演じた伊藤沙莉も印象的。彼女は弘徽殿女御の命令で雷に嫁ぐが、雷に対して自分の容姿に自信がないこともあって、結婚初夜におびえる気持ちが止まらない。その彼女が泣きだしてしまうところで、雷は優しくキスをして不安を取り除いてやる。このとき倫子は雷の意外な行動に驚いた表情を見せるが、メイキングを観るとこの場面には、黒木監督の俳優に対するサプライズ演出があったようだ。前作「嫌な女」の撮影を見学した時にも思ったが、黒木監督は自分の女優としての経験値から、俳優の生理を考えた繊細な芝居の演出をする。それがこの映画でも生かされていると感じた。また雷と一緒に生きることで幸せを感じるようになる、倫子のヒロイン像も捨てがたい。

コメディ・リリーフとして登場する笹野高史や山村紅葉、ドラマ『ドラゴン桜』でも注目を浴びる雷の弟役の細田佳央太など、他のキャストも魅力。設定は奇想天外だが、女性映画として異彩を放つ作品になっている。

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社

『十二単衣を着た悪魔』

●8月4日(水)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込)  DVD:4,290円(税込)
●Blu-ray・DVD共通特典
【映像特典(予定)】
・劇場予告編
【封入特典】
・オリジナル・ポストカード(4枚組)
●Blu-ray特典
【映像特典(予定)】
・メイキング
・完成報告会見
・一問一答:伊藤健太郎
【音声特典(予定)】
監督・黒木瞳×プロデューサー オーディオ・コメンタリー
●2020年/日本/本編112分
●監督/黒木瞳 原作/内館牧子『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』(幻冬舎文庫) 脚本/多和田久美 音楽/山下康介 雅楽監修/東儀秀樹 主題歌/OKAMOTO’S 「History」(Sony Music Labels)
●出演/伊藤健太郎、三吉彩花、伊藤沙莉、田中偉登、沖門和玖、MIO、YAE、手塚真生、細田佳央太、LiLiCo、村井良大、兼近大樹(EXIT)、戸田菜穂、ラサール石井、伊勢谷友介、山村紅葉、笹野高史
●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 
©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

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