類まれな活劇スター “ジャン=ポール・ベルモンド” の魅力、ふたたび!

類まれな活劇スター “ジャン=ポール・ベルモンド” の魅力、ふたたび!

類まれな活劇スター “ジャン=ポール・ベルモンド” の魅力、ふたたび!

2021年9月6日に逝去したジャン=ポール・ベルモンドの国葬の映像を見て、改めてこの映画俳優の偉大さに思いを馳せた映画ファンも多かったのではないだろうか。日本でも2020年に「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選1」「2」特集が開催されるや予想を超えた大ヒットとなり、ベルモンドの根強い人気を鮮やかに印象づけたばかりであった。

ベルモンドの名前はシネ・フィルの間では長い間、ジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」(59)と「気狂いピエロ」(65)の伝説的な栄光とともに語られてきた。しかし、ヌーヴェル・ヴァーグの神話はベルモンドの豊饒なキャリアにとってはあくまで一側面にすぎない。

今回発売される「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」(Blu-ray BOXⅠが2月16日、BOXⅡが3月16日発売)では、まずフランス映画史の中でも類を見ないアクションスター、ベルモンドの融通無碍で、ノンシャランな魅力がたっぷりとつまっているBOXⅠ収録の「ド・ブロカ大活劇編」を紹介したい。

まるでバスター・キートンのサイレント喜劇のように

「リオの男」 a film by Philippe de Broca © 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.

フィリップ・ド・ブロカはクロード・シャブロルの「二重の鍵」(59)やフランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」(59)の助監督を務めたが、当初からヌーヴェル・ヴァーグの<作家主義>とは一線を画し、デビュー作「恋の戯れ」(60、未公開)から軽妙洒脱なコメディ映画のジャンルを目指した。

その背景には彼のアルジェリア戦争体験がある。「リオの男」(64)の公開当時、ド・ブロカはあるインタビューで次のように語っている。

「アルジェリア戦争での一年半の間に私は苦痛と恐怖に満ちた瞬間を何十回と味わった。『リオの男』をコメディ大活劇にしたいと思ったのは、アルジェやアフリカで私が味わったギリギリの、それでいて胸がドキドキするようなとてつもない体験の記憶を自分の人生の圧縮型として、デフォルメして描きたかったからだ」

「リオの男」のベルモンドはまるでバスター・キートンのサイレント喜劇のように全篇を疾駆する。たとえば建設中の副都心ブラジリアに走ってやってきたベルモンドは車の包囲網を次々にかわし、工事中のビルを一気に駆け上がるや、板やロープを伝って隣のビルに乗り移る。さらに追手が車で逃走すると自転車で追走し、水上飛行機に乗り移ると海の中にまで果敢に突っ込んでゆく――。

ほとんどのアクションシーンはノースタントでベルモンド自らが演じており、途方もない身体能力が次々に披歴されるのをただ茫然と眺めるほかないが、ヒロインを演じたフランソワーズ・ドルレアックのコメディエンヌとしての魅惑を最大限に引き出したのもド・ブロカの大いなる功績だ。リオの貧民街で少年たちに囲まれ、サンバのリズムで突然、微笑みながら踊り出す彼女のコケットリーといったら!

続く「カトマンズの男」(65)は香港、インド、マレーシアなどにロケを敢行、オリエンタリズムを過剰に強調した演出が哄笑を誘う。京劇の舞台上でのドタバタなどオーソン・ウェルズの「上海から来た女」(47)のパロディのようだ。クライマックスはネパールの寺院から気球で脱出するシーンである。上空から降りてくるロープに繋がった錨をベルモンドが追いかけ、ようやく錨に掴まったベルモンドをぶら下げた気球が寺院の間を滑空してゆく、夢のようなファンタスティックな名場面は忘れがたい。

「アマゾンの男」(00)は黄金コンビの掉尾を飾る作品で、老境に入ったベルモンドの滋味あふれる緩やかな活劇精神にふれる悦びはまた格別なものがある。

深い味わいのBOXⅡ「伝説のダンディズム編」

「相続人」 a film by Philippe Labro ©1972 STUDIOCANAL – Euro International Films S.p.A. ALL RIGHTS RESERVED.

Blu-ray BOXⅡ「伝説のダンディズム」はアクションよりも、陰翳が深い、シブい味わいのベルモンドのポートレイト集の趣きがある。

「相続人」(73、フィリップ・ラブロ監督)は西欧屈指の大立者が謎の飛行機事故死を遂げ、その真相を探る後継者たる息子をベルモンドが演じている。手に負えない猟色家であり冷徹極まりない権力者という「市民ケーン」(41)の主人公を彷彿させる人物造型は異色だが、表情一つ変えずにカルラ・グラヴィーナを平手打ちの応酬の果てに陥落させてしまう冷酷漢ぶりなど印象深い。

「薔薇のスタビスキー」(74)はアート派の名匠アラン・レネとベルモンドの組み合わせが当時、大いに話題となった。久生十蘭の名作『十字街』でも有名なスタビスキー事件を描く。1930年代のフランス政財界を震撼させた稀代の詐欺師スタビスキーをベルモンドは、「相続人」とは好対照な、典雅で謎めいた、さまざまな逸話に彩られた生きた伝説のような人物として浮き彫りにしている。ヒロインのアニー・デュプレーが身にまとうイヴ・サンローランの衣装のように煌びやかで虚飾に満ちた社交界の描写が冴えわたっている。

「エースの中のエース」(82、ジェラール・ウーリー監督)は、1936年のベルリン・オリンピックを背景に、ユダヤ人少年とその家族をナチスから救うために奔走する元空軍パイロットでボクシングの仏代表チームのコーチをベルモンドが嬉々として演じている。

冒頭近く、「戦争なんてくだらない」とベルモンドが呟くシーンがあるが、国家を超える友情というジャン・ルノワールの「大いなる幻影」(37)以来の普遍的なテーマがこの戦争喜劇には通奏低音として流れている。ヒトラーとベルモンドの爆笑必死の対決シーンをはじめナチスそのものを笑殺するようなギャグがつるべ打ちされているのがなんとも小気味よい。

こんな痛快な反戦コメディ作品がこれまでDVD化も劇場公開もされていなかったのはちょっと信じられないほどである。

文=高崎俊夫 制作=キネマ旬報社

「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」

●「Blu-ray BOXⅠ ド・ブロカ大活劇編<初回限定版>」2月16日(水)リリース
16,500円(税込)
【収録作品】
1)リオの男 2)カトマンズの男 3)アマゾンの男 
【BOX仕様・封入特典】
・アウターケース
・江戸木純 責任編集・24Pブックレット封入
Blu-ray BOXの詳細情報はこちら

●「Blu-ray BOXⅡ 伝説のダンディズム編<初回限定版>」3月16日(水)リリース
16,500円(税込)
【収録作品】
1)相続人 2)エースの中のエース 3)薔薇のスタビスキー 
【BOX仕様・封入特典】
・アウターケース
・江戸木純 責任編集・24Pブックレット封入

 

「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」

●「Blu-ray BOXⅠ ハードアクション編 <初回限定版>」リリース中
22,000円(税込)
【収録作品】
1)恐怖に襲われた街 2)危険を買う男 3)警部 4)プロフェッショナル 
【BOX仕様・封入特典】
・アウターケース
・江戸木純 責任編集32Pブックレット封入
Blu-ray BOXの詳細情報はこちら

●「Blu-ray BOXⅡ 冒険ロマンス編<初回限定版>」リリース中
22,000円(税込)
【収録作品】
1)大頭脳 2)大盗賊 3)オー! 4)ムッシュとマドモアゼル 
【BOX仕様・封入特典】
・アウターケース
・江戸木純 責任編集:32Pブックレット封入

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