今の若い映画ファンには及びもつかない事かも知れないが、80年代まで、日本映画は、大作と呼ばれたごく一部の映画たちを除いて、2本立てで公開されるのが常であった。
いわゆるプログラムピクチャーとして、数多くの映画が製作された訳だが、前田陽一は、松竹に於いて、プログラムピクチャーの担い手として映画ファンの間には知られた存在であった。
今BOXは、松竹の“あの頃映画”シリーズとしてこの度廉価化再リリースが決まった80年代B級プログラムピクチャーのウエルメイドな傑作「神様がくれた赤ん坊」に同じく初リリースとなった「坊ちゃん」、それに、知る人ぞ知る前田の処女作「にっぽん・ぱらだいす」が収録されたもの。
ファンにとっては、「進めジャガーズ/敵前上陸」や「土佐の一本釣り」も是非加えて欲しかった気もするが、何より「にっぽん・ぱらだいす」が初DVD化されたのが嬉しい処か。
大東亜戦争のニュース・フィルムから始まる今作は、敗戦後焼け野原のなった日本に於いて、赤線地帯と呼ばれる売春宿で生き続ける女性たちの姿をユーモアたっぷりに活写した作品で、ラストの、売春禁止法施行と共に、彼女たちがちりじりになって旅立っていく様までを描いた前田喜劇の原点と呼べる作品。
かって大量に量産され消えていった名もなき映画たちへの郷愁を感じる方や、山田洋次や野村芳太郎だけではない松竹の職人監督の仕事ぶりを確認する上では貴重なBOX集と言えるが、残念なのがその価格。
今回、前述の2作品が廉価化され発売される事を考えると、この価格は如何にも高い。
仮に、「にっぽん・ぱらだいす」もまた、単体リリースをして貰えれば、大枚はたかずとも、幻の快作である今作が、より多くの方々の目に触れる事となるし、当然、3枚を併せれば、6000円でおつりが来るような単価設定も出来た筈。
資料的価値があるブックレイト等も挿入されていないし、ここは、もう少し、購買者の立場に立って頂きたかった。
とは言え、この時代のB級プログラムピクチャーの担い手のBOX集が世に出る事は喜ばしい。
次回は、山根成之にも是非目を向けて欲しいな。
当然、その際リリースして頂きたいのは、郷ひろみと秋吉久美子共演による70年代青春映画の傑作「さらば夏の光よ」と「突然、嵐のように」でお願いしたい。