保護者・教育関係の方へ

映画は人生を濃く深くし、頭を良くする

映画は人生を濃く深くし、頭を良くする

感情をアウトプットする良さ

2018年10月に文部科学省設置法の一部改正により、これまで省庁で文化行政を分野別に担当していましたが、今後は文化庁が文化行政を総合的にまとめる役割を担うことになりました。その一環として、学校における芸術教育の分野も文部科学省初等中等教育局より移管されることになったので、文化庁としてこれまで培ってきた経験を生かし、芸術教育をより充実させることができればと考えています。映画など映像メディア教育についていうと、例えば、中学校学習指導要領(美術)には、映像メディアを活用する旨が記載されています。しかし美術の授業時間数は限られているため、年間の指導計画を考えながら映像メディア教育に取り組んでいかなければいけません。ただ、映像には、「つくること」と「見ること」のふたつの側面があります。また、今はフェイク動画の問題もあり、メディアリテラシーの観点からも学べる要素があると思います。そういった意味では、美術以外の教科でも、映像メディアを扱うことはできるはずです。例えば国語で、ある小説が原作の映画を観て、小説で読んだ時と比べて感じ方にどんな違いがあるかを話し合う授業をすることで言語能力の育成を図ったり、総合的な学習の時間においては、各学校において定める目標の実現にふさわしい探求課題を解決する過程で映像制作などに取り組んだりすることなども考えられるのではないでしょうか。そこから、フェイク動画のような混乱を招く映像の怖さや、逆に観る人を幸せにできる映像づくりについて学ぶこともできるのではないかと思います。また、現在はスマートフォンなどを使って、手軽に映像をつくることができるので、表現の場面でも、絵を描く授業を行うのと同じ感覚で映像制作に取り組むことも考えられます。このように様々な展開ができますし、文化庁自体が、映画などの映像芸術を推進しているので、先生方にはもっと映像メディアの活用に取り組んでいただけると嬉しいですね。もちろんすぐにすべてを変えるということではありませんが,次の学習指導要領の改訂までの約10年の間に、まず我々は現状の教育現場を見つめ直していく必要があります。その上で映像メディア教育の取り組み方など、芸術教育の可能性を探り、様々な良い事例を普及していくことが、我々の務めだと考えています。

臨場感を大事に、気軽に書こう

最新の小学校学習指導要領(音楽)の教科の目標には「音楽に親しむ態度を養い」とあります。ここには、授業中だけでなく、学校内外の様々な音楽や音楽活動に主体的に関わっていく態度も含まれています。普段から音楽に触れ、楽しめるような素養を育成していきたいと考えています。これは他の芸術系教科・科目にとっても非常に大事なことで、芸術は楽しいもの、面白いものであるということを知ってもらうことで、芸術を通して自己表現を学ぶことができると思います。さらに、映像作品をつくる場合、どんな意図でこの作品を撮ったのかということを自分なりに説明することによって、言語能力や他者理解を深める力などを養うことができるという効果もあります。そういった意味でも、映画・映像を授業で扱うことには様々な可能性があると思います。例えば、映画の撮影現場などを実際に見に行く機会があれば、映画をつくることの大変さや作品への熱量なども感じることができ、芸術教育としてより深いものになるのではないかと思います。その点は、映画業界の方々にご協力頂いて、実現することができれば素晴らしいですよね。

今後としては、例えば子供たちが映画づくりを体験する「こども映画教室(※)」などの現場を通して、子供たちの変化・成長を検証していき、そこで得られた効果を全国に伝えていきます。そうやって映画による芸術教育が広まれば、家族で映画を観る時間が増えたり、普段観ないような作品を観てみようという行動にも繋がったりするかもしれません。そして子供たちが様々な映画に出会うことで、芸術的な素質を養うことができるので、我々がしっかり、現場で効果的な方法を探り、支援していくことが必要だと考えています。

中学生時代の感覚を大切に記録して

メディア芸術分野のひとつとして、「映画感想文コンクール」にも非常に意義を感じております。映画を観てどのように感じたのかを考え、言葉にすることは感受性を養うことにも繋がります。例えば、人の弱さや強さを描いている作品を見て「そのままの自分でいいんだ」というような考え方ができるようになるかもしれないし、ヒーロー映画を見て、勇気づけられるということもあるかもしれません。そんな気持ちの変化が生じ、それを言葉にすることによって子供たちの抱える問題も減っていくなど、子供たち全体に良い効果をもたらすことができるのではないかと期待しています。

※2019年度から文化庁の「文化芸術による子供育成総合事業<巡回公演事業>」に採択され、小中学校等においてワークショップ等を実施予定。