TSR−2とかYak−28とか、やたらとマニアックな飛行機が登場したこの作品ですが、今回は名作映画「ライトスタッフ」のオマージュ編になっています。となれば、翼と空が乗り込むのは当然ベルX−1……ではなく、スーパーマリン(ヴィッカース)タイプ559。これは計画だけに終わったイギリス機で、ウィキペディア日本語版にすら紹介ページが無い(海外にはあります)という超絶マイナー機。しかも空中発進の母機になるのがコンベアYB−60という、これまたB−52との競争試作に敗れた日蔭者。マイナー機がマイナー機を翼下に懸架して、どう見てもエドワーズにしか見えない(笑)岐阜基地から離陸するシーンは、どう考えてもギャグにしかならない筈なのに、何故かある種の感動を誘うのです。
この話も「スト・フォー」という作品そのものも、見る人によって大きく評価が分かれると思います。ライトスタッフを観ていない人にとっては翼と空の『ガムあるか?』『一つだけなら』というやりとりも、格納庫に鎮座するF−86セイバーも、モップを折るくだりも意味不明でしょう。見る側に不親切、という指摘はたぶん正しいと思います。
それでも僕がこの話を好きなのは、スタッフの飛行機に対する(いささかパラノイア的な)愛情が、やたらとリアルな空中発進シーンや、溜息が出るほど美しいYB−60のベアメタルから滲み出ているからです。愛情を込めた物というのは、どんな形であれ強い印象を残すものです。
いわゆる『誰もが認める名作』ではありません。でも、何年か経ってふと思い出すアニメというのは、綺麗にまとまった作品よりも、こうした『心にひっかかる』作品なのではないでしょうか。