不思議の国のシドニの映画専門家レビュー一覧

不思議の国のシドニ

フランス人監督の目を通して映し出される自然あふれる京都、奈良、直島。美しい日本の風景を旅しながら、過去を手放すことで喪失の闇を抜け、新たな一歩を踏み出すヒロインをフランスの至宝イザベル・ユペールが演じる。
  • 文筆業

    奈々村久生

    敢えて不自然さを残した合成や静止画を使った描写など、デジタル以前の実験映画を思わせる表現は稚拙さや自己陶酔と紙一重だが、それを成立させたユペールの存在とジラール監督の絶妙なセンスが光る。日本の関西地方の街並みをとらえたレトロフューチャーな味わいも虚と実のあわいを生きるシドニの心象風景に似合っている。ユペールは同世代の俳優と比べても現役でラブの要素を含む作品への出演が多く、実年齢に沿って現在進行形の恋愛や性愛を演じられる稀有なキャリアと独自性が際立っている。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    逆張りっぽいことを言うけど、この映画の美点は日本人から見て変な部分を直してないところだ。恋愛とは「相手からは変に見えてる自分」を受け入れることだからだ。ただ、せっかくだから食事を(日本人の日常食を)もっと見せてほしかった。幽霊はセックスより食事に嫉妬するだろう。あとバーのシーンで酔った伊原剛志が「あなたたちが創作したキリスト教的な一夫一婦制度や恋愛のありかたは、けっきょく我々には無理です」と言い出すかと期待したが、さすがにそういう映画ではなかった。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    日本が生者と死者が共存しているようなのは、確かに海外からはそう見えるかもしれない。死者を招き入れるお盆の風習があり、それでお祭り騒ぎもしない。広島や神戸や福島の地名が登場するように、未曾有の災厄もありながら続いている土地。そういう直感的な雰囲気にあふれた映画だ。イザベル・ユペールがお洒落な装いで、京都をさまよっているだけで絵になるから、十分楽しく観られてしまう。家族を失う孤独、アバンチュールの癒やしもありつつ、ユペール映画というジャンルの一作。

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