このろくでもない世界での映画専門家レビュー一覧
このろくでもない世界で
ソン・ジュンギが裏社会に生きる孤高の男に扮して新境地に挑んだクライム・ドラマ。オランダ移住を夢見る18歳の青年ヨンギュは、義理の妹を守るため、暴力沙汰を起こして高校を停学。行き詰ったヨンギュは、犯罪組織のリーダー、チゴンの門を叩くが……。これが映画初主演となるホン・サビンが、主人公のヨンギュを熱演。
-
文筆業
奈々村久生
韓国映画のノワールでも湿っぽいほうの系統。負の連鎖がどんよりと重いタッチで描かれるが、脚本の展開とそれに沿った編集、音楽はいささか緩慢で、暴力描写がいたずらに長い。ソン・ジュンギの演じる悪漢はクールな姿勢を崩すことなく設定以上の奥行きに欠ける。主人公はとても賢いとは言えない選択を繰り返し自分で自分を追い詰めていくが、劣悪な家庭環境で育った少年を殊更に美化しない描き方には誠実さを感じる。彼の妹ハヤンを演じた“闇のIU”ことBIBIには演技を続けてほしい。
-
アダルトビデオ監督
二村ヒトシ
とても気合の入った映画なのはわかる。しかし、これは結局のところソン・ジュンギ演ずるチゴンのキャラクターを美しく描くための映画だったのではないか。いや、それはそれでもちろんいいのだが、本作では、彼を美しく描いた結果として、コーピングではない最悪の自傷である〈暴力〉を、最終的に肯定することになってしまっていないか。比べるものではないけれど、同じくろくでもない、やりきれない暴力の?末を描いた邦画「ケンとカズ」は救いも希望もなかったぶん、僕には嬉しく感じられた。
-
映画評論家
真魚八重子
主人公のヨンギュはDVを受けて育ち機能不全となったアダルトチルドレン。彼が入った半グレ集団のリーダーを演じるソン・ジュンギは、カッコイイを通り越してカッコ良すぎるキャラになっている。俯瞰的に見ると彼は半グレを使役するヤクザとの折衝役だ。ヨンギュに幼い頃、父親から虐待を受けた自分を見出してひいきにすると同時に、恩義という概念を否定し、憐れみは懲罰の対象になると教える。ヤクザの命令でいかようにも動く立場と、このひいきが矛盾し、違和感や破綻を残す。
1 -
3件表示/全3件