低予算で効果的な恐怖映画を製作することに長けていた名プロデューサー、ヴァル・リュートンがもう少し長命だったら、ハリウッドの歴史は変わっていたかもしれません。ハリウッドのメジャースタジオの一つRKOでかくも斬新な実験を行ったリュートン。高価な特殊撮影にたよらず、カメラやライティングあるいはロケーションを駆使しての“怖い雰囲気作り”を考案。こうした創意工夫の精神がロバート・ワイズ、ジャック・ターナー、マーク・ロブソンら第一線で活躍した映画監督に大きな影響を与えたのです。
この『キャットピープルの呪い』はそのうちのロバート・ワイズ監督の記念すべき監督第一号作品。ドイツ人映画監督ゲンター・フリッチ降板以後、リュートンは『市民ケーン』、『偉大なるアンバーソン家の人々』などの編集主任として才能を発揮していたワイズを起用。たしかに、工夫したカメラアングルや状況設定のたくみさはすでに本編に表れており、これが後に監督自身のトレードマークとなります。
作品自体はホラー・ファンタジーの趣き。それ自体はうまくまとめられています。同じくリュートンが放った前作『キャットピープル』の続編というあつかいなので、そのあたりがこの作品自体のさらなる可能性をいささか狭めてしまっているのが残念。思い切り新しいストーリーを構築して独自な作品ができたのではないかと残念です。また内容的に過去の事件と今回の事件の現場となる怪しい館との連動性が無いのも続編として一つの弱みにはなっています。
しかし、人物描写、空間描写、俳優たちの個性的な演技(特にエイミーに扮した子役アン・カーターの演技は素晴らしい!)は大変効果的であり、見応えがあります。また、ただのホラーではなく、心温まるファンタジーの要素をも兼ね備えている点もユニークです。お金をかけなくても胸に迫る映像体験を作れることの素晴らしさ。そういった意味でこのような作品から学ぶことも多いのではないでしょうか。