世界で称賛された「ドライブ・マイ・カー」、メイキング映像で明かされる濱口監督の演出力

世界で称賛された「ドライブ・マイ・カー」、メイキング映像で明かされる濱口監督の演出力

世界で称賛された「ドライブ・マイ・カー」、メイキング映像で明かされる濱口監督の演出力

2021年、「ドライブ・マイ・カー」はカンヌ国際映画祭で脚本賞ほか4賞に輝いた。その後もシカゴ国際映画祭や全米映画批評家協会などで受賞、今年に入ってからはゴールデン・グローブ非英語部門で最優秀賞を獲得。主要メディアからは「静謐な傑作」(ニューヨーク・タイムズ)、「罪悪感と告白についての圧倒的に優れた、力強い物語」(ニューヨーカー)といった評価が続いた。そして、アカデミー賞ノミネート作品が先日発表され、国際長編映画賞と、作品賞にダブルノミネートされた。これは2019年の「パラサイト 半地下の家族」、1998年の「ライフ・イズ・ビューティフル」など過去7例しかない快挙となる。

秘密を抱えたままこの世を去ってしまった妻・音(霧島れいか)と、舞台俳優/演出家の残された夫・家福(西島秀俊)。家福は演劇祭で『ワーニャ伯父さん』を上演するべく広島へ移り、そこで運転手の渡利(三浦透子)と出会う――。同作の主要なシークエンスは鮮やかな赤のサーブ900内での〝会話〟で構成され、しばしば車に乗り込んだ家福と音、渡利や高槻(岡田将生)それぞれが相手の話を〝聞く〟姿そのものがスクリーンに映し出される。家福は移動中、つねに亡き妻の声に耳を傾けている。『ワシントン・ポスト』掲載の批評において、マイケル・オサリヴァンは同作を「〝聞くこと〟そして相手をしっかりと見つめることについての物語」であるとして、「観る者にも〝聞くこと〟を求める」作品と評した。〝聞くこと〟は人を癒すこともあれば、ときに恐ろしいまでに人を変貌させてしまうこともある。

濱口演出についての役者サイドからの証言

「ドライブ・マイ・カー」を貫通するのは抑制的な会話だが、しかし、それでいて同作には濱口の敬愛するジョン・カサヴェテスがフィルムにとらまえたような感情の蠢きが記録されている。2月18日に発売となるBlu-ray&DVDの「Blu-rayコレクターズ・エディション」のみに付されたおよそ2時間におよぶメイキング「DOWN THE ROAD The Making of “DRIVE MY CAR”」では、その演出の一端に触れることができる。作中、原作にはない稽古場での演技指導のシークエンスにおいて独特な「本読み」が登場する。これは濱口が「ハッピーアワー」(15)以降、自身の方法論として結実させつつあるメソッドの一部であり、その点で「ドライブ・マイ・カー」は〝メタ濱口作品〟でもある。長大なフッテージから構成されたメイキングは、濱口演出についての役者サイドからの証言であり、そこから窺えるのは厳格な本読みの運用や、問答形式のサブテクストによる役者たちの変化の一端だ。

たとえば、チャンを演じたソニア・ユアンはこれまで演じることにつきまとってきた「相手の台詞を聞くこと」の困難を打ち明ける。台詞に慣れ過ぎてしまうと、台詞は〝ただの台詞〟になり、相手が発する言葉の意味やそこに流れる感情に注意を払わなくなってしまう。『ジャン・ルノワールの演技指導』での「イタリア式本読み」に範をとった、感情やニュアンスを排して脚本を読み上げる過程で、役者たちは相手の台詞をただ〝聞くこと〟を求められる。

〈最初どうなるのか不安でしたが、本読みの回数を重ねてから実際の撮影に臨むと私は相手役の外国語の台詞を理解できて、私の台詞も理解されていると感じました〉

「感情を計画してしまうことを控えさせる作業」でもある本読みを経て、本番の撮影で役者たちはそこで湧き上がってくる感情を解放して演じる自由を与えられる。ユナを演じたパク・ユリムは言う。

〈撮影の際に初めて役の感情に向き合ったとき、とても幸せで、言葉にできないほどの集中力を感じて。とにかく、その感情を初めて感じられた瞬間が私にとって、すごいプレゼントのような気がして、とても良いことだったんです〉

脚本を身体に沁み込ませるようなプロセスを経て、撮影時にはそこで初めて発露される相手役の感情にたがいに耳を傾け合う。劇中劇として上演される『ワーニャ伯父さん』では、ばらばらの国籍を持つ役者たちが自身の第一言語を発して〝対話〟をする。翻訳しえないコミュニケーションのなかに、確かな感情の交流が巻き起こる。この地点において現実の濱口による演出と、虚構上の「ドライブ・マイ・カー」が重なり合う。

西島秀俊が現場で体験した〝何か〟への驚き

同作のクライマックスには、およそ13分におよぶ高槻と家福の対話があるが、西島秀俊は現場で体験した〝何か〟への驚きをインタビューで明かしている。

〈(高槻の話を聞いた)家福としての僕も驚きの反応を見せますが、狙ってそうしたのではなく、あの瞬間、明らかにこれまでとは違った高槻像、また物語の像が見えて、自然な驚きが態度となって出てきました〉

このシークエンスは二人の正面からのショットで構成されており、観客もまたカメラを眼差しながら話す高槻の声を聞き、家福の心情を追体験する。

メイキングでの役者たちの証言を辿っていくと、演技に対してサポーティブであり続けようとする映画作家としての濱口竜介が浮かび上がる。カットやOKを出す監督は避けようもなく現場を支配する存在だが、「ドライブ・マイ・カー」では緻密な撮影前の準備を経て、始まった本番では役者たちの自由が重んじられた。それによって生み出されるものを濱口は――西島の言葉を借りれば――「純粋に信じている」。とてもミニマルに、しかし映画への信によって支えられたカメラの前で、古くて新しい偶然が立ち上がる。

文=山下研 制作=キネマ旬報社

「ドライブ・マイ・カー」

●2月18日(金)Blu-ray&DVDリリース
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●ドライブ・マイ・カー インターナショナル版 Blu-rayコレクターズ・エディション(2枚組):7,150円(税込)
【特典映像】171分
・DOWN THE ROAD The Making of “DRIVE MY CAR”
・監督:濱口竜介×主演:西島秀俊 対談
・初日舞台挨拶
・予告編集
【封入特典】
ブックレット

●ドライブ・マイ・カー インターナショナル版 Blu-ray:¥5,170(税込)
【特典映像】3分
・予告編集

●ドライブ・マイ・カー インターナショナル版 DVD:¥4,180(税込)
【特典映像】3分
・予告編集

●2021年/日本/本編179分
●監督:濱口竜介
●原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
●脚本:濱口竜介、大江崇允
●出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、アン・フィテ、ペリー・ディゾン、安部聡子、岡田将生
●発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:TCエンタテインメント 
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

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