アツい映画の季節がやってきた!こがけん×松崎健夫が語る「死ぬまでにこれは観ろ!2022」【前編】

アツい映画の季節がやってきた!こがけん×松崎健夫が語る「死ぬまでにこれは観ろ!2022」【前編】

アツい映画の季節がやってきた!こがけん×松崎健夫が語る「死ぬまでにこれは観ろ!2022」【前編】

2021年に続き、映画評論家・松崎健夫と、いまもっとも映画に造詣の深い芸人として、 またハリウッド映画ものまねでおなじみのこがけんの二人が、 9年目に突入したキングレコード夏の恒例キャンペーン 『死ぬまでにこれは観ろ!2022 キング洋画320連発!』から、キングレコード一押し作品と、それぞれのおすすめ作品をピックアップして語る。 今年のラインアップは昨年より70本増! キングレコードが映画とDVDの多様性を広げます!!

「死ぬこれ」一押し!〝永遠女優シリーズ〟の「天使とデート」

松崎 今回は事前に、キングレコードから激押し作品として「アングスト/不安」(83)「天使とデート」(87)「ようこそ映画音響の世界へ」(19)の3本を挙げられました。

こがけん ん〜、「アングスト/不安」は最後にしましょう(笑)。

松崎 では88年に、僕が高校生のとき劇場に観に行った「天使とデート」から。

こがけん この時代じゃないと絶対作られない映画でしょうね。エマニュエル・ベアールが動物と戯れるだけのシーンに、あんな長い尺を取るなんて今では許されないですよ! のどかでおおらかな時代だったってことがわかります。

松崎 当時、フィービー・ケイツはすごく人気があって、この映画で初めてショートカットにしたのも話題でした。

こがけん それなのにベアールの引き立て役。こんな使い方ってありですか?

松崎 「初体験/リッジモント・ハイ」(82)や「グレムリン」(84)でヒロインだったのに、よく脇に徹したなと誰もが思ったはず。

こがけん ベアール演じる天使が地上に落ちてきて、見た者すべてが心を奪われてしまう。あまりに直球の設定も笑えるし、青少年を動員しようという気もむんむん。

「天使とデート」©1987 STUDIOCANAL. ALL RIGHTS RESERVED.

松崎 ベアールが森の泉で水浴びするシーンね。

こがけん エフェクトやらでうまいことやってレイティング(年齢制限)を避ける戦略的な意図も見える。人々が天使に見つめられると目が離せなくなって、ついつい言うことを聞いてしまう、というベタな演出も気持ちよかった。25年ほど前の作品ですが、天使の羽の動きや飛んでいる様子が、かなり自然で安っぽさはなかったですね。

松崎 特殊効果のリチャード・エドランドは「スター・ウォーズ」(77)で注目された人。「ミリィ/少年は空を飛んだ」(86)でも空を飛ぶエフェクトをやっていて、その技術にはすでに定評があった。

こがけん 脚本、演出、特撮のバランスもよいし、何よりエマニュエル・ベアールはきれいだし。

松崎 ベアールはこの前にフランス映画の「愛と宿命の泉 PART II/泉のマノン」(86)が公開され、その後ハリウッドに呼ばれて出演したのが「天使とデート」。当時、アメリカ英語以外の言語を話す俳優が、ハリウッドではあまり受け入れられない時代だったので、天使だから喋らないという設定もいいアイデアだった。

こがけん 主人公のジムを演じるマイケル・E・ナイトも愛嬌があっていい。日本で公開された映画の出演は本作一本のみなんですが、演技や顔、表情の作り方など、ライアン・レイノルズ味がありますよね。

松崎 フィービーもこの後結婚して映画界から遠ざかり、ベアールはハリウッドではパッとせずフランスに戻って評価を上げ、「美しき諍い女」(91)が話題に。俳優の運命ってわからないですね。いずれにせよ、あのときの輝きが残されていてよかったです。

映画をもっと好きになるドキュメンタリー「ようこそ映画音響の世界へ」

「ようこそ映画音響の世界へ」©2019 Ain’t Heard Nothin’ Yet Corp.All Rights Reserved.

こがけん 「ようこそ映画音響の世界へ」、最高でした! 取り上げられている映像とその音は、名作の名シーンばかり。

松崎 音だけを取り上げるのではなく、映画史を俯瞰した構成で、大学で講義を受けるよりも、これ一本観たほうがいいかもしれない。

こがけん “音が映画にとっていかに重要なものか”ということが多くの人に伝わるよう、とてもわかりやすく映像化されているのが魅力ですね。

松崎 映画制作を目指す人の必読書と言われる『マスターズ・オブ・ライト アメリカン・シネマの撮影監督たち』や『映画の瞬き 映像編集という仕事』を読んでからこれも観たら、撮影、編集、音響と、映画の重要な要素が分かる。

こがけん サイレントからトーキーになったときの革命がどれほどのことだったか、というのもわかったし、その見せ方も素晴らしい。それと、モノラルからステレオに替わるシーンは、絶対ヘッドホンで聴いたほうがいい。あんなに説得力ある演出はない! 映画は、映像だけでなく、半分は音で成り立ってるということがよーくわかります。

松崎 映画監督は皆そう言いますよね。映画の観方、聴き方が変わると思います。

こがけん 音をカスタムメイドするフォーリーアーティストという人たちがいて。大根などの野菜を切って効果音を作ったりするのを見たことあるって人は多いと思うんですが、その種明かし映像がTikTokやYouTubeでバズッているのをよく見かけます。それは工程が斬新で、かつ見た目に訴えるものがあるからだと思うんですけど、この映画ではその他すべての、一見地味かも知れない音響の工程にもフォーカスして、その仕事ぶりがいかにすごいかということに時間を割いている。そして、成功した映画の半分は音が担っているってこと、それでも音響デザイナーの地位が確立されたのはごく最近のことだということも教えてくれる。これを観れば音響デザイナーの見方も変わるし、結果的により映画を楽しめるようになりますよね。アカデミー賞を見ていて、録音賞や音響編集賞ってどういう賞かわからないという人はマストで観るといいでしょう。

松崎 最近だと2020年の第92回アカデミー賞で 、音響編集賞は「フォードvsフェラーリ」、録音賞は「1917 命をかけた伝令」と分かれたけど、この二つの賞を同じ作品が受賞するのが多かったので、一昨年より統合されてしまいました。やっていることが全然違うし、そもそも別々に評価をすべきだから賞が設けられたはず。その意味を我々も理解したほうがいいと思います。

こがけん この映画は、音響によって素晴らしい作品ができたという事例を積み重ねて見せていくミルフィーユ構造で、もっともっと音響について教えてほしいと思いました。

松崎 例えば「スター・ウォーズ」のR2D2の音声は今では誰もがわかるけど、最初はそれが観客に伝わるのかどうか試行錯誤したとジョージ・ルーカスが言及している。SF映画では世の中に存在しない音も作るわけだけど、観客がそういう音なんだろうと思わなければ成立しない。すごいことを考えるものだなと。

「ようこそ映画音響の世界へ」©2019 Ain’t Heard Nothin’ Yet Corp.All Rights Reserved.

こがけん 「スター・ウォーズ」の戦闘機の話も震えましたね。TIEファイターとXウィングは、積んでいるエンジンが違うんだから、飛行音を違う音にしようって言い出した人は天才過ぎる。テーマ曲以外、効果音だけで作品を判別できるのは「スター・ウォーズ」が初めてじゃないですかね。

松崎 「トップガン」(86)の話も出てくるので、これを観ると新作「トップガン マーヴェリック」の観方が変わります。「トップガン」の戦闘機の音をリアルじゃないと言う人もいますが、実際の音では迫力がなかったので、ある意外な音を足すことで、本物のように感じる音を作っているんですね。

こがけん 映画のなかでも言っていましたが、音響の人たちは映画に魔法をかけている!

松崎 しかも言語も宗教も考え方も違う世界中の人たちが観て、同じように感じる音を作らなきゃいけない。エスペラント(言語の異なる諸民族同士の相互理解を目的とした人工言語)みたいです。

こがけん 僕は毎年夏に「プライベート・ライアン」(98)を観るのが恒例なんですが、5・1chで観ていると、あまりの音の迫力に弾が頭をかすめていくような錯覚に陥る。本作に冒頭のノルマンディ上陸のシーンの音響の話が出てきたときには興奮しました。

松崎 「プライベート・ライアン」冒頭のノルマンディ上陸場面は、 ほぼ主観ショットで、自分たちが戦場に放り込まれたような感覚になる。かつてそんな映画はなかったから当時は皆驚きました。

世界を不安に落とし入れる驚異の音と撮影「アングスト/不安」

「アングスト/不安」©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

こがけん そして主観といえば、「アングスト/不安」。1983年の映画ですが、日本公開されたのは2020年、SNSでも話題になりました。

松崎 「世界各国で上映禁止」という、謳い文句も過激な感じで。

こがけん 席を立つ人の気持ちもわかりました。だって他者の視点がない、ずっと自分語りのモノローグで、自分勝手な理屈が延々と続く。殺人鬼の視点の映像は殺人ドキュメンタリーみたいに見えるし、死体を運ぶシーンをあれほど長い尺で見せられたこともないし。

松崎 時代的なものありますね。70年代に、実際の殺人を記録したスナッフフィルムが存在するという都市伝説があって、「8㎜」(99)はそんな伝説の真偽について描いた映画。見てはいけないもの、犯罪者の心理を描写する映画が作られる時代でもあった。表現的には「アングスト」より残虐なホラー映画はいくらでもあるけど、この映画が人を嫌な気分にさせるのは殺人鬼の妄執をずっと聞かされるから。

こがけん 彼の思考に共感したくないという嫌悪感、そこに引き込まれたらどうしようという恐怖もある。

松崎 最近、映画は登場人物に共感できないとダメだという人が増えたけど、これは観客の共感を得ることをまったく意図していない映画。

こがけん 殺人鬼の男を撮るカメラが異常に接近していて、それによって彼の視野の狭さが表現されている。同時に観客は自分たちのプライバシーエリアをずっと侵されているようで不快で不安になる。

松崎 やっていることは違うけど、「プライベート・ライアン」と同じ理由で、周囲の状況が見えないと不安になるということを監督はわかっているのでしょう。

こがけん 画面が男の歩き方に同調している。リグをつけたカメラを俳優の体に装着して撮っているからですよね。

松崎 この3年前の「シャイニング」(80)でステディカムが一般化し、人が歩いているのに揺れないことの不自然さを表現するようになりましたよね。

こがけん 男が出所する前の刑務所内のシーンは腰より低い位置から見上げるように、出所した瞬間から、空から見下ろすような俯瞰ショットになる。感情が抑圧されていた場所から解放されたことで、自分のほうが上位にいるんだという主観映像をカメラ位置で表してもいる。

松崎 あと効果音が異常に大きい。咀嚼音とか靴音とか、実際の音よりも強調しています。
こがけん 実話に基づいているというのもありますが、全くエンタメ的な演出をしないという腹のくくりかたもすごい。

松崎 スナッフフィルムのように、殺人の過程を見せるなら死体を撮るはずだけど、監督は最後に死体を目撃した人のリアクションを見せて終わる。決して上映禁止になるような過激な映画を撮りたかったわけじゃないのがわかる。

こがけん そう、決して悪趣味な映画として作られた作品ではなく、殺人鬼の心理を知りたいという人々の興味をうまく利用したアート系作品という雰囲気。そして何より、最後まで見せるパワーがある。殺人鬼に共感できなくていいんですよ。むしろされては困ります(笑)。自分の人生では絶対体験できない他人の人生を疑似体験するタイプの映画で、これもれっきとした意義のある映画体験です。

後編に続く…(後編は松崎&こがけんのおすすめ3本について語る!7/8(金)アップ予定)

文=岡﨑優子/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報7月下旬号より転載)

松崎健夫(まつざき・たけお)/1970年生まれ、兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻終了。デジタルハリウッド大学客員准教授。テレビ、映画の制作現場を経て映画評論家に。雑誌、パンフレットをはじめさまざまなメディアで執筆、テレビ、ラジオ番組等で映画紹介を行っている。映画評論家・添野知生氏とのYouTubeチャンネル『そえまつ映画館』は毎週金曜更新。

こがけん/1979年生まれ、福岡県出身。2001年から吉本興業に所属し、芸人として活動。ハリウッド映画ものまねで人気に。19年、R-1ぐらんぷり決勝進出、20年、ユニット・おいでやすこがでM-1グランプリ準優勝。映画関連のテレビ番組、イベントなどの出演多数。ミュージカル『GREASE』、舞台『スーパー銭湯LIVE「ユーラン・ルージュ〜笑いの源泉かけ流し!〜」などにも出演。

 

「死ぬまでにこれは観ろ!2022」キング洋画320連発!
<史上最多!“大豊穣”ラインナップ!!(当社比>
第一弾:7月6日(水)発売 第二弾:8月10日(水)発売
ブルーレイ:各2,750円(税込) DVD:各2,090円(税込)

3枚買ったら、全320タイトルの中からもれなく1枚もらえる!キャンペーン実施中
<応募期間>
7月発売タイトル:2022年7月6日~2022年12月31日まで
8月発売タイトル:2022年8月10日~2022年12月31日まで

発売・販売元/キングレコード
© 2022 KING RECORD CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
作品ラインナップなどの詳細はこちらから↓

特集記事カテゴリの最新記事