チャイコフスキーの妻の映画専門家レビュー一覧

チャイコフスキーの妻

ロシアの天才作曲家チャイコフスキーの妻アントニーナの実像を、史実に従いながら大胆な解釈を織り交ぜて描く伝記映画。地方貴族の娘アントニーナはチャイコフスキーと結婚するもすぐに破綻、盲目的に夫を愛する彼女は、孤独な日々の中で狂気の淵へと堕ちてゆく。監督は「インフル病みのペトロフ家」のキリル・セレブレンニコフ。
  • 文筆業

    奈々村久生

    女性の自立が事実上不可能だった時代で、結婚に人生を懸けようとしたアントニーナを責めるのは酷かもしれない。だが一貫して自分の理想のみを追い求め相手と現実を見ようとしない業の深さはしんどい。届いたばかりのピアノを弾くチャイコフスキーの興をぶち壊す行動や、離婚の説得に訪れたルビンシュテインを見送った後の一言にはゾッとさせられる。同性愛・異性愛に拘らず、いつの時代も恋愛や結婚には向き不向きがあり、自分に合った生き方を選択できる自由の大切さを痛感する。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    まあ映画は映画ですけど、一応この映画の元ネタではある大変な夫婦関係をやりながら同時進行で夫は世界的な名曲を書いてるのが凄い(その名曲〈白鳥の湖〉をジョン・カサヴェデスの「こわれゆく女」でジーナ・ローランズが踊り狂ってるのも、考えてみると凄い。チャイコフスキー夫婦のこと念頭に曲を選んだのかな)。これは夫が悪いとか妻が悪いとか、才能ある人と結婚してはダメとか、愛なき恋をしてはダメとかそういう話ではない。どうすることもできなかった可哀想な「寂しさ」の話だ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    チャイコフスキーの妻アントニーナは悪妻として知られる。この映画は史実として伝えられる彼女の愚かで無神経な振る舞いを踏まえつつ、一途にチャイコフスキーを愛した情念の女性として描く。そのため熱烈だが、愛されようと身勝手に振る舞う分裂した女性像になっている。ただチャイコフスキーを囲む男性の友人たちのミソジニーが、一人の女性に露骨ないじめを働く結束を作る、ありがちな構図を描き抜いたのは誠実だ。美しい映像でも夫婦両者が不快な143分を見続けるのはしんどい。

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