歌舞伎の明日を担う中村壱太郎×尾上右近が 圧倒的映像美で魅せる『ART歌舞伎』

歌舞伎の明日を担う中村壱太郎×尾上右近が 圧倒的映像美で魅せる『ART歌舞伎』

歌舞伎の明日を担う中村壱太郎×尾上右近が 圧倒的映像美で魅せる『ART歌舞伎』

コロナ禍以降、苦境を打破すべく試行錯誤を重ねてきたライブエンタメ業界。生命線である「劇場に観客を入れて生の舞台を披露する」機会が激減した中にあって、歌舞伎界でも新たな表現を模索する動きが続々と生まれた。スタンダードな「舞台中継の配信版」からオリジナル配信作品まで形態は様々だが、若手歌舞伎俳優のホープ二人が、ジャンルを超えて歌舞伎の未来を見据えた『中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎 花のこゝろ』は、とりわけ異彩を放つ企画だ。ライブ配信→劇場公開を経て、6月3日にブルーレイ&DVDが発売される。

気心の知れた二人が新たな表現の可能性を拓く

今でこそ配信作品はエンタメに触れる際の選択肢の一つとなったが、本作は「非常手段」的な配信モノとは一線を画している。その初動時期の早さを考えると、将来も見据えて映像作品としてのクオリティを追求した慧眼には驚くばかりだ。コロナ禍初年の2020年4月には歌舞伎座をはじめ主だった劇場がすべて公演を中止し、先が見えない状態だった。表現活動に携わる心ある者であれば、「自分たちに今何ができるか」を考えずにはいられなかっただろう。

そんな一人、上方(関西)歌舞伎の将来を担う若手女方として、また脚本・演出も手がける才人として知られる中村壱太郎(かずたろう)は、いち早く動き出した。「“創る”ことを諦めない。舞踊表現に的を絞り、今までにない歌舞伎の映像表現を」と考えた壱太郎がまず声をかけたのは、2歳下の朋輩・尾上右近だ。映画、ドラマ、ミュージカルなど歌舞伎以外にも活動の幅を広げ、バラエティ番組でも奔放な個性を発揮する右近とは年齢も近く、お互いに仲の良さを公言する気心知れた間柄。彼らよりも一世代上では、松本幸四郎と市川猿之助という企画力・行動力に長けた先輩たちも多彩なアイディアで歌舞伎界を盛り上げていたが、2020年春当時20代後半だった壱太郎・右近の若手コンビも、鮮やかに狼煙を上げたのである。

歌舞伎とは字の如く、音楽、踊り、演技が一体となった総合芸術だ。壱太郎は日本舞踊吾妻流の家元(舞踊家名は吾妻徳陽)でもあり、右近もまた歌舞伎の伴奏音楽・清元の唄い手(太夫名は清元栄寿太夫)の顔も持つ。歌舞伎には欠かせない舞踊・音楽それぞれの面でも芸に真摯に取り組む姿勢が、単なる「仲良しの先輩・後輩」関係に終わらず、互いに切磋琢磨し合える「同志」であり続けているのだろう。壱太郎に誘われた右近は、二つ返事でプロジェクトへの参加を決めた。

日本を代表するアーティストが結集

この企画の「本気」を感じるのは、タッグを組む相手に、その道の一線で活躍するプロを揃えたことだ。中村壱太郎と尾上右近のほか、日本舞踊家の花柳源九郎と藤間涼太朗が出演し、舞踊作品としての「核」を盤石なものに。音楽面では、浅野祥(津軽三味線)、藤舎推峰(笛)、中井智弥(箏・二十五絃箏)、山部泰嗣(太鼓)、友吉鶴心(琵琶)という、錚々たる和楽器奏者たちが参加し、個々の楽器の特色を最大限に活かした迫力ある演奏を披露している。祈りや希望、物語性を帯びた多種多彩な踊りとの“セッション”が実にスリリングだ。

ビジュアル面でも、冨沢ノボル(ヘアメイク)、里山拓斗(衣装)、edenworks(ヘッドピース)というモード界で活躍する才能が集結し、「ART歌舞伎」らしいコンセプトを体現している。表題作の創作舞踊物語『花のこゝろ』では、夫を亡くした女(壱太郎)と、戦いで傷を負った男(右近)の夢とも現ともつかないドラマが展開していくが、能や歌舞伎、日本舞踊でもなじみのある世界観を、シェイクスピアやギリシャ劇をも思わせるオリジナリティーにあふれたヘアメイクと衣装で、時代や洋の東西を超越したコンテンポラリーアートへと昇華させた。幻想的で悲哀に満ちた物語の世界へといざなう、友好鶴心の琵琶と語りも忘れがたい。

雨天も逆手にダイナミックな映像体験

本作が収録されたのは、東京・靖国神社の能楽堂だ(収録日は2020年7月1日)。「夜桜能」など様々な芸能、演武が奉納されるこの屋外の能舞台で舞台形式にこだわり、90分間ノンストップの一発撮りで撮影された。7台のマルチアングルから捉えた演者たちの表情や一挙手一投足の迫力だけでなく、アーティストのMVやコンサート映像を得意とするクリエイター陣の参加によって、照明・演出・編集まで抜かりのないダイナミックな映像作品に仕上がっている。本番当日はあいにくの雨に見舞われたが、夕闇が濃くなる中、次第に強くなっていく雨音を跳ね返すかのように演奏と踊りのボルテージも神がかり的に熱を帯び、さらに照明に浮かび上がり煌めく激しい雨粒が、かえって神秘的な雰囲気を醸し出すなど、雨天さえも演出効果を生む一要素となっている。立体的な映像美とグルーヴ感を、その場で目撃していたかのように体感できること請け合いだ。

『中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎 花のこゝろ』メイキング一部公開!

今回のブルーレイ・DVD化では、顔合わせから本番当日までの貴重な舞台裏が覗けるメイキング映像と、中村壱太郎×松崎健夫(映画評論家)、尾上右近×山崎二郎(バァフアウト!編集長)の特別対談2本を加えた映像特典も収録。コロナ禍にあって「なぜ我々は表現するのか」という大きな命題に真剣に向き合い、果敢に挑戦した彼らの貴重な記録でもあり、本編と併せて観るとなお胸が熱くなってくる。

文=市川安紀 制作=キネマ旬報社

「中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎 花のこゝろ」

●6月3日(金)Blu-ray&DVDリリース
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込)
【映像特典】
・特別対談(中村壱太郎×映画評論家・松崎健夫/尾上右近×バァフアウト!編集長・山崎二郎)
・メイキング

●2020年/日本/本編86分
●総合演出:中村壱太郎 監督:牛島悟郎
●出演:中村壱太郎、尾上右近、花柳源九郎、藤間涼太朗、浅野祥(津軽三味線)、藤舎推峰(笛)、中井智弥(箏・二十五絃箏)、山部泰嗣(太鼓)、友吉鶴心(琵琶)
●発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 
©ART KABUKI Project

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