“佐藤健のブレないすごみ” 出演作を重ねるごとに自らの限界をアップデート
様々な役に挑戦し、俳優としての在り方を追求し続ける佐藤健(『護られなかった者たちへ』)

自分の可能性の限界を打ち破り、誰も見たことのない地平を切り拓く!佐藤健ほど、そこに強いこだわりを持っている30代の俳優はいないような気がする。

【映画サイト「スカパー!映画の空」とのコラボ記事】

2007年の「仮面ライダー電王」で連続ドラマ初主演を飾り、同年の『劇場版 仮面ライダー電王 俺、誕生!』で映画初主演。2008年のドラマ「ブラッディ・マンデイ」や2009年の『ROOKIES -卒業-』、2010年の『BECK』などの話題作でメキメキと頭角を現してきた。しかし、佐藤の圧倒的な存在感と表現力を印象づけたのは、言うまでもなく主人公の凄腕の剣士、緋村剣心を演じた2012年の『るろうに剣心』だ。

本作では、冒頭の鳥羽伏見の戦いのシーンから、黙々と人を殺し続ける残虐で怖い「人斬り抜刀斎」と呼ばれる剣心を観客に印象づけていた佐藤。その後、剣心は「不殺(殺さず)の誓い」を立てることになるが、雪の積もった土壁を駆け、宙を舞うスピーディかつ立体的な殺陣は人間業を超越。人を斬らなくなったその身体の中にいまだ、人斬りの血が変わらず流れ続けていることを強く画に刻みながら、巨悪に立ち向かっていく彼の生き様を確立していった。

そして、それから2年後に公開された2部作の続編『るろうに剣心 京都大火編』(2014年)と『るろうに剣心 伝説の最期編』(2014年)では殺傷力のない逆刃刀を駆使して格段に進化したソードアクションを炸裂させ、「流浪人(るろうに)」としての剣心のキャラクターを揺るぎのないものに。

さらに、2021年には、佐藤自身がどうしてもやりたかった、剣心の頬の「十字傷」の謎と彼が「不殺の誓い」を立てるきっかけとなった亡き妻、巴(有村架純)との知られざる愛に迫る『るろうに剣心 最終章 The Final』、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の2作に挑戦。暗殺者として恐れられていた剣心が、巴との出会いでどのように変わっていったのか?そして自らが招いた、愛する人の死が彼にもたらしたものは何だったのか?佐藤はその核となるエピソードを自らの肉体で説得力を持って示さなければ剣心を演じきったことにはならないと思っていたに違いない。

誰も見たことのない、ほかの人がやっていないアクションを視覚化する!そこに対する佐藤の挑戦は、「るろうに剣心」シリーズだけに留まらない。

『いぬやしき』で闇を抱えたダークヒーローをリアルに表現

桜井画門の同名人気コミックを実写化した『亜人』(2017年)では、「見たことのある」アクション表現を極力排除。主人公の青年、永井圭に扮した佐藤は、「死ねない」という本作ならではの圭の設定を最大限に活用。同じく不死身であるテロリスト、佐藤(綾野剛)と激突するクライマックスのバトルでは、絶対に「死なない」2人だから可能なアクションを構築・追求していった。

「死ねない」体質の主人公、永井圭を演じた『亜人』

さらに、「キングダム」シリーズの佐藤信介監督が奥浩哉の同名コミックを実写化した2018年の『いぬやしき』では、宇宙人による改造手術を受けて超人的なパワーを手に入れてしまう高校生、獅子神皓を演じ、のちに人々を恐怖に陥れる究極のダークヒーローとして変貌する過程を表現。木梨憲武演じる同じ能力を持った冴えない初老のサラリーマン、犬屋敷壱郎を追い詰めるクライマックスのバトルでは、残虐極まりない、とてつもない破壊力の攻撃を手加減なしで繰り出すことを徹底!破壊行為にいっさいの迷いがないそのシャープな戦闘スタイルが、邪悪な表情と相まって獅子神の極悪非道ぶりと奥深い闇をリアルなものにしていた。

改造手術を受けて、全身が兵器となった平凡な高校生、獅子神皓(『いぬやしき』)

佐藤が極めようとしているのは、もちろんアクションだけではない。原作・大場つぐみ&作画・小畑健の「デスノート」コンビによる同名人気コミックを『モテキ』(2011年)などの大根仁監督が映画化した2015年の『バクマン。』では、目まぐるしく動く漫画家の脳内をプロジェクションマッピングで視覚化する大根の演出に新鮮さを覚えながらも、佐藤自身は観た人の心を揺り動かすリアルな芝居にこだわっていた。

声なき人々の苦しみを全身全霊で表現した『護られなかった者たちへ』

『世界から猫が消えたなら』(2016年)での佐藤の繊細な芝居も忘れられない。映画プロデューサー、川村元気の同名小説を『帝一の國』(2017年)などの永井聡監督が映画化した作品で、佐藤は脳腫瘍で余命わずかと宣告された主人公の郵便配達員の青年「僕」と彼にそっくりな「悪魔」の一人二役に果敢にチャレンジ。「悪魔」を演じる時の芝居が過剰にならないように気をつけながら、函館で生きてきた「僕」の健やかな心を自らの肉体と細やかな表情の変化や仕草などで印象づけることに力を注ぎ、映画を観た人たちがその死を悲しむような主人公の「僕」になるように努めた。

また、朝井リョウの直木賞受賞作を、『愛の渦』(2014年)などの演劇界の鬼才・三浦大輔が映画化した『何者』(2016年)では、表向きは普通の好青年ながら、内側にはドロドロしたものを抱えている就活生の二宮拓人を生々しく体現。コミック原作の明確なキャラクターとは違う、ある意味最も表現しづらいこの難役を、以前から友人だった朝井をコピーする方法で自分のものに。さらに、2017年の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』では、結婚式の直前に昏睡状態に陥り、意識を取り戻した後も自分の記憶だけが欠落している恋人に寄り添い続けた実在の青年に、佐藤は「演じる」のではなく、彼そのものに「なる」というスタンスで臨んだ。ドキュメンタリータッチの撮影を徹底させた瀬々敬久監督(『64-ロクヨン-前編&後編』ほか)のもと、恋人役の土屋太鳳と共に「芝居に見えない」芝居にこだわったからこそ、観客にも恋人たちの圧倒的な愛と生きる勇気がストレートに伝わったのだろう。

 
意識不明から目を覚ますも記憶喪失になってしまった恋人に寄り添う青年を演じた『8年越しの花嫁 奇跡の実話』

だが、佐藤の挑戦はまだまだ終わらない。瀬々監督と再びタッグを組んだ2021年の『護られなかった者たちへ』では、彼は殺人事件の容疑者という意表をついた役柄に大きく舵を切ってファンを驚かせた。

中山七里の同名ミステリー小説を映画化した本作は、東日本大震災から9年後の宮城県の都市部で、全身が縛られた状態で放置され、餓死させられるという凄惨な殺人事件が連続して起こるところから始まる。被害者はいずれも善人、人格者と言われる男たちだ。やがて捜査線上に、容疑者の利根泰久が浮かび上がる。この利根こそ、佐藤が演じた問題の男なのだが、知人を助けるために放火、傷害事件を起こした彼は服役し、刑期を終えて出所したばかり。一応元模範囚という触れ込みだが、短い髪とつり上がった鋭い眼は殺気を孕んでいるし、言葉数少ないその佇まいはいつでも攻撃をしかけてきそうで、見るからに怖い。

スクリーンに映った佐藤は、そんな危ない男のキャラクターを一瞬にして観客の目に焼き付ける。しかも、そこに何かしらの陰や悲しみをちゃんと感じさせているから、阿部寛が演じた刑事の笘篠と一緒に、観る側も彼の胸の内に興味を持ち、その行動を追いかけることになるのだ。

本作はそんなサスペンスの形を借りた一級のエンターテインメントでありながら、ニュースがあまり取り上げない「生活保護」のシステムを中心に、理不尽な社会の状況に苦しむ生活困窮者の現実を炙り出す問題作でもある。そして、利根もただの容疑者ではなく、そこにメスを入れる重要な役割を担っていた。

困っている人たちの声なき苦しみを代弁する、佐藤のなりふり構わぬ全身全霊の芝居は圧巻だった。予告編でも印象的だった、泥まみれになりながらの叫びには心をかき乱された人も多いに違いない。

刑期を終えて出所するも、連続殺人事件の容疑者として追われる身となった利根(『護られなかった者たちへ』)

「いい映画を作る」。「観た人に何かを届ける」。佐藤のそのスタンスは昔もいまもずっとブレない。2017年の「くまもと復興映画祭powered by 菊池映画祭」で「僕に期待して、僕の映画を観に来てくれる人を裏切りたくない」と語っていたのも印象的だった。

その言葉通り、常に新しい一手で私たちを喜ばせ、自身の可能性の限界を更新し続けている佐藤健。さあ、今度はどんなパフォーマンスで私たちを驚かせてくれるのか?こんなに次作が楽しみな俳優をほかに知らない。

文=イソガイマサト(映画サイト「スカパー!映画の空」より転載)

イソガイマサト:映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

©2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会 ©2017 映画「亜人」製作委員会 ©桜井画門/講談社 ©2018 映画「いぬやしき」製作委員会 ©奥浩哉/講談社 ©2017映画「8年越しの花嫁」製作委員会

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<放送情報>

WOWOWプライム

●護られなかった者たちへ
放送日時:2022年11月5日(土)13:00~、9日(水)17:30~

●8年越しの花嫁 奇跡の実話
放送日時:2022年11月17日(木)5:20~

●サムライマラソン
放送日時:2022年11月10日(木)1:30~

WOWOWシネマ

●ひとよ
放送日時:2022年11月5日(土)11:30~、29日(火)8:45~

●亜人
放送日時:2022年11月5日(土)13:45~、29日(火)11:00~

●いぬやしき
放送日時:2022年11月5日(土)15:40~、30日(水)8:45~

●8年越しの花嫁 奇跡の実話
放送日時:2022年11月5日(土)17:55~、29日(火)13:00~

●護られなかった者たちへ
放送日時:2022年11月5日(土)20:00~、13日(日)18:30~

●サムライマラソン
放送日時:2022年11月5日(土)22:30~、15日(火)15:00~

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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