小説、詩、舞台、絵画、映画などジャンルの垣根を越えて活躍し、2023年に没後60年を迎えるジャン・コクトーの特集上映〈没後60年 ジャン・コクトー映画祭〉が、12月30日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほかで全国順次開催。映画評論家・山田宏一のコメントが到着した。
「オルフェ」© 1950 SND (Groupe M6)
1889年パリに生まれ、若い頃から創作に打ち込み、人々を愛し、スキャンダラスかつ情熱的に生きたコクトー。活動の多彩さから“芸術のデパート”と呼ばれ、日本の作家・芸術家たちにも影響を与えた。
今回の映画祭では、「詩人の血」と「美女と野獣」が初めて4Kデジタルリマスター版で上映。イマジネーションと実験精神に溢れた幻想譚が、美麗に映し出される。
山田宏一氏コメント
ヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)とよばれたフランスの若い世代の映画作家たちはジャン・コクトーの自由奔放なインスピレーションに刺激され、敬意を表した。ジャン=リュック・ゴダールは『勝手にしやがれ』でデビューする直前に撮った短篇映画『シャルロットとジュール』をジャン・コクトーに捧げた。ジャック・ドゥミは心からの敬意をこめて『美女と野獣』のリメークとも言えるオトギの国の物語、『ロバと王女』を撮った。フランソワ・トリュフォーは『大人は判ってくれない』のヒットで得た収益の一部をジャン・コクトーの遺作になった『オルフェの遺言』の製作に注ぎ込み、『緑色の部屋』の「死者たちの祭壇」の中央にジャン・コクトーの遺影を飾った。
ジャン・コクトーもまた、『オルフェの遺言』をヌーヴェル・ヴァーグへの最後の挨拶、自らの「告別」の映画として撮り上げたのであった。
心ときめく映画史の響宴に立ち会えるジャン・コクトー映画祭だ。
〈上映作品〉

「詩人の血 4K デジタルリマスター版」Le Sang d’un Poète
1932年/フランス/モノクロ
コクトーの映画デビュー作にして、サルバドール・ダリ×ルイス・ブニュエルの「アンダルシアの犬」(1928)と並ぶアバンギャルド・カルト・クラシック。4エピソードからなる本作にはギリシャ神話の要素、および鏡や雪合戦といった後の「オルフェ」や中編小説『恐るべき子供たち』と共通する描写がちりばめられ、挑戦的な特殊効果によって事物が神秘的に息吹くさまを表現している。

「ブローニュの森の貴婦人たち デジタルリマスター版」Les Dames du Bois de Boulogne
出演:ポール・ベルナール、マリア・カザレス、エリナ・ラブルデット
1944年/フランス/モノクロ
孤高の映像作家ロベール・ブレッソンが、ドゥニ・ディドロの小説『運命論者ジャックとその主人』を脚色して撮った名作。トリュフォーやゴダールに多大な影響を与えた。当時無名だったブレッソンのために、コクトーが台詞監修として参加。

「美女と野獣 4K デジタルリマスター版」La Belle et la Bête
出演:ジャン・マレー、ジョゼット・デイ、ミラ・パレリ
1946年/フランス/モノクロ
時代を超えて何度も映像化され、愛され続ける御伽噺『美女と野獣』を初めて実写映画化したのはコクトーだった。当時の恋人ジャン・マレーを野獣/王子役に抜擢し、艶やかな幻想譚を生み出した。コスチュームやインテリアなど豪華で耽美な美術をデザインしたのは、ディオールやシャネルとも仕事を重ねたクリスチャン・ベラール。

「オルフェ デジタルリマスター版」Orphée
出演:ジャン・マレー、フランソワ・ペリエ、マリア・カザレス、マリー・ディア
1950年/フランス/モノクロ
亡き妻に会おうと冥界へ向かう男の悲恋を描いたギリシャ神話のオルフェウス伝説も、コクトーの手にかかれば、1950年代パリで死の王女に思いを寄せる詩人の物語に変身する。主人公オルフェ役はジャン・マレー、死の王女を圧倒的な存在感で演じるのは「ブローニュの森の貴婦人たち」(1944)や「パルムの僧院」(1948)のマリア・カザレス。
〈没後60年 ジャン・コクトー映画祭〉
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム