いま話題の劇場公開作と合わせて鑑賞しよう――「チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」編

いま話題の劇場公開作と合わせて鑑賞しよう――「チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」編

『チェリまほ』から紐解く、変わりゆく男性たちのラブストーリー

(C)豊田悠/SQUARE ENIX・「チェリまほ THE MOVIE」製作委員会

童貞のまま30歳を迎えたことで、触れた人の心を読む“魔法”を手に入れてしまったサラリーマン・安達(赤楚衛二)と、その同期の完璧イケメン・黒沢(町田啓太)。アラサー男性2人の恋をコミカルかつ繊細に描いたTVドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称『チェリまほ』)。2020年10月の放送開始直後よりSNSで話題となり、台湾、香港、韓国、タイほか200以上もの国や地域で見ることができる、ワールドワイドな人気を博したのも記憶に新しい。その『チェリまほ』の劇場版「チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」(配給:アスミック・エース)が4月8日より公開される。

ドラマ版で紆余曲折を経て恋人同士となった安達と黒沢だが、劇場版では安達に転勤話が舞い込んだことから遠距離恋愛がスタート。ポップな世界観はそのままに、さらに奥ゆきのあるラブストーリーへ進化している。

◇同性愛とその当事者を特別視しない

この『チェリまほ』ブームに先駆けて2020年、日本を席捲したのがタイ発のBLドラマ『2gether』だ。ニセの恋人同士を演じることになった青年タイン(メータウィン・オーパッイアムカジョーン)とサラワット(ワチラウィット・チワアリー)が、やがて本当の恋人になってゆくまでを、“じれキュン”展開満載で描いたもの。友人や兄弟など、周囲の人々は彼らの恋を当たり前のように祝福し、応援している点が印象的だった。同性愛とその当事者を特別なものとして見ない――この視点は『チェリまほ』とも共通している。

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この2作に顕著なように、ここ数年、同性愛を扱った作品は様変わりしてきつつある。かつての同性愛映画には、“禁断の愛”要素や、“差別や偏見との闘い”といった面に焦点が当てられたものが多い傾向にあった。しかし現在は、これらを強調しすぎていない(もちろん、まったく無視しているわけではない)。より軽みがあって見やすく、かつ見応えのある作品が増えてきている。

その成功した例が、マンガ家よしながふみの同名マンガを原作にした『きのう何食べた?』だろう。弁護士の筧史朗と美容師の矢吹賢二のカップルの、食と生活を綴る物語だ。史朗を演じるのは西島秀俊、賢二役には内野聖陽。共に演技派として名高いふたりが醸しだす“年季の入った恋人同士”の空気感は、実にナチュラルだ。ゲイであることを基本的には伏せている史朗と、公私ともにオープンにしている賢二。それゆえに摩擦もときおり生じるのだが、そんな細やかな衝突や葛藤、そして仲直りの積み重ねが丁寧に描かれている。『チェリまほ』同様、こちらもTVドラマから劇場版が製作されヒットした。

(C)2021 劇場版「 き のう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社

◇直球の純愛、性愛込みの恋愛、“バディもの”の変化形

TVドラマ版も劇場版も大ヒットした作品では、『おっさんずラブ』も忘れてはならない。ごく平凡な会社員・春田(田中圭)が、いぶし銀の上司・黒澤(吉田鋼太郎)と、エリートの後輩・牧(林遣都)から同時に想いを寄せられる、男×男×男の三角関係ラブコメディだ。自分は異性愛者だと信じていた春田が、同性の目から見ても魅力的な男性たちに告白されたことによって、性的指向がゆらいでいく姿がコミカル描かれる。それでいて恋愛描写はまっすぐなほどピュアで、特に春田から「ごめんなさい!」と交際を断られ、黒澤が涙をぽろぽろ流す場面(第4話)に胸打たれた人も多いだろう。男女間のラブストーリーでは、もはや説得力を持ちえないような直球の純愛。それを男性同士の恋愛に置き換えて描くことで、『おっさんずラブ』は幅広い視聴者から支持されたのではないだろうか。

一方、男性同士の恋愛に性愛込みで大胆に踏み込んだものが、映画「窮鼠はチーズの夢を見る」だ。監督は「世界の中心で、愛をさけぶ」をはじめ、数々の恋愛映画を放ってきた行定勲。 優柔不断な主人公・恭一と、彼のその性格につけ込んで肉体関係を持つ後輩の今ヶ瀬が織り成す危うい関係を描いている。関ジャニ∞の大倉忠義が恭一に扮し、成田凌演じる今ヶ瀬と文字どおり、身も心もさらけ出して愛しあうシーンは息を呑むほど美しく、猛烈にエロティックだ。

また、ずばり同性愛そのものをメインに据えるのではなく、その気配をほんのり匂わせる塩梅の作品もある。その好例が「さんかく窓の外側は夜」だ。霊が祓える男・冷川(岡田将生)と、視える男・三角(志尊淳)が心霊探偵コンビの活躍を描いたミステリーで、霊視をする際に必然的にボディタッチをする。ある意味、あからさまな描写よりもずっとドキドキさせられるのだ。“バディもの”特有の緊密な関係性を、効果的に生かしているといえよう。

(C)2021映画「さんかく窓の外側は夜」製作委員会 (C)Tomoko Yamashita/libre

◇同性愛映画の拡がりと、その可能性

恋愛のその先に待ち受けている結婚や、家族を作ること。ひいては互いの人生を引き受けること。そういった部分にまで目を向けているのが、日本映画界の最注目監督のひとり、今泉力哉監督の「his」だ。

(C)2020映画「his」製作委員会

一度は別れた恋人同士の迅(宮沢氷魚)と渚(藤原季節)。ゲイであることを隠して生きるのに疲れ、田舎町へ移住した迅の前に、幼い娘を連れて渚が数年ぶりに現れる。彼らが自分たちの居場所を作ろうとしてゆく様子を、優しいまなざしで見つめた作品だ。同性愛者を取り巻く現状をぼかすことなく描くのと同時に、誰もが幸せに生きていける社会を築くにはどうすればいいのか、という普遍的な命題が内包されている。
 
同性愛を切り口に、さまざまな恋愛、生き方、社会の在りようを模索する――。ここで紹介したものだけでなく、こういった作品は世界的に少しずつ、着実に増えてきている。もしも興味が湧いてきたら、是非ご覧になっていただきたい。

(C)豊田悠/SQUARE ENIX・「チェリまほ THE MOVIE」製作委員会

 

文=皆川ちか 制作=キネマ旬報社

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