青山真治監督作「空に住む」 懸命に生きるひとたちの心に、ほんのりと光を灯す

青山真治監督作「空に住む」 懸命に生きるひとたちの心に、ほんのりと光を灯す

青山真治監督作「空に住む」 懸命に生きるひとたちの心に、ほんのりと光を灯す

「Helpless」(96)での鮮烈デビューから、混沌とし続ける家族の在りようを、様々なかたちで掘り下げてきた青山真治監督。田中慎弥氏の芥川賞受賞作に挑んだ「共喰い」(13)以来久々の映画となる今作「空に住む」(8月4日にBlu-ray&DVDリリース)も、〝家庭〟を不意に失い彷徨う女性の喪失と再生を、じっくり腰を据えて見つめている。

〝家庭〟を不意に失い彷徨う女性の喪失と再生を描く

両親を交通事故で亡くした直実(多部未華子)は、叔父が投資のために所有する都心の高層マンションの39階の一部屋を無償で貸してもらい、超人見知りの愛猫ハルと移り住む。郊外の古民家にオフィスを構える小さな出版社に勤める直実は、両極端な環境を行き来するだけの単調な日々を過ごす中で、同じマンションに住む人気俳優の時戸(岩田剛典)と知り合い、不毛な男女の仲に陥っていく。

風通しのよい職場のアットホームな雰囲気とは裏腹に、直実には明らかに分不相応な〝我が家〟の異空間は、一見穏やかな佇まいに、いつ修羅場に転じるかも知れない危うい気配もはらむ。妹みたいな姪っ子の世話を甲斐甲斐しく焼くことで、自身の虚無を埋めようとする叔母(美村里江)との対話の端々からは、不穏な緊張感が漏れ出し、どこか似た者同士だからこそ、互いの心境を敏感に察知し先回りしてしまう時戸との密やかな逢瀬には、破局の予感が常に漂う。

そんな近しいゆえに厄介でもある関係性のわずらわしさに思い悩み、現実感の希薄な宙ぶらりんの一室で孤独を深めていく直実を救う、ささやかな出逢い。短い出演で圧巻のインパクトを放つ柄本明や永瀬正敏ら、ただの通りすがりでは決して終わらない面々の語りかけるさりげない言葉は、感銘や発見をもたらす至言として、観る者の胸の奥にも染みわたる。

ファン必見!有無を言わさぬ青山監督の〝ムチャぶり〟

特典のメイキング映像から窺えるのは、出産間近の後輩役で、多部と示唆てんこ盛りの絶妙の掛け合いを好演する岸井ゆきのをはじめ、キャスト陣も口を揃える、青山監督の台詞のニュアンスや間合いにまで気を配る丹念な演出と柔軟性。とりわけ、撮影現場で変わり者具合にさらに磨きがかけられたという時戸の人物像をナチュラルに立体化していく岩田の、ソフトな口調ながら有無を言わさぬ青山監督の〝ムチャぶり〟に献身的に応える素の表情は、ファン必見。

青山真治監督が更新したさまざまな家族、人間の関係

死ぬまで背負い込むしがらみへの恐れと、死後も消えず天空を舞う魂への親しみとの間で揺れながら、肉親の葬儀でも泣けずにいたひとり娘の目から、ようやく涙がこぼれ落ちる。そばにいるのに、なかなか逢えずにいたり、二度と再会が叶わなくなっても、無性に身近な存在に感じられたり。世界の状況が一変し、心身の距離感に何かと狂いが生じがちな今を懸命に生きるひとたちの心にも、ほんのりと光を灯す佳篇である。

文=服部香穂里 制作=キネマ旬報社

『空に住む』

●8月4日(水)Blu-ray&DVDリリース(同日レンタルリリース、先行デジタル配信中)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込)  DVD:4,180円(税込)
●Blu-ray特典
DVD(メイキング映像、イベント映像集:10.4完成披露舞台挨拶、11.9青山真治監督&黒沢清監督公開記念トークショー、予告篇)、リーフレット
●DVD特典
予告篇映像
●2020年/日本/本編118分
●監督・脚本/青山真治 脚本/池田千尋 原作/小竹正人『空に住む』(講談社)
●出演/多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、髙橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明
●発売元:HIGH BROW CINEMA 販売元:ポニーキャニオン 
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