「アベンジャーズ」ルッソ兄弟が描く、紛争地帯の現実『モスル ~あるSWAT部隊の戦い~』

「アベンジャーズ」ルッソ兄弟が描く、紛争地帯の現実『モスル ~あるSWAT部隊の戦い~』

『モスル ~あるSWAT部隊の戦い~』は、長い戦争の果てに、廃墟同然と化したイラクの都市・モスルでISIS(イスラム過激派組織)の占拠から街を奪還するために闘い続ける戦闘集団・SWAT部隊の姿を描いた、正に「本物の戦場」の緊張感を肌感覚で体感させる戦争アクション大作だ。(現在デジタル配信中、5月4日(水)にBlu-rayリリース)

戦場の「最前線」に放り込まれたようなリアリティ

製作を務めたのは、世界中で興行記録を塗り替えた超大ヒット作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』などの監督でもある、ジョー&アンソニー・ルッソ兄弟。アメリカの雑誌「ザ・ニューヨーカー」に掲載され大きな話題となった事実に基づく記事を元に、イラクの紛争地帯の内情を全編アラビア語によるリアリティに満ちた描写で描く展開は、これが中東諸国で作られた映画ではなく、完全なアメリカ資本による作品とは、にわかに信じられないほど。監督・脚本は『21ブリッジ』『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』などの脚本を手掛け、本作が監督デビューとなるマシュー・マイケル・カーナハン。アクション映画ファンなら『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』『THE GREY 凍える太陽』などで知られるジョー・カーナハン監督の弟、と言えばピンとくる人もいるだろう。

オープニングから息を呑む空撮で映される、モスル市内の荒れ果てた光景(本作はモロッコに街を模した、巨大なオープンセットで撮影されている)と共に、正に紛争地帯の「最前線」にいきなり放り込まれたかのような映像は、これまでハリウッドが描いてきた戦争映画とは全く別種の、生々しい「殺気」にも似た気配を感じさせる。誰もがその壮絶な世界観に、序盤から引き込まれずにはいられないはずだ。

謎の戦闘集団「SWAT部隊」とは何者なのか?

本作を鑑賞していく上で、観る者の脳裏には二つの疑問が生じてくる。ここで登場する「SWAT部隊」のメンバーは一体何者で、彼らが命を顧みず戦火を突き進む「真の目的」とは一体何なのか?という点だ。本作の主人公である21歳の新人警察官・カーワは、ISISの襲撃によって絶体絶命の窮地に陥ったところをSWAT部隊に救われ、部隊を率いるリーダーにその場で徴兵されて彼らの一員となる。しかし部隊の面々は全員がISISに身内を殺されたという過去がある以外には多くを語らず、更に隊員たちの「信頼」を得ていないという理由から、任務の詳しい内容すら説明されない。

この「何も分からない」状態のまま、激しい銃弾の飛び交うモスルの市街を縦断し、その惨状を目の当たりにしていく感覚こそ本作の肝だ。彼らは10数名の元警察官で編成された特殊部隊で、本部からの命令を無視して独自の戦闘を行っているが、行く先々でその存在を疎んじられ、時には市民に敵意すら向けられる、言わば組織の「はみ出し者」たちの集団だ。しかしその絆は単なる「同志」という感情を超えた、何か切実なもので繋がっていることを伺わせる。やがて少しずつ垣間見えてくる、彼らの「人間」らしい感情の変化、そして呟かれる言葉の裏に秘められた彼らの「胸の内」を、どうか見逃さないようにしてほしい。

アラブ系俳優たちが見せる、威厳に満ちた演技

そして本作の一番の見せ場は、何と言ってもオープニングから最後まで、殆ど途切れることなく繰り広げられ続ける市街戦の凄まじさだ。どの方向から敵の襲撃が待ち構えているか全く分からない状況下で、限られた弾薬と人員を率いて進んでいくSWAT部隊のリーダーに扮したスヘール・ダッバーシの、眼光の鋭さの中にもどこか人情味を垣間見せる演技が素晴らしい。

敵には一切の情けを掛けず、時には作戦の遂行にも非情な決断を下す「鬼隊長」でありながら、決して戦死した隊員の屍を蔑ろにすることなく、最期まで「責任」を果たす事に重きを置く彼を慕い、どこまでも熾烈な戦禍へと身を投じる隊員たち。絶望的に破壊された街を目の当たりにしても、それでも自分たちの生まれ育った土地の「再建」を信じる隊長の、ふとした合間で見せる優しさが、余計に心に沁みる。彼を初め、これまで数多くのハリウッド戦争映画で「名も無き敵」を演じる存在として消費されてきた、アラブ系俳優たちが見せる威厳と誇りに満ちた姿に、誰もが胸を打たれるはずだ。

2022年の「今」こそ、観る価値のある戦争の真実

敵の奇襲と略奪によって家族も故郷も奪われた男たちが、命をかけてゲリラ戦を仕掛けながらも、熾烈な戦闘によって次々と戦死していく、容赦ない戦争の実態。それでも残された少数の隊員たちが敵の本拠地へと向かう決断を下す悲壮な勇姿は、2022年現在の我々の目を通して観ると、どうしてもロシアによる軍事侵攻に対し現在も抵抗を続けている、ウクライナの人々と重なって見えてしまう。この映画が終盤に迎える、悲痛としか言い様のない「目的地」を目の当たりにした後では、残酷で非道極まりない「戦争」という現実と、それでも戦わなくては永遠に失われる「平和」という矛盾について、誰もが自問自答せずにはいられないはずだ。そこで各々が導き出されるだろう問いかけへの「答」を、観終わった後も心の中に刻み込んでほしい。

文=Takeman 制作=キネマ旬報社

『モスル ~あるSWAT部隊の戦い~』

●4月20日(水)よりデジタル配信中

●5月4日(水)Blu-rayリリース(同日DVDレンタル開始)
デジタル配信&Blu-rayの詳細情報はこちら
●Blu-ray:5,280円(税込) ※日本語吹替も収録
●映像特典:予告編集 

●2019年/アメリカ/本編102分
●監督・脚本:マシュー・マイケル・カーナハン 製作:ジョー・ルッソ、アンソニー・ルッソ、マイク・ラロッカ、ドーン・オストロフ、ジェレミー・ステックラー
●出演:スヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エリヤス、クタイバ・アブデル=ハック、アフマド・ガーネム、ムハイメン・マハブーバ、ワリード・エル=ガーシィ
●発売・販売元:ポニーキャニオン 
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