第1回「最近よく聞く言葉、“その年”で」 ~大好評エッセイ『あたしだけ何も起こらない』エピソード紹介

第1回「最近よく聞く言葉、“その年”で」 ~大好評エッセイ『あたしだけ何も起こらない』エピソード紹介

アラサー女性の心をわしづかみにする韓国エッセイ『あたしだけ何も起こらない』

第1回「最近よく聞く言葉、“その年”で」エピソードまるごと紹介

 

「結婚もせず子供もいない、遅れたからって何よ。これはこれで悪くない」と思いながらも、人より遅いペースで人生を歩んでいく女性の焦燥や不安を、笑って泣けるポジティブな自虐エピソードと共に紡ぐ話題の韓国エッセイ『あたしだけ何も起こらない “その年”になったあなたに捧げる日常共感書』(ハン・ソルヒ=著、オ・ジヘ=イラスト、藤田麗子=訳/キネマ旬報社刊)。共感必至の全24話の中から、特に心に刺さる3つのエピソードを全3回でご紹介します。【第1回「最近よく聞く言葉、“その年”で」 】

第1回「最近よく聞く言葉、“その年”で」 

第2回「遅れるということの美学」

第3回「人生、その無謀な挑戦」

 

第1回「最近よく聞く言葉、“その年”で」

 このところ“その年”で、という言葉をよく耳にする。

 「その年で、その服はちょっとやりすぎだよ……」

 「その年で、好き勝手な恰好をしちゃダメですよ~」

 「その年で、そのカバンはないですよね?」

 

 このところ“その年”で、という言葉をよく耳にする。ここでの“その”は、非常に危険かつ難儀なニュアンスで迫ってくる。「あんた、その年でそんな飲み方したら死ぬよ!」という先輩Kの珠玉のような忠告が思い出されるせいかもしれない。

 “その年”になってからの私の人生を振り返ってみる。約40余年前、徒競走が得意だったパパの血気盛んな精子と、多少きまじめすぎたママの卵子が出会って、この世界に突然私という存在が加わった。もちろん私の意志とは関係なく……。

 10代の頃はそこそこ「かわいい」と言われたりもして私なりの全盛期を送ったが、思春期に入ると同時にどんどん増えた脂肪とパッとしない成績のせいで人生の苦渋を味わった。苦労して入学した大学では、学業よりも“飲酒の特訓”に打ち込んだ。おかげで20~30代を無駄に過ごし、社会のゴミになりかけた。しかし、ひょんなことから運よく作家という肩書きを手に入れて、社会の構成員として何とか生きているうちに、気づけば人々が言うところの“その年”になっていた。でも、その年だからといって、どうしてここまで気を遣い、注意しなければならないことだらけなのか到底理解できない。

 

 コスメショップで、普段使いのリップグロスを何気なく手に取ったとしよう。店員が近づいてきて「お客様の年齢は……」と聞いてきたら、私は指名手配犯にでもなったかのように、精一杯、首をすくめてこう言い返す。

 「76年生まれですが……」

 すると、店員は間違いなく私の手の中のリップグロスを優しくも断固とした手つきで奪い取り、「(その年齢なら)こちらのほうがよくお似合いになるはずですよ」と言いながら、もっと高いリップグロスを差し出すのだ。ゴールドに光り輝く、高級感あるパッケージのリップグロスを……。服屋に行っても、靴屋に行っても、カバンを買いに行っても同じことだ。

 

 40代=20代×2という公式が成立するかのように、“その年”が支払うべき金額は何かと2倍になりがちだ。しかし、もっと絶望的なことは別にある。支払う金額は2倍になったにもかかわらず、実際は大して成長していない自分の姿だ。あれほど遠く、高いところにあるように思えていたその年になったのに、私は今も同じ場所でかろうじて踏ん張っているだけである。走っている途中に転んでもそれだけで済んだ過去の日々とは違い、“その年”に達した私は何らかの結果を出さなければならないようだ。

 

 しかし、特筆に値すべきこともなく、手ぶらで立っているような気がして、きまり悪いことこの上ない。まるで明け方のコーヒーショップに置かれた季節外れのクリスマスオーナメントのように、わびしく空しい感情が陣痛のように周期的に襲ってくる。心臓と胃の中間あたりでヒグラシが鳴きたてているかのようだ。

 

 カフェの外から20歳の頃の私が、“その年”になってしまった私を残念そうに悲しげな瞳で見つめているような気がして、何度も暗い窓の外を眺めてしまう。

 

 悪い点は2倍に増え、いい点は半分に減ったような“その年”になった今、私はこれほどまでに不完全な姿で生き続けてもいいのだろうか? 解決策の見つからない悩みの淵に立っている。

 インターネットのタロット占いにすがるような、弱りきった一日の連続だが、人生が100年だと思えば、まだ半分も生きていない。自分を急かすことなく、もうしばらく見守っていてもいいのではないだろうか?

 

『あたしだけ何も起こらない “その年”になったあなたに捧げる日常共感書』より、#1「最近よく聞く言葉、“その年”で」を転載

 ※無断転載禁止

第2回に続く

 

 

■『あたしだけ何も起こらない “その年”になったあなたに捧げる日常共感書

女性共感度100%の年齢考察イラストエッセイ。あたしだけ人生何もない? いいえ、スタートが遅いだけです! アラサー女子の飽くなき疑問と焦りにそっと寄り添う、笑って泣ける日常共感書。

ハン・ソルヒ=著、オ・ジヘ=イラスト、藤田麗子=訳

仕様:四六判カラー/232頁/価格:1,595円(税込)/発行:キネマ旬報社

※電子版書籍も発売中

いつからか結婚の話題を出さなくなった両親、いざ結婚へのプレッシャーが消えると沸いてくる焦りと挫折感、ムカつくほど広がっていく毛穴、日に日に低下する記憶力、人生で最も輝いていた瞬間へのノスタルジーetc……。自分だけ置いてきぼりのような人生の中、年齢をまたひとつ重ねていく女性の共感を呼ぶエピソード満載で贈る、笑いと涙の年齢考察イラストエッセイ。

最近よく聞く言葉、“その年”で。“その年”でそれはちょっと……。年を取るって制限がつきもの?
年を取るって失っていくことなの? ミドル世代女子の飽くなき疑問と焦りにそっと寄り添い、
“自分らしく生きる”人生の選択を応援する、日常共感書。

大人気コラムニスト、ジェーン・スー氏がコメントを寄稿!
「あまりにも正直すぎて、気が滅入ったあと声をあげて笑ってしまった。
大丈夫、なんとかなるよ。」―ジェーン・スー氏

 

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