『イップ・マン 完結』(葉問4:完結篇、英題:Ip Man 4: The Finale )は、2019年のドニー・イェン主演のイップマン・シリーズ4作目。冒頭は、イップマンが弟子のブルースリーにアメリカに会いに行く話で、リーが渡米後に中国武術を教えるにあたって地元の中国人武術家らともめたことや、武闘大会でパフォーマンスを披露したことなど、本作で描かれていることは史実。本作でリーがアクションを見せる部分は、ヌンチャクを使ったファイトも含めて映画「ドラゴンへの道」を彷彿させるものであり楽しい。しかし、本作でのリーの活躍は、この部分で終わってしまう。本作の内容はほとんどがフィクションであるので、ここは、リーとドニー・イェンが共闘して派手なアクションを見せて欲しかったところなのに、共闘シーンはなし。 中盤から後半にかけては、空手が最強と信じるアメリカ軍人とイップマンの対決になるのだが、最大の敵手であるスコット・アドキンスは、前作のマイクタイソンと比べると迫力不足はいなめない。イップマンのアクションは、どのシーンも高いレベルであるが、本作ならではの印象に残るアクションがない。 メッセージ性という点でも、日本の空手より中国のクンフーが優れているという話は、既にブルースリーがドラゴンシリーズで描いていたもので新しいものはなく、空手を代表する人物がアメリカ人であるという本作の設定も弱い(敵対する相手は日本人がふさわしい)。中国人を含むアジア人が歴史的にアメリカで搾取されて、差別されてきたという問題が、後半になって提起されるが、中途半端な描かれ方。差別を描くのであれば、ブルースリーが、売れない俳優時代にアジア人であるがために差別されたシーンを本作に入れるべきであった(たとえばリー自身が考えた「燃えよカンフー」の主役を白人のデビッド・キャラダインにとられた話など)。ちなみに、アジア人差別に怒るリーを描いた作品としてはジェイソン・スコット・リー主演の『ドラゴン/ブルース・リー物語』(1993年)で、「ティファニーで朝食を」に登場するステレオタイプな日本人役を笑いものにするシーンに、同映画を見ていたリーが怒って席を立つシーンがあるが、そうしたものが本作には欲しかった。