【後編】こがけん×松崎健夫が語りつくす「死ぬまでにこれは観ろ!2021」

【後編】こがけん×松崎健夫が語りつくす「死ぬまでにこれは観ろ!2021」

キングレコードの夏、にっぽんの夏……映画ファンにはお馴染み8年目を迎えたキングレコードのブルーレイ&DVDキャンペーン「死ぬまでにこれは観ろ!」シリーズ。2021年はなんと250本(ブルーレイ127、DVD123タイトル)がラインアップ! 恒例となった「死ぬこれ!」対談は映画評論家の松崎健夫氏と、「ハリウッド映画ものまね」でおなじみ、芸人のこがけん氏が本誌初登場! 3本買うと1本もらえる、2021年の激ヤバ・キャンペーンに沿って、各々4タイトルずつセレクトしてもらった。前編に続いて作品への想いや見どころ、結局ブルーレイとDVDが欲しくなるのはなぜか!? をあますところなく語りつくす。

両者セレクト「恐怖の報酬」

松崎恐怖の報酬」は僕とかぶりましたね。狂っている映画。

こがけん これは激ヤバ! 言ってみれば、原題“Sorcerer”(魔術師)みたいなこと。この映画自体呪われていたんじゃないかってぐらいの不遇な作品ですよね。

松崎 小学生の頃から 、絶対に観ることができないと刷り込まれている一本です。当時も日本で公開されたけど、30分くらいカットされていて、ビデオになって観たけど、その後ずっとソフト化もされず、日本で観るのはもう無理かと思っていたら、2018年にまさかの劇場公開。ヒューマントラストシネマ有楽町で上映されたものの、連日満席で入れなかった。映画ファンは完全ヴァージョンをずっと観たかったんだと思います。

こがけん これも爆破が凄い。最初のリアル爆破シーンで、マジで人が死んでます。……という事実はありませんが、そのぐらいの迫力。ストーリーはニトログリセリンを4人の男で運ぶだけというワンアイデアなんだけど、最初のシーンで爆破を強烈に印象付けしたことで、運ぶという行為にとんでもない緊張感が生まれる。これはフェイクじゃない映像ゆえの凄みだと思います。

松崎 実際にこれをやっているんだ、CGじゃないんだ! ってことに驚く。やっぱりこれが映画の醍醐味ですよ。

こがけん あの映像からは、本当に泥と石油と汗の匂いがしてくるようで。監督のウィリアム・フリードキンはドキュメンタリー的な撮り方をする人で、リアルを追求するあまり、こいつら大丈夫かというくらい4人とも喋らない。黙々と作業するのを映像だけで伝えるシーンが続く。悪党が無理すぎるミッションに挑むという意味でいえばこの作品は、よりガチな「スーサイド・スクワッド」(16)みたいな感じ。そして本当に狂っているのはジャケットにもなっている吊り橋シーンですね。

松崎 12分近く、 延々とやっていますからね。もう無理だよ、と思う。

こがけん 観ているこっちの心が折れてしまう。あまりに揺れが凄くて怖いし、実際、車両は何回も川に落ちたらしいですね。

松崎 あんなジャングルの奥地に車を持っていくこと自体が狂っているとしか言えない。ゆっくり行かないと危ないって刷り込まれた観客の心理をつく見事な演出です。

こがけん ときどき荷台の箱が動くシーンが出てくるんですが、あんな地味な画はないです。それを固唾を飲んで見守る。これこそ“魔術”です。

松崎 映画は連続したシチュエーションを見せられるから、いつの間にかあの箱にニトログリセリンが入っていると思ってドキドキするのがこの映画の面白さですね。

こがけん フリードキンの作品には、他の世界と完全に遮断されて、一つの目的を貫徹することにとらわれてしまいおかしくなってしまう、みたいな人が出てくる。この作品は、彼らが背負った業に対する贖罪のための地獄ツアーから無事に帰還できるのかというような話ですよね。

松崎 オリジナルのアンリ=ジョルジュ・クルーゾー版はカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。そんな作品のリメイクなんて、大概失敗しそうなものなのに、四半世紀後にリメイクしようと思ったこと自体が凄い。今の感覚だと、「レオン」(94)「ショーシャンクの空に」(94)あたりをリメイクするってことですから。

こがけん フリードキンもこれは最高の作品だという自負があったからこそ、自ら4Kデジタルリマスター版を製作し、世界公開したわけですよね。

松崎  先ほど、「スター・ウォーズ」の話をされましたけど、子ども騙しと言われていた特撮ものがあれから一大ジャンルになり、SF映画が作られるようになった。一方で、「地獄の黙示録」(79)や「天国の門」(80)あたりから、リアルに撮影するものはお金がかかるからと作られなくなる 。そして90年代になるとCG技術が発達し、映画が変わった。だから77年は、分岐点なんですよ。アメリカン・ニューシネマが「ロッキー」(76)で終わり、直後に「スター・ウォーズ」が出てきたことを考えると、こういった映画が観られる最後の時期だったんだと思います。

こがけん  「恐怖の報酬」に出てくるトラックか「スター・ウォーズ」のタイ・ファイターのフィギュア、どっちが欲しいかと言ったら皆タイ・ファイターですもんね。僕は悪魔みたいな顔をした〝ラザロ〟のトラックが欲しいクチです。

現代につづく名作

松崎 ちなみに僕が挙げた4作品は1960〜2000年代で選びました。「ドラッグストア・カウボーイ」は89年、「トラフィック」は00年です。「トラフィック」は公開当時と違う感覚で、今観ると、いろんな視点が入っていることに気づく。「パルプ・フィクション」が94年に公開されましたが、同年、7時間超におよぶタル・ベーラの「サタンタンゴ」があった。初めはわからないけど、最後まで観ると一つの物語を多角的に見ている映画だと気づく。理由はわからないけど、時系列をバラバラにして、観客が脳内で物語を再構築することによって映画が成立し得ると考えた人たちが、世界同時多発的にいたんだなと。その後、タランティーノ的映画──会話や映像に存分とこだわる一方、本質的なものは描かれない──があって、89年、「セックスと嘘とビデオテープ」でカンヌに突如現れたスティーヴン・ソダーバーグも、そういう流れを見てきたと思うんです。そこで、「トラフィック」は社会問題と共に、神の視点で“全体像を知るのは観客のみ”という映画の形を作り上げた。

こがけん なるほど。そういう切り口で映画を伝えてくれると、全然見方は変わってきますね。

松崎 「アルジェの戦い」じゃないけど、「トラフィック」も今の物語に見える。ヒスパニックの人たちの状況とアメリカの関係は、20年経っても変わらないんだと驚きます。むしろ悪くなっている。そんな社会のことを知るのも映画を観ることの意義。2000円くらいで社会を知ることができるなんて、こんな得なことはない。

こがけん それでいうと、僕も残りの2つ「ONCE ダブリンの街角で」(07)「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」(18)は僕の好きな〝音楽”という切り口で選びました。「ONCE」は、最初は主役の男女2人の歌の素晴らしさに魅了されたんですが、一筋縄にはいかないストーリーで何より2人の距離が縮まっていかない。その原因は女性が移民であるという移民問題の壁。そして、この問題は今現在も続いているという事実。ジョン・カーニーの初期の作品で、社会問題にアプローチしている点も含め、かなりの名作だと思います。

松崎 僕がもう一本挙げている「ドラッグストア・カウボーイ」は他社で廃盤になったものですが、それをキングレコードさんが引き取って同じ形で出してくれた。80年代中頃からのミニシアター・ブームで、 ジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダースが紹介されたとき、彼らの作品をおしゃれ感覚で観ていた人たちがいたんですね。その後、ガス・ヴァン・サントがこの作品で日本に紹介され 、今なお作品を作り続ける中、今の視点で観ると、疑似家族の物語に見える。ヴァン・サントは後にゲイだとカミングアウトしたけど、今改めて観ると、一人で生きていく覚悟というものを描いていたんじゃないかと思う。30年経って見え方が変わってきました。

こがけん 僕は高校時代にミニシアターで「トレインスポッティング」(96)とかを観て、一時期は「ハリウッド映画なんて」みたいな感じだったんです。その時代を経たからこそ今があると思いますけど、あの頃の自分を殴ってやりたい(笑)。それに、当時は映画が好きな人ほどファッションと結び付けられるのが嫌だという人は多かったと思うんですけど、入り口としては悪くなかったですよね、発信力もあったわけだし。

松崎 僕も、ヴィジュアルは重要だと思います。昔はよくドラマのワンシーンで、「トレインスポッティング」や「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」(86)のポスターが部屋の壁に貼ってあったりして、実際に観たことはなくても作品を知ってる人は多かったと思う。“この映画だ”というシンボリックなものがなくなりつつある中、僕が「死ぬまで〜」シリーズを好きなのは、一枚絵のヴィジュアルをジャケットに継承して使ってくれるところ。

こがけん 当時のイメージそのまま、って重要ですよね。

松崎 廃盤品を改めて自社からリリースするとなったら、本来ヴィジュアルも変えたくなると思うんだけど。昔、新聞広告で見たものが蘇るようで、そこも嬉しい点です。

こがけん 最後にお薦めしておきたい一本は「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」。この作品の意義は、どんなジャンルでも音楽の素晴らしさは伝わるよってことです。「ヘヴィ・トリップ」って意味ある題名も好きですね。このラインアップの中では軽いタッチで観られる、万人受けしやすい、いい作品だと思います。コメディ・テイストだし、主人公のキャラも愛嬌があって憎めない。入り口にどうですかねといった感じです!

松崎 入り口で言うと、大ヒットしている「アメリカン・ユートピア」(20)のデイヴィッド・バーン率いるトーキング・ヘッズのライブドキュメンタリー「ストップ・メイキング・センス」(86)が映像特典もついて廉価版になっています。DVDは持っているけど、今回買いなおそうと思っている一本です。

こがけん とにかく言い続けるしかないですね。映画の面白さ、そしてソフトの未公開映像を見てほしいということを!!

文=岡﨑優子/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報8月下旬号より転載)

 

こがけん/1979年生まれ、福岡県出身。2001年からコンビで芸人活動を始め、12年から1人で活動。代表的な持ちネタに「ハリウッド映画ものまね」がある。19年、R-1ぐらんぷり決勝進出、20年、ユニット・おいでやすこがでM-1グランプリ準優勝に。映画好きな芸人等を集めたトークライブ『こがけんシネマクラブ』を開催するほか、『金曜ロードショー』の前説番組『まもなく金曜ロードショー』でナビゲーターを務めるなど、映画関係の活動も多数。映画「イソップの思うツボ」(19)「劇場版 ほんとうにあった怖い話〜事故物件芸人2〜」(21)にも出演

松崎健夫(まつざき・たけお)/1970年生まれ、兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻終了。テレビ、映画の制作現場を経て映画評論家に。雑誌や映画パンフレットへの寄稿、テレビ、ラジオ、ネット配信の情報番組等に多数出演。デジタルハリウッド大学で講師を務めるほか、キネマ旬報ベスト・テン選考委員や、田辺・弁慶映画祭審査員、京都国際映画祭クリエイターズファクトリー部門審査員を務めている。映画評論家・添野知生氏とYouTube動画『そえまつ映画館』を毎週金曜配信、芸人コンビ・米粒写経との生配信番組『映画談話室』に出演中。

 

「死ぬまでにこれは観ろ!2021」キング洋画250連発!
<シリーズ史上 最大・最強ラインナップ!!(当社比>
8月4日発売
ブルーレイ:各2,750円(税込) DVD:各2,090円(税込)

3枚買ったら、全250タイトルの中からもれなく1枚もらえる!キャンペーン実施中
<応募期間>2021年8月4日(水)~2021年12月31日(金)

発売・販売元/キングレコード
© 2021 KING RECORD CO., LTD.ALL RIGHTS RESERVED.
作品ラインナップなどの詳細はこちらから↓

特集記事カテゴリの最新記事