最近はこの手のCATVまたはワンコインDVD向けB級作ばかりのティボー・タカクス(タカーチュ・ティボール)。タカクスと言えば「ああ、あの
CG怪獣
ばっかり撮ってる、( ',_ゝ`)プッ…」と、
そういう形
で記憶されている向きも多かろうけれど、やはりB級ホラーながら1990年にアヴォリアッツ映画祭グランプリを受賞した大傑作『
ハードカバー/黒衣の使者
』の鮮烈な印象が未だに残る評者としては、レンタル店でも名前を見かけるとつい借りて観てしまうヒイキ監督。そもそも、我々にはともにDVDスルーという形で接するのが専らのあちらのTVMと劇場公開作、つい同列に並べて良し悪しを語ってしまうが、それは実は正しい鑑賞法にあらずして、作り手にとっても不本意なものがあるかもしれない、と思ったりする。
これは劇場公開された本作、雄弁だが危なげのないカメラ・ワークの他、柔らかい中に主張の明確な色使い(ヒロインの赤い服を中心にした画面構成は模範的)は、パルプ本の毒々しい色彩世界とムードを見事に顕現してみせた『ハードカバー』以来の彼の持ち味。脚本やCGIその他モロモロの粗さ・チープさは如何ともし難いが、タカクスの仕事に限るとこれは匠の筆さばき、脚本・予算等々の条件を同じくして他の若手監督(タカクスは1954年生まれ)がどこまでのものを作れるかと考えると、出色と言っていいのでは。また、いずれの作品でも単に手堅い職人技(くどいが、純粋に演出の部分についてのみ)に終わらず、どこかに「おっ」と思わせる才気を閃かせるのがしばしばというところ、ちょっと旧・大映の
森一生
と重なるものを感じないでもない。案外、(得意とされた母ものにも時代劇にも特にこだわりがあるわけではなかったという)森と同じで題材は何でもいい、映画を撮ってれば幸せというヒトなのかも。将来、隠れた巨匠として再評価されたりするのでは。それよりまだ現役のうちに、心あるプロデューサーが万全のバックアップで思うさまの作品を作らせないものか。
キー・パーソンのネズミ男に『
裸のランチ
』で主人公の作家仲間を演じたマイケル・ゼルニカー。やはりと言うか、さすがの存在感なのが病院長役ロン・パールマン。この人も仕事にこだわらず、皮肉では全くなく立派な役者だと思う(坊主刈りなのは『
ヘルボーイ
』撮入直前のせい?)。言われてみれば確かにネズミ顔のゼルニカー&原人パールマンの顔合わせは水木しげるの漫画みたいでちょっとした迫力。
エンド・クレジットのスタッフ名が「〜ov」で終わる人ばかりでいささか壮観。「???」と思ったら、撮影は(よくあるカナダではなく)全編ブルガリアだそう。ハンガリーやチェコ、ルーマニア等々、東欧は旧・共産圏での撮影作が急激に増えてきたのはここ20年ばかりの間だろうか。いずれ人件費や各種設備(レンタル)費の関係なのだろうけれど。この業界も色々大変ですね…。
追記:…といったレビューを投稿直後、タカクスの『
クラーケンフィールド HAKAISHIN
』(2006年)に脇役で出演の
コリー・モンティース
急逝(2013.7.13)の報が。ちょうど『クラーケン〜』を再見したばかりだったが、しばらく同じ俳優と気が付かず、あれっと思った時は結構ショックを受けた。この種の映画からステップ・アップが始まった矢先にと思うと哀れも深い。いずれにせよ、ご冥福をお祈りします。