西湖畔(せいこはん)に生きるの映画専門家レビュー一覧

西湖畔(せいこはん)に生きる

山水画にインスパイアされたデビュー作「春江水暖~しゅんこうすいだん」で市井の人々の人生の機微を描いたグー・シャオガン(顧暁剛)監督の山水映画第2弾。中国緑茶の産地として有名な西湖の沿岸に暮らす母親と息子の関係を軸に、経済環境の変化に揺れる家族の姿を美しい風景の中に描き出す。グー監督のオリジナルストーリーながら、釈迦の十大弟子のひとり・目蓮が地獄に堕ちた母親を救う物語「目蓮救母」の現代版ともいえる。出演は『長歌行』などのドラマや映画で大人気のウー・レイ、実力派女優のジアン・チンチン、チェン・ジエンビン、ワン・ジアジア、イェン・ナン、ワン・ホンウェイ。音楽は「それから」「夢二」などの日本映画から「花様年華」ほか多くのアジア映画に名を刻む梅林茂。
  • 映画監督

    清原惟

    はじめは母親の愚かさに辟易とし息子に同情していたが、彼女の発言を聞いていくうちに別の側面が見えてきた。彼女はただ騙されただけの愚かな女性ではなく、家族や社会規範のなかで抑圧されて生きてきて、マルチ商法に自己実現を託したのだった。まわりの男性たちがそのことを重要視していないことがどうしても気になってしまう。もう少しだけでも女性の自己実現について掘り下げてほしかった。雄大な自然と、人間の愚かさが映像としてはっきり対比させられていたのが印象的だった。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    「成功とは神経症の副産物」というフロイトの引用があったが、較差社会の中国で見果てぬチャイニーズ・ドリームが蔓延しているのは煽情的なマルチ商法のシーンで垣間見ることができる。〈自己実現〉という空無な妄想のはてに、否応なく突きつけられる敗残者という過酷な現実。一方「人生で最も苦しいことは、夢から醒めて、行くべき道がないことであります」という魯迅の箴言も思い浮かぶ。終幕、山水画の世界の中で母子が融和するフォークロア的なイメージがささやかな救いであろうか。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    冒頭、山を冬の眠りから起こして豊作を願う人々の列が映し出される。主人公を乗せたバスがトンネルを抜け、カメラが右側の木々を越えて上昇、空撮で再び薄闇の山々を歩く人々のシルエットを捉える。いかにも劇映画的なカメラワークに目を見張る。が、ここから予想外の転調を繰り返し、ネズミ講の犠牲となる母親とその息子をめぐる受難劇が描かれ、詐欺組織の洗脳場面でアロノフスキー風の悪夢を展開。面食らわせたが、弧を描くようにして故郷に戻る寓話的な後半ではエネルギーが尽きてしまっていると思う。

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