石門の映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
(文字で書くのも悍ましいが)生殖ビジネスという世界的な問題を中心におきながらも、距離を保って見つめることで浮き上がってくるのはまだ自分自身も定まらない若い女性の個人的な肖像画だ。淡々としたカメラに「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」(75)を想起。職場や街中での視線、家、無責任な恋人、女の体であり、そしてどこまでも客体化されるということ、終わらない「生きづらさ」を長い時間をかけ窮屈に体感させる。
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フランス文学者
谷昌親
思いがけず妊娠してしまった女性の姿を、妊娠期間に相当する10カ月かけて撮影した作品だ。しかも、ヒロイン役のヤオ・ホングイは、前の2作でも同じリンという人物を演じているという。トリュフォーのドワネル・シリーズがそうだったように、ヤオ・ホングイが生きてきた時間そのものの記録ともなっているわけだ。被写体との間に距離を置き、フィックスのワンショットでの撮影をとおして、人物のみならず、人物を取り巻く環境も押し流していく時間が、いやおうなく刻印されていく。
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映画評論家
吉田広明
生まれてくる子を本当に引き取る気があるようにまったく見えない相手を信用していいのか終始疑問が去らないし、淡々と描くことで主人公の状況を体感させようとの意図だろうが、長い割には画に力がないショットのせいもあって、彼らを信じて生むまでの十カ月、宙づりの時間の不安が伝わらない。詮無い比較だが、ダルデンヌ兄弟なら半分の時間でもっと刺さる映画を作っていただろう。中国の子ども事情は知らないが、中国社会を象徴的に示す普遍性にまで達しているようにも思えない。
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