又吉直樹(ピース)の名言コラム「確かにお前は大器晩成やけど!!」

其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

 昨年、ある番組が僕の休日を買うという企画をやってくれた。
 僕が、ただ行きたい場所に行き、見たいものを見る。
 僕は、何も意識せずに平凡に休日を過ごせば良いだけで、それをスタッフさんがカメラで撮っている。
 一泊二日で行きたい場所を聞かれた僕は迷わず『青森』と言った。青森は僕が尊敬する作家太宰の故郷である。
 その旅は、とても感動的なものになった。
『斜陽館』という太宰の生まれた家では従業員の皆様が大変優しくしてくれた。

従業員「太宰の誕生日、6月19日には、この斜陽館でも色々な催しをやってるんです」

又吉 「そうなんですね」

従業員「又吉さんも、毎年6月19日は東京でイベントされてるんですよね?」

又吉 「はい」

従業員「私も行きたいんです、『マニアックナイト』でしたっけ?」

又吉 「いえ、『太宰ナイト』です」

 という会話が印象的だった。確かに『マニアック』であることは否定できないが、太宰出生の場である斜陽館で働かれていて太宰を愛し作品にも詳しい従業員の方が、『太宰ナイト』を潜在的に『マニアックナイト』と捉えていることが妙におかしくて笑ってしまった。

 斜陽館から三分程離れた場所にある、『旧津島家新座敷(太宰治疎開の家)』にも行った。元々は斜陽館の蔵に隣接して建てられていた。昭和20年、三鷹から金木に疎開した太宰は、ここで暮らし、数々の名作を生んだ。

 昨年、金木を訪ねた際にも『新座敷』には絶対に行きたくて時間の都合上、他の行程をとばしまくりながらも新座敷にはお伺いした。
 新座敷に入ると、ご主人の白川さんが、お客さんに囲まれながら説明をされている途中だったのですが、突然訪問した僕を見るなり、「僕より詳しい人が来ちゃったよ!」とおっしゃった。決して、僕の方が詳しいなんてことは無いのだが、目があって直ぐに出た言葉がそれだったので、温かい人柄が伝わってきて面白かった。

 そんな、青森訪問が昨年のことだ。

 毎年、太宰の誕生日に『太宰ナイト』というイベントを東京で勝手に開催している。ゲストをお招きして太宰の作品について語り合うことを中心に、皆で太宰のクイズをやったり、太宰をお題にして大喜利をやったりしている。

 今年で四回目になるので、今年は太宰の話に終始するのではなく、思春期の頃から太宰を読み続けてきたのだから、特別に太宰を意識せずとも思ったように好きなことをやれば、そこに太宰の要素が出るのではないかということを勝手に思った。
太宰の『芸術ぎらい』というエッセイにこのような言葉がある。

「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります」

 ただ単純に好きなことをやろうと思った背景には、この言葉に背中を押された部分が大きい。
 色々と何かを思いついても、こんなことを実際にやると「奇をてらっている」とか「かっこつけてる」と思われるんじゃないか、という恐怖心から普通の表現に変えてしまうことが多々ある。
 過去にも、ちょっとした絵を描いた時に、「センスあるぶって、こういう絵を描きたがる奴いるよな」と言われたことがあった。僕が最も恐れている類いの言葉である。そんなことを言われるくらいなら下手に描いて馬鹿にされている方が圧倒的に楽だ。

 だが、久しぶりに『芸術ぎらい』を読み、太宰の言葉が心に刺さった。
僕も逃げずに、風車が悪魔に見えたら迷わず悪魔を描こう。そう思ったのだ。
だから、今年の太宰ナイトでは普段は自制するようなコントも恥ずかしがらずに思い切ってやってみた。共演者からは、太宰との共通項が全く見当たらないという指摘もあったが、そのような指摘を受ける部分は多いに太宰的でもあった。とにかく楽しかった。

 そして、今年も青森に行ける機会に恵まれた。青森で大喜利ライヴ、そして太宰ゆかりの地を巡るツアー、そして津軽鉄道の車内で『又吉の世界展』と称し過去に作った、自由律俳句、新・四字熟語などを展示させて貰っている。それのテープカットのための青森訪問だった。
 僕は、「芸術ぎらい」が入っている新潮文庫の『もの思う葦』をポケットに入れて家を出た。
 相変わらず、昨年とは別の斜陽館の従業員の方に、「又吉さん東京で『マニアックナイト』開かれてるんですよね?」と聞かれた。斜陽館では、『太宰ナイト』では無く、『マニアックナイト』で統一されてしまったようだ。新座敷の白川さんもお元気そうで何よりだった。

 斜陽館の近くにある、太宰が幼い頃に通った雲祥寺にも行った。その隣に『靴スポーツ』という看板を出している店があったのだが、ポとツの間の『ー』の色が剥げていたので、『靴スポ ツ』になっていて、とても脱げやすい靴を連想させた。
 そんな脱げやすい靴ばかりを並べている靴屋なんじゃないか? という想像は僕をとても愉快にしたが、「だから、どうした?」とか、「それを発見したのがそんなに嬉しいのか?」とか、「一風変わった発想をすると思われたいのかも知れないが、それほどでもないぞ!」と思われるんじゃないかと思うと誰にも言えなかった。
 まだ僕は、風車が悪魔に見えても風車を書いてしまうようだ。

またよし・なおき

1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。キングオブコント2010準優勝。趣味は散歩と読書。好きな作家は、太宰治、芥川龍之介、古井由吉、中村文則など。著書にコラムニストのせきしろ氏と手がけた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)がある。「ピカルの定理」(フジテレビ)「ハッピーミュージック」(日本テレビ)などにレギュラー出演中。『acteur(アクチュール)』本誌では、大好きな本について語るエッセイ「憂鬱な夜を救ってくれる本といる」が好評連載中!

 バックナンバー

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其ノ十八「すみません!立って良いですか?」(真心ブラザーズさんと開催したライブの観客の一人)

其ノ十七「又吉! サボるな!」(三ツ沢球技場サポーター)

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其ノ九「風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。」(太宰治)

其ノ八「お~れもっ!」

其ノ七「ほらっ、マニアックナイト!」

其ノ六「昔はラッパー! 今は蕎麦屋でネギをタッパーにつめてます! ハハッ!」

其ノ五「本気で信じてないと……」

其ノ四「スミマセン……夏休ミ香港帰レマスカ?」

其の三「……面白すぎるんじゃないの?」

其の二「ジープって、やっぱり進駐軍?」

其ノ一「笑わんといてな……。俺、大阪城に住みたいねん」

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