八犬伝(2024)の映画専門家レビュー一覧

八犬伝(2024)

江戸時代の伝奇小説『南総里見八犬伝』をめぐり、作者・滝沢馬琴の逸話と『八犬伝』の内容とを織り交ぜて描いた山田風太郎の小説を映画化。馬琴による奇想天外な物語は多くの人を魅了し異例の長期連載となるが、息子の病や自身の失明など困難に見舞われ……。滝沢馬琴を役所広司、葛飾北斎を内野聖陽、八犬士の運命を握る伏姫を土屋太鳳、馬琴の息子・宗伯を磯村勇斗、宗伯の妻・お路を黒木華が演じる。実写「鋼の錬金術師」シリーズや「ピンポン」を手がけてきた曽利文彦監督が、滝沢馬琴の情熱や家族との絆を描く“実”パートと、VFXを駆使し八犬士たちの数奇な運命を描く『八犬伝』の“虚”パートの2つの世界を融合させる。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    最初に始まる「八犬伝」パートのムードのなさに、大丈夫か!?という不安を覚えるが、滝沢馬琴パートに入ると役所広司の芝居だけで十分引っ張るので早々に印象はよくなる。撮り方が平板なところもあるが、物書きの仕事場を描く物語の宿命でもあろう。馬琴と鶴屋南北が芝居小屋の奈落で対峙するシーンが何しろ出色。「八犬伝」パートも文字どおり役者が揃うと俄然覇気が宿り、監督得意のVFXアクションも上々。家族の悲劇と背中合わせの古風なクリエイター賛歌として見応えがあった。

  • 映画評論家

    北川れい子

    まずは力作である。美術セットや特撮もそれなりの大仕掛け。「八犬伝」といえば、いまや世界の真田広之も「里見八犬伝」(83年/深作欣二監督)で〈仁〉の霊玉を持つ犬士を演じていたが、今回の原作は山田風太郎。江戸の戯作者・滝沢馬琴が28年かけて伝奇小説『南総里見八犬伝』を完成させるまでの身辺話をベースに、その都度、いま書き上げた部分の怪奇譚を映像化して進行、途切れ途切れで緊張感には欠けるが一挙両得感も。「八犬伝」に託した思いを口にする役所広司の抑えた演技はさすがのさすが。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    牧野省三に始まり、東映時代劇、さらに「宇宙からのメッセージ」「里見八犬伝」へと深作欣二が翻案した話を、VFX畑の曽利が撮るなら意味があると思えたが、さにあらず。原作同様に滝沢馬琴と八犬伝パートが交錯するのが目新しいが、虚実の世界が侵食し合うわけでもVFXが両者を接合させるわけでもないので、二部構成以上のものを感じず。鶴屋南北の芝居を見るくだりに「忠臣蔵外伝 四谷怪談」を思い、エネルギッシュに映画へと転換させた深作のことばかり思い浮かべてしまう。

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