レッドタートル ある島の物語の映画専門家レビュー一覧

レッドタートル ある島の物語

「岸辺のふたり」でアカデミー賞短編アニメ賞に輝いたマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットが、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデュースで手掛けた初の長編アニメーション。嵐で漂流し、無人島に辿り着いた男。絶望的な状況に陥った彼の前に、1人の女が現れる。アーティスティック・プロデューサーとして「かぐや姫の物語」の高畑勲が参加し、アニメーション制作はフランスを中心に進行。8年の歳月を費やして完成した。第69回(2016年)カンヌ国際映画祭に出品され、「ある視点」部門特別賞を受賞した。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    この上なくシンプルな物語で、それゆえ多様な読解が可能なように造られている。鶴の恩返しならぬ亀の恩返しとでもいうべき話だが、主人公は恩返しされるようなことは何もしていない。むしろその反対なのに、何故だか亀はどこまでも彼に優しい。この点をどう解釈するかで、この作品の根本的な理解の仕方は違ってくる。あとはやはり津波。企画開始は東日本大震災以前に遡るそうだけど、あのシーンが含意してしまうことに制作側が意識的でなかった筈はない。そこも含めて、何もかもが確信犯。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    宮崎駿監督の長篇引退宣言を経て、スタジオジブリが2年ぶりに放つのは、オランダ出身監督によるおとぎ話。シンプルなラインながら温かみを感じさせるタッチと色づかいの絵柄に、一切のセリフを排除して描かれる物語には、国を問わない侘び寂びのような味わいも。無人島が舞台ということで多彩な水の表現に目を奪われるが、島に生えている植物が竹というのも目を引く。竹は生命力の強い植物で完全に根を絶やさない限り繁殖を続ける。圧倒的な水の力の後に残ったその姿が頼もしい。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    絶海を泳ぐ男。孤島にたどり着く。やがて女が現われ息子が出来る。幾歳月。嵐が襲う。別れが来る。科白は全くない。すべてモノクロに近い水墨画のようなタッチで描かれるので、亀の「赤」が映える。大仰な感情表現もないが、素朴で静かな感動がある。様々なアレゴリーが読みとれる。人類の誕生、アダムとイヴ、家族の誕生と別れ。短篇しか撮ったことのない監督の才能に注目、十年の歳月をかけ珠玉の作品を作りだしたスタジオ・ジブリのプロデューサー・ワークに敬服する。

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