暦を殺したいほど愛する翼と、翼のために死にたいほど愛する暦。
ぴったりと符合するのに重なり合わないのはなぜなんだろう、忍野メメの心中が察せられる。
猫物語は黒と白があるが、この黒はゴールデンウィーク、つまり戦場ヶ原ひたぎが登場する前のエピソード。
その時点で暦は翼に対して好きだけど恋じゃない、それ以上だと心の整理をつけている。
翼にしてみれば、自分はただの女の子だと思っているし、暦にそう扱ってほしいと願っている。
「しんじゃえ」を重ねていくところでは翼の哀しみの深まりが伝わってくる。
しかし、暦はブラック羽川とのかかわりの中で翼に対して一つの確信を得る。
翼は強すぎる、そして何より問題なのは強すぎることを自覚していない。
ただの女の子を演じ切れていること、そのこと自体が異常だとわかっていない。
そのことへの畏怖が暦に一線を引かせている。
でも、暦自身もただの男を演じるには十二分に怪異なのに、そのことは棚に上げてしまっている。
バランサーとして、忍野メメにしてみれば、何言ってんだか、ということだろう。
その気持ちが彼に暦に翼と結婚して家族になってあげればいいという提案につながる。
それに、それが一番、救いのある解決だった。しかし暦はそれから逃げた。
物語シリーズの本当の出発点はここだ。
パッケージの中のビラに暦物語と終物語のアナウンスメントがあった。
どうやら逃げた先に何があるのかを読める時が近づいたようだ。
さて、恒例の副音声とあとがたり。
副音声はなんと余弦、余接の陰陽師と式神のコンビ。
これがまた、見事なボケと突っ込みで1時間楽しませてくれる。
もちろん、今回も本編は置いてけぼりの雑談トーク。猫物語でこれが一つのテンプレになるのか。
とにかく、おもしろい。音声だけ取り出してウォークマンで聴くと、これが一つの番組として成立している。
電車の中で聴いていると思わずにやついてしまうので要注意。
あとがたりは堀江由衣さんと神谷浩史さん。
この組み合わせは化物語第6巻以来のことだが、なんと、堀江さんはそのことを忘れていたという。
冒頭のこのエピソードでもうこのシリーズも3年になることに今更ながら気付かされる。
内容はとにかく楽しいとだけ書いておこう。
ふと思ったが、北白蛇神社に祭られるべきは忍でもなければ、撫子でもない、ほかならぬ翼なのではないか。
どこにもそんな伏線は見当たらないが、なんとなく、彼女にはそんな哀しい結末が待っているような気がしてならない。