占領都市の映画専門家レビュー一覧

占領都市

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに占領されたオランダの首都アムステルダムの忌まわしい記憶をたどったドキュメンタリー。アーカイブ映像やインタビューは用いず、130ヶ所に及ぶ“現場”を捉えた35mmフィルムの映像が、恐怖の日々を体感させる。監督は「それでも夜は明ける」のスティーヴ・マックイーン。A24と共に、妻ビアンカ・スティグターの2019年の著書『Atlas of an Occupied City (Amsterdam 1940-1945)』を原作に作り上げた。
  • 映画監督

    清原惟

    コロナ禍のアムステルダムと、第二次世界大戦中ドイツに占領されたアムステルダム、二つの時代の街を重ね合わせたドキュメント。外出制限がかかり、店が閉まって閑散としていたり、集会に集まった人たちが警察に止められている様子は、戦時中の街の緊張感とわかりやすく重なっていく。ドイツ政府に殺されていったユダヤ人たちの暮らした場所、逃げ隠れた場所。子どもが運河でスケートをする楽園のようなアムステルダム中に、今でもその場所はあるのだということを焼き付けられる。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    アムステルダムにはフェルメールの《デルフトの眺望》を思わせる歴史的建造物がいまだに点在しているのに驚かされる。映画はその風光明媚な〈場所〉のディテールを切り取りながら、占領下にそこで起きたナチス・ドイツのおぞましいユダヤ人虐殺の克明な記録が延々とナレーションで被さる。S・マックイーンは平穏な日常のスケッチという〈画〉と抑揚を欠いた淡々とした〈語り〉という乖離を意図的な方法として選び取り、〈記憶と現在〉の抜き差しならない関係をめぐって瞑想に耽っている。

  • リモートワーカー型物書き

    キシオカタカシ

    “現代と過去”=“映像と言葉”を対置させるコンセプト、さらに圧倒的長尺から(敷居の高さを感じさせるという意味での)現代アート寄りの作品なのでは……と勝手に身構えていたのだが、実際は驚くほどに親密なアムステルダムという街のポートレート。個人的には教科書的知識とポール・ヴァーホーヴェンやディック・マースらの映画的記憶だけでフィクショナルに捉えてしまっていたオランダという国の歴史と現実に接続して同一化するにあたり、長大な上映時間にも確かな意味があった。

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