茲山魚譜 チャサンオボの映画専門家レビュー一覧
茲山魚譜 チャサンオボ
第57回百想芸術大賞にて大賞を受賞した、「金子文子と朴烈」のイ・ジュニク監督による全編モノクロームの韓国時代劇。島流しされた学者のヤクチョンは、海の生物たちに魅せられ、庶民のための海洋学書を書き記そうと決心。漁夫のチャンデとある取引をする。韓国の海洋生物学書『茲山魚譜(チャサンオボ)』に記された史実を基にしている。「殺人者の記憶法」のソル・ギョングと日本映画「太陽は動かない」に出演したピョン・ヨハンが、師弟関係となる天才学者と青年漁師を演じる。
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米文学・文化研究
冨塚亮平
知的好奇心によって結びついた世代も階級も異なる二人の師弟関係と友情関係は美しく、自負の強さを感じさせる昌大役のピョン・ヨハンの面構えも良い。また、どこか近年の学術会議の問題を想起させもする知識人と国家の関係は、単なる異国の時代劇としてではなく現代日本にも通じる物語として本作を今観る意義を示しているようにも思える。だが、書物をめぐる動きの少ない題材をあえて映画化するのであれば、単に絶景をモノクロで撮るだけではないさらなる工夫を凝らして欲しかった。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
学はあるが頭でっかちな学者と、学はないが生きることの意味を体感している素朴な島の若者という構図かと思うと、実際にはそう単純ではなく、学があるゆえに生きることの意味を探求し、素朴ゆえに教条的な学を求める両者のすれ違いが面白い。しかし、では学ある学者が“正しさ”を体現しているのかいうと、時代が時代のため仕方がないが、父権的な振る舞いが滲み出ていたりする。話の結末に驚きはないが、肝である二人の間に流れた時間の厚みも最後にしっとり感じさせて悪くない。
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文筆業
八幡橙
イ・ジュニク×ソル・ギョング。「ソウォン/願い」はあまりに辛い話だったが、水墨画を思わせる今作は、一陣の清涼な風を感じる物語に。特に、若銓と昌大が知的好奇心をぶつけ合い心寄せ合う過程が爽快だ。時に滑稽な顔を見せるソル・ギョングのしなやかさはもちろん、若き漁夫を演じるピョン・ヨハンの存在感にも目を引かれた。貧しい暮らしの豊かさと、権力を手にした人間の陥る闇。情を以てどの国の、どの世にも通じる普遍のドラマに仕上げる力は、さすがイ・ジュニク。盤石なり。
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