〈シャンタル・アケルマン映画祭2023〉開催。「ゴールデン・エイティーズ」などを新たに上映
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昨年に続き、数々の非凡な作品を残したシャンタル・アケルマンの特集上映〈シャンタル・アケルマン映画祭2023〉が、4月7日(金)〜27日(木)にヒューマントラストシネマ渋谷で開催。メインビジュアルならびにアンスティチュ・フランセ日本の映画プログラム主任・坂本安美氏のコメントが到着した。

 

 

平凡な主婦の日常を描き、映画界に革命を起こした3時間超の大作「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」が昨年、英国映画協会が10年ぶりに更新した〈史上最高の映画100〉で1位に選ばれるなど、今なお世界に衝撃を与えているアケルマン作品。

今回の特集では、昨年も上映された「ジャンヌ・ディエルマン〜」などの5本に加え、ミュージカル「ゴールデン・エイティーズ」をはじめとする長編4本と、記念すべき初短編「街をぶっ飛ばせ」を新たに公開する。

 

坂本安美(アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任)コメント
「すべてがそこにあった」。シャンタル・アケルマンは18歳の時に撮った最初の短編「街をぶっ飛ばせ」についてそう述べた。映画の枠、既成の価値を「ぶっ飛ばし」、作り出していったその後の作品群のすべての原型、そして私たちの中にある狂気、悲喜劇、転覆の可能性がたしかにそこすでにある。こうして映画作家シャンタル・アケルマンは、小さな台所から出発し、やはり台所で終える(「No home movie」、2015年)までのほぼ50年間、忘れられ、放置された世界の片隅に赴き、ごく普通の日常を称揚し続けた。News from home、私たちはそこから届いた便りを受け取る。あの顔、あの声、あの街の喧騒、あの波の音、あの雪の白さ、あの夜の闇、あの抱擁を。アケルマンの映画は観る者それぞれに大きく開かれ、それぞれの声やまなざしを抱きしめながら、果てしない旅を続けていく。

 

〈上映作品〉

「街をぶっ飛ばせ」Saute ma ville ★今回新たに上映
1968年/ベルギー/モノクロ/12分
Collections CINEMATEK – ©Chantal Akerman Foundation

18歳のアケルマンが、ブリュッセル映画学校の卒業制作として監督・主演を務めて撮り上げた短編デビュー作。花束を手にアパートの階段を駆け上がり、狭いキッチンで縦横無尽に暴れ回る女。その支離滅裂な行動は、驚くべき事態で幕を閉じる。その後の反逆的な作品群の原点ともいえる破壊的エネルギーに満ちた瑞々しい一本。

 

「私、あなた、彼、彼女」Je Tu Il Elle
1974年/ベルギー・フランス/モノクロ/86分
© Chantal Akerman Foundation

アケルマン自身が演じる女性が、家具を動かし、手紙を書き、裸で砂糖をむさぼる。部屋を出た彼女はトラック運転手と行動を共にし、訪れた家で女性と愛を交わす……。殺風景な空間と単調な行為が閉塞感や孤独を際立たせ、激しく身体を重ね合うことで悦びがドラマティックに表現される。

 

「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」Jeanne Dielman, 23, quai Commerce, 1080 Bruxelles
1975年/ベルギー/カラー/200分
© Chantal Akerman Foundation

ジャンヌは思春期の息子とブリュッセルのアパートに暮らしている。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かけ、“平凡な”暮らしを続けているが……。定点観測的カメラが映し出す日常の反復は、観る者に時間経過を体感させ、反日常の訪れが兆す恐ろしい空間を作り出す。

 

「家からの手紙」News from Home ★今回新たに上映
1976年/ベルギー・フランス/カラー/85分
Collections CINEMATEK – ©Fondation Chantal Akerman

路地、大通りを走る車、駅のホームで電車を待つ人々、地下道……。1970年代ニューヨークの荒涼とした街並みに、母が綴った手紙を読むアケルマン自身の声が重なる。固定ショットやトラベリングで映し出される公共ロケーションと、時折車の音に掻き消されながらも朗読される愛情に溢れた言葉の融合。

 

「アンナの出会い」Les Rendez-vous d’Anna
1978年/ベルギー・フランス・ドイツ/カラー/127分
© Chantal Akerman Foundation

最新作のプロモーションのためにヨーロッパの都市を転々とする女性映画監督を描く、アケルマンの鋭い観察眼が光る一本。教師、母親、母親の友人らとの接触を挟みながら、常に孤独に彷徨い歩く主人公アンナの姿と、日常に溶け込みはしない断片的な空間と時間とを通し、アイデンティティや幸福の本質が巧みに表出される。

 

「一晩中」Toute une Nuit ★今回新たに上映
1982年/ベルギー・フランス/カラー/90分
Collections CINEMATEK – ©Fondation Chantal Akerman

ブリュッセルの暑い夜、眠りにつけない人々。官能的な熱を帯びた一晩の中で連結していく、数々の出会いと別れ。詩的な青色の夜を描き出す撮影監督は、80年代のゴダール作品や近年ではレオス・カラックスの「アネット」を手掛けたカロリーヌ・シャンプティエ。

 

「ゴールデン・エイティーズ」Golden Eighties ★今回新たに上映
1986年/ベルギー・フランス・スイス/カラー/96分
© Jean Ber – Fonda&on Chantal Akerman

美容院やカフェが並ぶパリのブティック街を舞台に、従業員や客たちが恋模様を歌い上げるミュージカル。パステルカラーの衣装で歌い踊るロマンティックな浮遊感と、愛に対するアケルマンの容赦ない視線が交差する。

 

「東から」D’Est ★今回新たに上映
1993年/ベルギー・フランス/カラー/115分
Collections CINEMATEK – ©Fondation Chantal Akerman

ソ連崩壊後の旧共産主義国の都市と人々を見つめたドキュメンタリー。ナレーションや地名紹介を排し、一般家庭の様子を捉えつつ、果てしない距離や文化情勢を浮かび上がらせる。透徹した眼差しがその場所に流れる時間と観客を近づけ、好奇心を駆り立て、映像そのものが静かに語り始める。

 

「囚われの女」La Captive
2000年/フランス/カラー/117分
© Corbis Sygma – Marthe Lemelle

祖母とメイド、そして恋人のアリアーヌと豪邸に住んでいるシモンは、アリアーヌが美しい女性アンドレと関係を持っていると信じ込み、強迫観念に駆られていく……。マルセル・プルーストの『失われたときを求めて』の第五篇『囚われの女』を大胆かつ自由に映像化。嫉妬と愛の苦悩に拘束される虜囚の境地を、アケルマンは洗練された表現で描写する。

 

「オルメイヤーの阿房宮」La Folie Almayer
2011年/ベルギー・フランス/カラー/127分
© Chantal Akerman Foundation

東南アジア奥地の河畔にある小屋で暮らす白人男性オルメイヤー。彼は現地の女性との間に生まれた娘を溺愛し、外国人学校に入れるが、娘は父親に反発するように放浪を重ねていく……。「地獄の黙示録」のもとになった『闇の奥』で知られるジョゼフ・コンラッドの小説を脚色して映画化。時代も場所も明かさない抽象化された設定で、狂気と破滅の物語が繰り広げられる。

 

〈シャンタル・アケルマン映画祭2023〉

主催:マーメイドフィルム
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA
公式HP:chantalakerman2023.jp

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