私にふさわしいホテルの映画専門家レビュー一覧
私にふさわしいホテル
「文学史上最も不遇な新人作家」の逆襲を描いた柚木麻子の同名小説を堤幸彦が映画化した文壇ピカレスクコメディ。新人賞を受賞したものの、大御所作家から酷評を受けて小説を発表する場も得られなかった作家の加代子は復讐を決意。予想外の進展を見せる2人の対決の行方は……。出演は「さかなのこ」ののん、「あの人が消えた」の田中圭、「若き見知らぬ者たち」の滝藤賢一。2024年2月に惜しまれながら全面休館を迎えた「山の上ホテル」で撮影が行われた。
-
文筆家
和泉萌香
彼女はいったいどんな物語を書いているのか、よく分からない。不遇のきっかけを作った作家を大恨み、手を変え品を変え名前を変え、ツッコミどころ満載で大攻撃するのはいいが、売れることを最大の目的としたヒロイン像が魅力的かといわれれば疑問。あこがれのホテルもただの権威の象徴に思えてくるし、ヒロインなりの下剋上を果たしたとはいえ、彼女もそのシステムの一員になっただけでは? 橋本愛、髙石あかりはじめ各所で登場する女優陣があざとい荒唐無稽さをチャーミングに和らげる。
-
フランス文学者
谷昌親
のんと滝藤賢一の二人だからこそ成り立つ掛け合いがふんだんに見られる映画だ。とりわけのんは、自分の小説が売れるためには汚い手段にも平気で訴えるという性悪な人物を、大げさすぎると見えてしまうほどのハイテンションで演じ、コメディとして成り立たせているのは立派だし、それは堤監督の演出のたまものでもあろう。だが、主筋に付随する細かなエピソードの扱い方が雑だし、タイトルにもなっているホテルの空間が映画的に活かされておらず、めりはりのない作品になってしまった。
-
映画評論家
吉田広明
芥川賞を取らせてくれと佐藤春夫に哀訴した太宰を思い出したが、そのみっともなさを含めて太宰はまっとうに文学=生を生きたと言え、そこにはイメージとしての文学などなかった。文学者たちに愛されたというホテルがまとわせるオーラのようなものは確かにあるとしても、それに寄りかかることで出来たものがまともな「表現」であるはずはないだろう。こういう使われ方では使われた方も気の毒だと思う。のんの文学臭を免れたパンキッシュな存在感が唯一の救いではある。
1 -
3件表示/全3件