ダグラス・サークのユニバーサル時代の傑作メロドラマ、特に「天はすべて許し給う』改め「天の許し給うものすべて」を主な引用作とし、他にも「悲しみは空の彼方に」等からのエッセンスも加えた意欲作です。
出来はデニス・クエイドの熱演にも関わらず、夫に加えられた設定は少々余計に思え、主役夫婦の年少の子供に対する責任感の無さから二人に対する共感がやや持ち難くなる等、欠点は御座います。
この部分がサーク作品の常連で、クローゼットに入ったスターで有ったロック・ハドソンに対するオマージュで有る事は良く解ったのですが…。
そして、偏見や差別に人々が「気付かず触れず」が当たり前の時代に映画会社や観客が満足する映画にアイロニーを籠め、撮り続けたサークの静かな迫力と手腕には流石の名手へインズ監督も及びません。
但し、人種問題の描写は抑制の効いた素晴らしいラストとジュリアン・ムーアとデニス・ヘイスハートの演技も含め、充分納得が行く内容でした。
聡明で有る筈のジュリアン・ムーアが善意でした事が黒人庭師の生活を滅茶苦茶にしてしまうアイロニーは強烈です。
それでもなおムーアに好意を抱き気遣うヘイスハートには思わず涙が流れました。
特典収録された本作の解析(サンダンスTV製作)が、サーク作品の理解を深める為に、大変役に立ちました。
実はドイツ時代から当時の嵩張るカメラを最大限に動かす事から始まり、ユニバーサルで名手ラッセル・メティと出会った事で己が話法を確立したサークが、登場人物達と同じ軌跡でカメラを動かし、観客に考えさせる長回しを多用し、主題歌とは別に正に場面を盛り上げる為に的確に作曲演奏された音楽を用い、時には滅茶苦茶な脚本を使いながら、それを逆手に取ってどこか心に引っ掛かり何度も観たくなる映画を撮ったかを理解する助けとなりました。
本作に強いインスピレーションを与えたサーク作品はブロードウェイの少々マニアックなBOX収録作と「風と共に散る」以外はキングレコードから2007年に出てプレミアが付いているサークのBOXでしか、現在邦盤は観る事が出来ないのが残念です。
同じくサーク作品「天が許し給うものすべて」のニュー・ジャーマン・シネマの鬼才、R.W.ファスビンダーによる冒険的なリメイク「不安は魂を食いつくす」共々、是非とも求めやすい金額と高画質で再ソフト化して頂きたいと願います。